TOPへ
すずめのさんぽ | あひるのわたり | ざっつえんたー天めんと | About Us
TOP すずめのさんぽ 2008年 8月22日
 「UNKNOWN(アンノン)」もしくは「アンノウン」
 古処誠二の「アンノウン」を読んだ。
「不肖・宮嶋が推薦していた自衛隊を舞台にしたミステリーだなー」という曖昧な記憶を元に何となく買った。

 …しまった、なんでこんな端正なミステリーを見逃していたんだろう。最初に出版されたの2000年ではないか。アンテナの感度が低い自分にがっくり。
 そして、この作者のミステリー作品は、最初の三作品(短編をいれると四か?)しかないことを知って二度がっくり。

 航空自衛隊のレーダー基地で、侵入不可能なはずの部屋に盗聴器を仕掛けられた。犯人は誰か、そしてなぜかという謎を、防衛部調査班所属のエリート幹部にして防諜のエキスパート朝香二尉とレーダー基地所属のノンキャリア野上三曹が追う、というだけの話である。メフィスト賞受賞作なのに本が薄くて、殺人事件が起こらない。
 しかし、探偵役の朝香二尉の愛嬌ある切れ者ぶり、野上三曹ユーモアある軽妙語り口、そして自衛隊という近くて遠い世界を巧みに物語に織り込んでいることで、なまじのミステリーよりも楽しめた。自衛隊という重いテーマを扱いながら説教くさくないところも良い。

 ネットで書評を読んで、講談社ノベルズ版の「UNKNOWN(アンノン)」と文春文庫版の「アンノウン」はかなり違いがあると知ったので、ノベルズ版を取り寄せて読んでみた。
 少々マンガチックだなと思った描写がかなりの部分そぎ落とされており、かなり硬質な文体に変わっている。
 個人的には「UNKNOWN」の軽妙な文章の方が好きだが、作者としては「若い」文章は抵抗があったのだろう。
 それと「UNKNOWN」の読み方を「アンノン」から「アンノウン」に変えたのは何故なのだろう。「アンノウン」の方が英語の発音に近い表記だが、自衛隊では「アンノン」って言っていると思うので(発音しやすいから)、そのまま押し通しても良かったと思うのだが。指摘されるのが嫌になったのか。

 現在、古処氏は太平洋戦争末期を舞台とした小説を書いているのだが、この自衛隊シリーズ(というのか?)の他の2編(長編「未完成」と短編「95年の衝動」)に早くもその萌芽が現れているのを見ると、氏が真に書きたかったのはそちらだったのだな、と察せられる。
 メフィスト賞でデビューしたばかりに、書店でミステリーのコーナーに置かれがちなのが、ちょっと気の毒な気もする。


 ◇古処誠二「UNKNOWN(アンノン)」,講談社,講談社ノベルズ
 ◇古処誠二「アンノウン」文藝春秋社,文春文庫
 ◇古処誠二「未完成」,講談社,講談社ノベルズ
 ◇古処誠二「95年の衝動」,アンソロジー「トリック・ミュージアム」所収,講談社,講談社文庫