■意見
秋田県青少年の健全育成と環境浄化に関する条例をめぐる諸問題の解決にむけて
【はじめに】
秋田県による『完全自殺マニュアル』(鶴見済、1993年)の個別指定は、現行の「秋田県青少年の健全育成と環境浄化に関する条例」を著しく逸脱したものです。いまさら「自殺」を明記して辻つまをあわせるより、現行条例に沿った審査基準の作成と公開、指定に至った経緯の説明、そして秋田県青少年環境浄化審議会の透明性確保など"逸脱指定"防止対策こそ必要です。
【審査基準の公開と改善】
秋田県は1999年に個別指定した『完全自殺マニュアル』について、「条例中に自殺が明記されていなくても、解釈は人それぞれ。私どもの諮問に対して審議会が判断して指定を決めた」と説明しています(1)。そして2003年に秋田県が行った「『有害図書類等の規制』についての意見募集」の回答には、「基準に沿った指定を行っており、その濫用は行っていない」とありました(2)。
これらの説明・回答から判断すると、条例を無視する形で審査基準が存在し、審議会によるチェックも機能しなかったことは明らかです。「見直しの方向」には今更のように、個別指定要件などへ「自殺」を追加する案が示されています。秋田県がすべきなのは辻つまあわせではありません。現在の審査基準を公開するとともに、現行条例に沿った審査基準を新たに作成・公開すべきです。
【逸脱指定の説明を】
一方、『完全自殺マニュアル』の諮問を見送った東京都では、青少年健全育成審議会の委員が「秋田県では同趣旨の条文で有害指定をしているのですが、条例の解釈を著しく逸脱し、憲法31条あるいは刑法の罪刑法定主義に反する解釈は認められない。東京都では指定しないし、指定できないということです」と話しています(3)。この指摘に対する秋田県の考えを示すべきです。
また、大阪府では、青少年問題協議会が指定要件に「自殺」「犯罪」を追加すべきか検討したところ、「犯罪の方法を詳細に記した図書類と自殺の方法を詳細に記した図書類とでは、委員の中でも意見が異なった。犯罪の方法を詳細に記した図書類と比べて、自殺の方法を詳細に記した図書類が直接自殺に結びつくとも言い難い」(4)などの意見があり、「自殺」の追加は見送られています。
大阪府の条文も秋田県と同趣旨であったことを考えると、規制強化の前にすべきことは明らかです。秋田県は条例の解釈を著しく逸脱して『完全自殺マニュアル』を指定した経緯を説明し、「自殺の方法を詳細に記した図書類が直接自殺に結びつくとも言い難い」という意見にも回答すべきです。現行条例を無視しておきながら、指定要件を追加するなどもってのほかです。
【求められる透明性】
本来、逸脱指定を防止するのは秋田県青少年環境浄化審議会の仕事です。その役割が果たせていない以上、審議会の運営改善が求められます。とくに秋田県青少年環境浄化審議会の透明性はきわめて低く、県ホームページで公開されているのは開催日時、開催場所、出席委員の数、そして指定結果の4つのみ。審議会のメンバーや議論の様子はまったくわかりません。
審議会等の運営改善を目的に1999年に閣議決定された「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」では、国の審議会等について「会議又は議事録を速やかに公開することを原則とし、議事内容の透明性を確保する」とあるほか、議事録等を「一般のアクセスが可能なデータベースやコンピュータ・ネットワークへの掲載に努めるものとする」と、具体的な公開方法が示されています(5)。
また、経済産業省が設置した「青少年の健全な育成のためのコンテンツ流通研究会」は2006年4月にまとめた報告書で、地方自治対に対し「条例に基づく有害図書類の指定にあたっては、引き続き、指定基準の明確化及び審査会の透明性確保に努める」ことなどを要望しています(6)。秋田県は委員名簿、議事録、会議資料の3つを県ホームページで公開し、審議会の透明性を確保すべきです。
【おわりに】
秋田県は@指定要件の追加を見送って審査基準を公開するとともに、現行条例に沿った新たな審査基準を作成・公開すべきです。また、A『完全自殺マニュアル』を指定した経緯を説明し、B「条例の解釈を著しく逸脱し、憲法31条あるいは刑法の罪刑法定主義に反する解釈は認められない」、C「自殺の方法を詳細に記した図書類が直接自殺に結びつくとも言い難い」という意見に回答すべきです。
さらに、逸脱指定を防げなかった秋田県青少年環境浄化審議会の運営改善が必要です。とくにD審議会の透明性を確保するために、委員名簿、議事録、会議資料の3つを県ホームページで公開すべきです。現行条例を無視しておきながら、今になって指定要件を追加し、辻つまをあわせるなどとんでもないことです。逸脱指定の再発防止対策こそ必要です。
【注】
(1)長岡義幸「『完全自殺マニュアル』拡大する規制の動き」『創』第29巻第11号(1999年)、99頁
(2)秋田県が2003年に公表した「『有害図書類等の規制』についての意見募集結果について」には、「個別指定の審議は、審査基準を設け秋田県環境浄化審議会において審議しておりますので、基準に沿った指定を行っており、その濫用は行っていないと考えます。また、包括指定についても、明確な基準を設け、誰もが客観的に有害図書類等と判断できる条例としておりますので解釈の濫用にわたることがないものと考えております」という県の考えが示されています。
(3)清水英夫「図書規制強化をめぐる最近の動き」『創』第29巻第10号(1999年)、29-30頁
(4)「大阪府青少年問題協議会会議要旨(平成14年11月20日)」
(5)「審議会等の整理合理化に関する基本的計画」では、審議会等の運営を改善するために、「審議会等の運営に関する指針」が定められました。この指針では、議事録などの公開について次のように規定しています。
(4) 公開 1 審議会等の委員の氏名等については、あらかじめ又は事後速やかに公表する。 2 会議又は議事録を速やかに公開することを原則とし、議事内容の透明性を確保する。なお、特段の理由により会議及び議事録を非公開とする場合には、その理由を明示するとともに、議事要旨を公開するものとする。
ただし、行政処分、不服審査、試験等に関する事務を行う審議会等で、会議、議事録又は議事要旨を公開することにより当事者又は第三者の権利、利益や公共の利益を害するおそれがある場合は会議、議事録又は議事要旨の全部又は一部を非公開とすることができる。3 議事録及び議事要旨の公開に当たっては、所管府省において一般の閲覧、複写が可能な一括窓口を設けるとともに、一般のアクセスが可能なデータベースやコンピュータ・ネットワークへの掲載に努めるものとする。 (6)「青少年の健全な育成のためのコンテンツ流通研究会報告書について」
http://www.meti.go.jp/press/20060418003/20060418003.html
【公表方法についての要望】
この意見に対する回答を公表するにあたっては、
@指定要件の追加を見送って現在の審査基準を公開するとともに、現行条例に沿った新たな審査基準を作成・公開すべきである。
A条例の解釈を著しく逸脱して『完全自殺マニュアル』を指定した経緯を説明すべきである。
B『完全自殺マニュアル』の指定に対する東京都青少年健全育成審議会委員の「秋田県では同趣旨の条文で有害指定をしているのですが、条例の解釈を著しく逸脱し、憲法31条あるいは刑法の罪刑法定主義に反する解釈は認められない。東京都では指定しないし、指定できないということです」という指摘について、県の考えを示すべきである。
C指定要件の追加に対する大阪府青少年問題協議会委員の「犯罪の方法を詳細に記した図書類と自殺の方法を詳細に記した図書類とでは、委員の中でも意見が異なった。犯罪の方法を詳細に記した図書類と比べて、自殺の方法を詳細に記した図書類が直接自殺に結びつくとも言い難い」という意見について、県の考えを示すべきである。
D秋田県青少年環境浄化審議会審議会の透明性を確保するために、委員名簿、議事録、会議資料の3つを県ホームページで公開すべきである。
の5項目について、それぞれ「県の考え方」を示していただけるようお願いします。