datafile01-20020214 国立市「大学通り」マンション訴訟

東京地方裁判所民事第3部 平成14年2月14日判決言渡し
裁判官 藤山 雅行(裁判長)、村田 斉志、廣澤 諭

 

平成12年(行ウ)第45号、同第55号、平成13年(行ウ)第98号 条例無効確認等請求事件

東京地裁判決の要旨


原告  明和地所株式会社      
被告  国立市及び国立市長上原公子
被告ら補助参加人 学枚法人桐朋学園ほか7名

 主   文

1 原告の被告国立市長に対する訴えをいずれも却下する。

2 被告国立市は、原告に対し4億円及びうち3億5000万円に対する平成12年2月1日から、うち5000万円に対する平成13年3月6日から、いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3 原告の被告国立市に対するその余の請求のうち、金員請求に関する部分を棄却し、その余の請求に係る訴えをいずれも却下する。

4 訴訟費用は、原告に生じた費用のうち、補助参加に対する異議申出によって生じた費用は原告の負担とし、その余は被告らの負担とし、被告ら及び補助参加人らに生じた費用は、それぞれ各自の負担とする。

事実及び理由

第1 請求の趣旨

1 平成12年(行ウ)第45号、同第55号 条例無効確認請求事件

(1) (主位的請求として)被告国立市及び国立市長が平成12年1月24日付けで告示した「中三丁目地区地区計画」(以下「本件地区計画」という。)並びに同年2月1日付けで公布施行した「国立市地区計画の区域内における建築物の制限に関する条例の一部を改正する条例」(平成12年国立市条例第1号。以下「本件建築条例」という。)のうち、建築物の高さの最高限度を20メートルとする部分はいずれも無効であることを確認する。

(2) (予備的請求として)本件地区計画、及び本件建築条例のうち建築物の高さの最高限度を20メートルとする部分をいずれも取り消す。

2 平成13年(行ウ)第98号 損害賠償請求事件(追加的併合事件)

(1) 被告国立市は、原告に対し、4億円及びこれに対する平成12年2月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告国立市長が平成12年2月1日付けでした本件建築条例の公布行為が無効であることを確認する。

(3) 被告国立市長が平成12年2月1日付けでした本件建築条例の公布行為を取り消す。

第2 事案の概要

 被告国立市が都市計画法20条に基づき平成12年1月24日付けで告示した本件地区計画及び被告国立市長が建築基準法68条の2に基づく建築物の制限に関する条例として同年2月1日付けで公布した本件建築条例のうち、建築物の高さの最高限度を20メートルとする部分が、原告のマンション建築計画を妨害する意図でされた点等において違法なものであるとして、@被告国立市及び国立市長に対し、それぞれ抗告訴訟として本件地区計画及び本件条例の無効確認又は取消しを求めるとともに、予備的に当事者訴訟(行政事件訴訟法4条)又は無名抗告訴訟としての無効確認を求め、A被告国立市に対しては、本件地区計画の決定及び本件条例の制定により原告は損害を被ったとして、原告所有不動産の価値下落分少なくとも4億円のうち3億5000万円及び信用毀損(被告らが議会での発言やマスコミ報道により原告のマンションが違法建築となった旨宣伝したことにより原告の信用が毀損されたとするもの)による損害1億円のうち5000万円の合計4億円の損害賠償金及びこれに対する平成12年2月1日から民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し、さらに被告国立市長に対して、本件条例の公布行為の無効確認又は取消しを求める事案である。

第3 裁判所の主要な判断事項

1 本件地区計画並びに本件建築条例及びその公布行為の無効確認又は取消しを求める部分に係る訴えの適法性

(1) 抗告訴訟の対象となる行政処分とは、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。しかし、地区計画が定められたのみでは対象地の土地所有者等に行為規制が課せられるものではなく、地区整備計画が定められた場合においても、地区計画が当該区域内の個人に対する具体的権利侵害を伴う行政処分であるということはできない。

 建築基準法68条の2に基づき、地区計画の内容として定められたものを必要に応じ市町村の条例でこれらに関する制限として定めた場合は、同条例に基づく処分等により当該区域内の個人に対する具体的な権利義務の変動が生じた場合に同処分等を問題とすれば足り、地区計画自体を行政処分として抗告訴訟の対象とする必要はない。この点において、地区計画決定の段階では未だ訴訟事件として取り上げるに足りるだけの事件の成熟性を欠くものともいうことができる。

 本件においても、原告の主張する建築物の高さの制限は、本件地区計画自体により直接生じたものではなく、本件建築条例により生じたものであるから、原告が直接本件地区計画によって具体的な権利侵害を受けたものとは認められない。よって、本件地区計画については、抗告訴訟の対象となる処分性を有する行為とは認められないから、本件地区計画の無効確認又は取消しを求める部分に係る訴えは、その被告適格を検討するまでもなく、いずれも不適法な訴えである。

(2) 本件建築条例の無効確認又は取消しを求める部分に係る訴えについては、いずれも具体的争訟性を欠き、不適法なものである。すなわち、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られ、このような具体的な紛争を離れて、裁判所に対して抽象的に法令の有効・無効の判断を求めることはできないのであるから、具体的争訟性を欠く訴えは不適法といわざるを得ないのである。

 その訴訟形態が法定の抗告訴訟又はいわゆる無名抗告訴訟であるか公法上の当事者訴訟であるかを問わず、法令違反の結果として将来なんらかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけで、その処分権限の発動を差し止めるため事前にその前提となる法令の効力の有無の確定を求めることが当然に許されるわけではなく、当該法令によつて侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度、違反に対する制裁としての不利益処分の確実性及びその内容又は性質等に照らし、同処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に当該法令の効力を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、あらかじめ当該法令の効力の有無の確定を求める法律上の利益を認めることはできないものと解すべきである。

 これを本件についてみるに、本件建物の建築に対して本件条例が適用され、本件建物がいわゆる違法建築となる場合には、これに対して建築基準法9条1項に基づく是正命令権限が行使された際に、同権限の発動としてされた処分の効力を争う中で本件条例の効力を問題とすれば足り、また、本件建物については既存建物として直接には本件条例の適用がない場合であっても、将来における本件建物の建替え等の際に、建築確認申請等に対する拒否処分がされれば、その効力を争う中で本件条例の効力を問題とすれば足りる。しかも、本件においては、現段階において是正命令権限の行使がされることが確実であるとは認められず、その他、原告が不利益処分を待って本件条例の効力を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情の存在は、いまだこれを見出すことができない。むしろ、原告が被告国立市に対して併合提起している損害賠償請求によって、その経済的不利益は補填されるものと考えることができるのであるから、あえて現時点において本件条例の無効を確定させる必要はないというべきである。

 本件条例の無効確認又は取消しを求める部分に係る訴えについては、その訴訟形態を問わず、訴えの利益を欠くものというほかない。

(3) 請求が、本件条例の制定行為とは別個に公布行為そのものを独立の行政処分と捉え、当該公布行為のみの取消しを求める趣旨であるとすれば、訴えは不適法なものといわざるを得ない。すなわち、条例は、議会の議決によって成立するものであり、その成立した条例の内容を住民に知らせるための表示行為が条例の公布であって、これにより条例は住民に対し現実にその拘束力を発動させることとなるが、条例の公布行為自体は、既に一定の内容をもって成立している条例を周知させるために外部に表示する行為であって、条例の制定行為に対する付随的なものにすぎないから、条例の公布行為のみを捉えて、これを抗告訴訟の対象とすることはできない。また、公布処分を条例の制定行為として捉えた上で、本件条例そのものの効力を争う目的であると解するにしても、本件条例そのものの無効確認又は取消しを求める訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものである。したがって、本件条例の公布行為の無効確認又は取消しを求める訴えは、いずれにしても不適法である。

(4) よって、本件地区計画並びに本件建築条例及びその公布行為の無効確認又は取消しを求める訴えはいずれも不適法なものであって、却下を免れず、したがって、本件地区計画等の適法性・有効性に係る争点については判断の要をみない。

3 被告国立市の責任原因

(1) 本件地区計画の決定及び本件建築条例の制定は、本件建物の建築計画を阻止するためにされたものであることは明らかである。被告国立市長がこのような挙に出たのは、大学通り周辺の景観を維持することを目的とするものであり、このことのみに着目すると、多くの国立市民の共感に支えられた行動とみることができる。また、良好な景観をできる限り保持することが望ましいことについては一般的かつ抽象的には多くの国民が共通して認めるところであると思われる上、平成9年12月19日の国立市都市景観形成審議会の被告国立市長に対する答申においては、すぐれた景観を守り、さらに育てるためには、景観資源となる建物や並木と調和した町並みが形成されるよう、都市計画を適切に行うことが是非とも必要であるとの指摘がされたことからすれば、被告国立市長の前記行動は、このような一般的理解及び審議会答申に沿うべく努力したものとの評価もできないではない。

 しかしながら、保持することが望ましい良好な景観が具体的にどのようなものを意味するかについては、いまだ国民の間に共通の理解が存するとはいい難いし、まして、具体的な法令上の規制がない場合にまで、景観の保持の観点から私有財産権の行使が制約されるとの考え方は一般的なものとはいい難い。したがって、景観保持の観点から新たな法的規制をする際には、その規制内容が適正なものか否かに加えて、その規制が既存の権利者にいかなる影響を及ぼすものかを慎重に検討することが必要である。建築基準法68条の2に基づく条例を制定するに当たっては、同条2項が当該区域内における土地利用の状況を考慮要素の一つとしていることからも導けることであるが、取り分け景観保持を目的とする規制については、このことが強く要請されるものと考えられるのである。

 このような観点からすると、本件地区計画の決定及び本件条例の制定は、本件土地についての既存の権利者である原告が高層マンション建築のために多額の投資をしている点を無視しているばかりか、その行動を積極的に妨げようとしている点において、景観の保持の必要性を過大視するあまり、既存の権利者の利益を違法に侵害したものというほかない。

 また、行政の一貫性という観点から検討するに、本件土地を含む一画は、昭和45年の建築基準法改正により建築物の高さ制限が撤廃され高層の建物が建築される可能性が生じたにもかかわらず、建築物の高さに関する規制が定められないまま放置され、特に、平成8年6月に東京都が行った都市計画決定により、その北側に隣接する大学通り沿いの土地が第一種低層住居専用地域として建築物の高さに関する厳しい規制が課されたにもかかわらず、これとは区別され、大学通り沿道では本件土地だけが文教地区に指定されていなかった上、第二種中高層住居専用地域として、容積率の範囲内で高層マンションを建築することがむしろ推奨されるべき地域とされていたのである。

 このような状況に照らすと、本件土地は、中高層マンション(中高層という語が何階程度までの建物を意味するかについては、法律上の定義は見当たらないが、常識的にみて、4ないし5階から14ないし15階程度をいうものと理解できる)の適地とされ、建物の高さ制限もされていなかったのであるから、原告が容積率の許す限りの高さの分譲用マンションの用地としてこれを取得することは、不動産売買業を営む者として無理からぬものであり、既に用地取得などに多額の支出をしている以上、所期の目的に沿った建物を建築することもまた法的に保護されるべき行為というべきである。

 他方、被告国立市長は、本件土地における建築物の高さの制限をすることなく放置していたばかりか、むしろ高さの制限とは相容れない都市計画が定められていたにもかかわらず、原告の本件建物の建築計画を知るや、にわかに、行政指導においてこれを阻止しようとし、指導要綱を改正してまで原告に対する指導を重ね、しかも、その行政指導の過程においては、原告が被告らが許容する建築物の具体的な高さの明示を求めたにもかかわらず、当時既に本件地区計画の決定も対応案として検討されていたのに、大学通りの景観に調和するよう計画を見直すようにといった程度の応答に終始し、妥当と考える建物の高さを具体的には示さず、また、地区計画や条例による制限があり得ることをも示唆しなかった上、そうした行政指導が功を奏しないとなるや、原告が既に高さ20メートルを超えるマンションを建築する目的で巨額の費用を投じて本件土地を取得し、具体的に建築計画を進め、本件建物の建築のための工事を始めていることを熟知していながら、本件地区計画の決定をし、さらには本件条例を制定したものと認められる。

 以上のような被告らの一連の行動は、それ以前における自らの不作為はもとより、東京都の定めた都市計画の内容とも相容れない点において、行政の一貫性を欠くとともに、原告のそれまでの行政規制への信頼を裏切っている点で、自らの行政庁又は地方公共団体としての責務の懈怠により生じた事態の責任を、何ら違法な行為をしていない原告に転嫁するに等しい行為をしたものということができるし、原告が既に多額の投資をして本件建物の建築に着手しようとしていることを無視し、かつその行動を妨げようとした点において、建築基準法68条の2第2項が定める考慮要素を考慮しなかった違法があるというべきであり、これらの行為により原告の権利を侵害したことにつき、不法行為の責めを免れることはできないものといわざるを得ない。

(2) 被告国立市長は、国立市議会での一般質問に対する答弁において、被告国立市長の認識として原告の建設している本件建物が違法建築である旨を発言し、さらに、東京都知事等に対して、本件建物のうち高さが20メートルを超える部分について電気・ガス・水道の供給の承諾が留保されるように働きかけ、これが報道されたことにより、原告が違法建築をしたとの認識を広く第三者に知らしめたのであるから、これらの発言等により、原告の社会的評価が低下し、その社会的信用が毀損されたことは明らかである。

 被告国立市長は、東京高裁決定を引用するなどしてこれを根拠としているが、引用に係る部分は単なる理由中の判断であって何ら法的拘束力を有するものではない。したがって、この段階では原告の行為が違法建築に当たるとの公権的な判断がされたわけではないのであるから、公的地位にある者が、あたかもそれがされたかのような言動を行うことは、広く第三者に誤った認識を与える点において違法な行為といわざるを得ない。しかも、東京高裁決定に係る事件は、違反建築であるか否かにつき判断権限を有する東京都多摩西部建築指導事務所長を当事者とする事件についてのものではないから、当事者による適切な主張立証活動を経たものか否かも不確実といわざるを得ないし、抗告人らに受忍限度を超える損害が生じているとは認められないことを理由として仮処分申請を認めなかったのであるから、同事件において判断を下す上で必ずしも必要のなかった点について一応の判断を示した、いわゆる傍論にすぎない。また、東京都の特定行政庁は、別件訴訟においても判決を不服として控訴の上これを争っていることからすれば、東京高裁決定において判断が示されたからといって、公的地位にある者としては、これを無条件で引用することを差し控え、いまだ法的拘束力がないものであることや、これまでの行政実例とは異なる判断であることなどを指摘するなどした上で引用すべきであって、これに全面的に依拠した言動を行うことは著しく慎重さを欠くものであり、正当化することはできない。

 被告国立市長の国立市議会での発言は、公開の審議においてされた発言である。また、東京都知事等に対する電気・ガス・水道の供給の承諾留保の要請についても、これが報道され、広く不特定多数の者の知るところとなることは認識していたか又は容易に認識し得たものということができるから、被告国立市長は、これらの言動により原告の社会的信用を毀損することにつき、少なくとも過失があったものと認められる。

(3) 本件地区計画の決定及び本件条例の制定につき、被告国立市長及び国立市議会において本件条例の可決をした議員が、原告の権利を侵害することを認識しかつ認容していたことは明らかであり、被告国立市長らには原告の権利を侵害することの故意があったものということができ、また、信用毀損行為につき、被告国立市長には少なくとも過失があったことは明らかであるから、被告国立市は、原告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、これらの行為により原告が被った損害の賠償をすべき義務があるというほかない。

4 原告の損害について

(1) 本件地区計画の決定及び本件条例の制定による損害について  原告は、本件土地上に建物を新築する際には建物の絶対高さの制限を受けることとなって、これにより本件土地の最有効活用が法律上制限され、その意味において本件土地の所有権を侵害されたものと認められる。本件建物が存続する限りにおいては、本件土地は上記の制限を受けずに活用されていると考えられるから、上記の制限は本件建物の耐用年数の経過した時点で初めて顕在化するものではあるが、土地の評価は将来的な利用可能性の範囲の広狭により大きく左右されるものであるから、こうした将来の最有効活用が妨げられることとなったことによって、現時点における本件土地の評価が低下していることは明らかであり、原告には現実にこうした損害が発生しているものということができる。

 本件においては、本件地区計画の決定及び本件条例の制定により原告が被った損害の評価について、不動産鑑定士(2者)の鑑定はいずれも原告の損害を認めて、その評価を行い、原告の損害額を4億2922万7000円、3億900万円としている。前者の鑑定により合理性が認められ、被告らにおいて、これらの鑑定に対して何らの反証もしていないことをも踏まえると、本件地区計画の決定及び本件条例の制定により本件建物が既存不適格となることによって本件土地の評価が低下して原告が被る損害の額の算定は、前者の鑑定によるべきである。そして、同鑑定によると、本件土地に再建築可能な建物は、本件建物に対し占有床面積で20パーセント少なく、販売単価では9パーセント下回り、平成12年3月20日時点で本件建物及びその敷地の価格が212億6300万4000円であるのに対し、再建築可能建物及びその敷地の価格は163億4067万5000円で、その差額は49億2232万9000円となり、本件建物の耐用年数を50年として50年後に同額に相当する不利益が現実化するものとし、年利5パーセントの複利計算で現在価格に引き直すと、減価額は4億2922万7000円となるから、本件建物が既存不適格建築物となったことによって原告が被った損害の額は4億円を下らないものと認めるのが相当である。

 なお、本件は、東京高裁決定が、その高さの点において本件建築制限条例に違反していて建築基準法に適合しない建物に当たると判断しており、さらに、別件訴訟における第1審判決も同様の判断を理由中において示していることからすれば、本件建物は違法となり得るものであり、その場合には、原告の被る損害は、本件建物がその耐用年数を全うするまで適法に使用できることを前提とする既存不適格化による損害の額を大きく上回ることは明らかであり、また、本件建物が違法建築物となるとしても、被告らの行為が正当化されるものでもなく、被告国立市は原告に対してその損害を賠償すべきものであることには変わりがないから、本件建物の建築が本件条例に違反するものであっても、少なくとも上記損害額を原告が被告に対して請求できることは明らかである。

 また、本件地区計画及び本件建築条例がいずれも違法無効なものであると、客観的には本件土地の利用は何ら制約を受けないものとなるが、これらの定めが取り消されることなく現に存在している以上は、市場においてはこれらが有効な場合もあることを前提とした評価がされることも避けられず、結局、本件土地の現在の市場価格は、これらの定めが有効な場合と異ならないものと考えられる。したがって、原告は、これらの定めが客観的にみて違法無効な場合にも上記損害額を請求できるというべきである。

(2) 信用毀損による損害について、原告は、その社会的信用を低下させられた上、本件建物の販売活動においても、事実関係の説明を余儀なくされ、これにより、顧客が不安感や不利益を感じたことは容易に推認されるところであり、これに加えて、信用毀損行為が被告国立市長を中心とする公人により行われたこと、本件建物の販売計画に大幅な遅れを生じ、これにより少なからぬ損害が発生していて、その額は、証拠によると約8000万円に上るものとされていることなどの諸事情を考慮すれば、被告らによる信用毀損行為により原告が被った無形損害の金銭的評価は5000万円を下らないものと認められる。

(3) よって、原告は、被告国立市に対し、@本件地区計画の決定及び本件条例の制定により、本件建物が既存不適格建築物となったことによる損害として3億5000万円、A被告らによる信用毀損行為により被った損害として5000万円の合計金4億円の損害賠償金、及び@の損害に対する不法行為の日以後である平成12年2月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払の請求はいずれも理由があるというべきである。しかしながら、Aの損害は、平成13年3月6日の国立市議会での被告国立市長の答弁において原告が本件建物を違法に建築している旨の被告国立市長自身の認識を述べた時点で発生したものということができる。したがって、上記Aの損害賠償額5000万円に対する遅延損害金は同日から発生しているものとするのが相当である。