東京都青少年条例騒動の歴史


2000年:宝島社裁判と帯紙措置

【1.訴訟に至った背景】

 宝島社は雑誌『DOS/V user』『遊ぶインターネット』に対する「不健全」指定の取消しを求め2000年11月29日、東京都を提訴した。両誌は同年9月、10月に東京都で指定されており、11月24日の東京都青少年健全育成審議会では3回(3号)連続となる指定が決まっていた。同審議会で連続3回または年通算5回指定された雑誌類は、次号から18禁の帯紙を付けなければならない帯紙措置の対象となる。宝島社はこの措置の対象となったことを受け、訴訟に踏み切ったのである。

 ただし、帯紙措置は青少年条例に基づく規制ではなく、出版倫理協議会の自主規制である。それにも係らず宝島社が東京都を訴えたのは「被告は、連続3回指定という処分が、当該雑誌の廃刊につながる事実を十分に認識しつつ、それを前提として出版社に対し次号以降の雑誌の内容を規制している」(準備書面より)と考えたからだろう。しかし、その後の裁判では帯紙措置の廃刊効果は認められたものの、東京都の目的が指定図書の廃刊にあるとの主張は退けられている。(つづく)

帯紙措置に関する裁判所の判断

東京地裁 2003年9月25日判決より抜粋
「同条例自体が関係業者による自主規制を前提としているのであるから、都の担当者が上記出版倫理協議会の自主規制の存在及び内容を知っているのは、その職責に照らすと当然というべきであって、これだけで直ちに、被告において、連続3回指定された雑誌について、次号以降の雑誌の内容を規制する意図のもとに不健全な図書類の指定をしているなどと認めることはできない」
「原告は、不健全な図書類に指定された場合には、取次業者やコンビニエンスストアなどが当該指定図書類を扱わなくなる旨指摘するが、これは自主規制ないしコンビニエンスストアなどの自主的判断によるものであって、上記指定の効果とはいえない」
「都青少年条例自体が関係業者による自主規制を前提としており、都の担当者が上記自主規制の存在及び内容を認識しているのは、その職責上当然であることも、前述したとおりであり、これだけで直ちに、本件各指定が青少年の健全な育成を図るという目的(同条例1条)にとどまらず、上記各雑誌を流通市場から排除することを目的としてされたものであると認めることは困難である」

東京高裁 2004年6月30日判決より抜粋
「3回の連続指定を受けると、上記自主規制制度により、対象となった図書類は販売方法が大幅な制約を受け、その結果、発行者において採算がとれないことになり、当該図書類が廃刊に追いやられたりする可能性が存することも認められる」
「都青少年条例は、原則的に出版業界の自主規制を尊重し、それと協働することにより青少年の健全育成目的を達成することを目していることが認められるから、控訴人が3回指定による事実上の廃刊が生ずることについて認識していること自体をもって不自然であるとは認められない」
「本件自主規制は、出版倫理協議会を構成する社団法人日本出版取次協会、社団法人日本書籍出版協会、社団法人日本雑誌協会及び日本出版物小売業組合連合会(現 日本書店商業組合連合会)が申し合わせたものであり、被控訴人が出版倫理協議会及びその会員を支配し、あるいはこれを被控訴人の影響下において自主規制を運用させているような事実を認めるに足りる証拠は存在せず、他に、ことさら被控訴人が指定図書を廃刊させることを意図して不健全図書類の指定を行っている事実を認めるに足りる証拠も存在しない」

(参考)宝島社裁判の経過
2000年11月29日 宝島社は雑誌『DOS/V user』『遊ぶインターネット』に対する「不健全図書」指定の取り消しを求め、東京地方裁判所に訴えを提起。
2003年9月25日 東京地方裁判所は宝島社の請求を棄却。
2003年10月7日 宝島社は東京高等裁判所に控訴。
2004年6月30日 東京高等裁判所は控訴を棄却。宝島社は上告せず、判決が確定。

(2011/7/16 18:00)

【2.廃刊効果の仕組み】

 前回取り上げた『完全自殺マニュアル』のケースでは、帯紙が絶版につながることはなかった。これに対し、帯紙措置で廃刊効果が生じるのはなぜだろうか。帯紙措置を定めた下記「申し合わせ」に廃刊の言葉はない。ところが、宝島社の説明によれば「帯紙のないものは取次店で取り扱わないこととされている。図書の流通は取次業者を通すものがほとんどであるから、これは、出版社に対し、帯紙をつけるか、当該図書を廃刊するかの二者選択を迫るものである」という。

<「出版倫理協議会の自主規制についての申し合わせ」(昭和40年5月7日)>

 当協議会は、青少年の健全育成の世論にそい、業界の自主規制を促進する一策として、種々の協議の結果、昭和40年6月1日以降、つぎのような措置を実行することに決定いたしました。

1 東京都青少年健全育成審議会で、青少年の健全な育成を阻害するものとして、連続3回の指定を受けた雑誌類は、出版倫理協議会で検討し、次号から「18歳未満の方々には販売できません」という字句を印刷した帯紙(幅3センチ以上5センチ、薄いブルーまたはグリーン)をその発行者でつけることとする。

2 年通算五回指定されたものも次号から同様の帯紙をつけることとする。

3 右の帯紙は該当誌の全部数につけることとし、帯紙のないものは取次店で取り扱わないこととする。

4 取次店はこれらの帯紙のついた第一回目の現品を小売書店に送品するにあたり、定期部数を再確認するため必要部数の申し込みをうける。申し込みのない小売書店への送品は一切行なわない。

5 これらの雑誌類で、その後連続三回指定されない場合は、従前の取り扱いに復することができる。

 そして「帯紙を付けた出版物が発行された例は皆無に近く、仮に発行されたとしても一般書店では取り扱われず、結局廃刊せざるを得なくなる」という(準備書面より)。つまり(1)帯紙をつけなければ取次店で扱われず、(2)帯紙をつけても一般書店で扱われないため、どちらにせよ「廃刊せざるを得なくなる」というわけだ。帯紙という点では共通していても、出版社が勝手につけた『完全自殺〜』の場合と出倫協がつけさせる帯紙措置とでは、その効果がまったく異なるのである。(つづく)

(2011/7/23 18:00)

【3.宝島社の抵抗】

 出倫協は12月1日、帯紙措置の対象となった2誌を「申し合わせ」の通り取り扱うと宝島社に通知した。「帯紙をつけるか、当該図書を廃刊するかの二者選択」を突きつけられた宝島社は、帯紙をつけず、廃刊もせず、通常通りの流通を続行する。その結果として、取次店は12月12日、「帯紙のないものは取次店で取り扱わない」という「申し合わせ」に従い2誌の不扱い措置(仕入中止)を、東京都青少年健全育成審議会は12月14日、4回(4号)連続となる指定をそれぞれ決定した。

 この時の審議会で東京都の副参事は「若干のタイムラグはあるにしましても、年明け以後は取次の方が取り扱わないという情報は得てございます」と報告。出倫協の自主規制で2誌の流通は大きく制限されることとなる。一方、宝島社は年明けに2誌を休刊したものの『DOS/V〜』は2001年3月から『遊ぶ〜』は4月から郵送直販で発行を再開。また、休刊した2誌の代わりに1月と2月にムックとして『DIGI/USER』『遊ぶDVD&CD-ROM』を発行し、3月からは月刊誌化するのだが――。

<宝島社裁判と帯紙措置をめぐる主な動き>

2000年9月21日
第486回東京都青少年健全育成審議会で『DOS/V user』9月号、『遊ぶインターネット』10月号の指定が決まる。

10月26日
第487回東京都青少年健全育成審議会で『DOS/V user』10月号、『遊ぶインターネット』11月号の指定が決まる。

11月24日
第488回東京都青少年健全育成審議会で『DOS/V user』11月号、『遊ぶインターネット』12月号の指定が決まる。女性青少年部長は宝島社の件について「裁判も辞さないというお話だけはこちらにきておりますので、3回目したときに向こうがどういうふうに対応するかはちょっとわかりかねます」と説明している。

11月29日
宝島社は東京都知事を相手に『DOS/V user』『遊ぶインターネット』の指定取り消しを求める訴訟を東京地方裁判所に提起。

12月1日
出倫協は宝島社に対し、『DOS/V user』『遊ぶインターネット』に帯紙措置を適用すると通知。

12月8日
出倫協は宝島社の件について見解を発表した。「都が正規の手続きを経て連続三回の"不健全"指定を行った以上、出倫協は自主規制の精神に則り、帯紙措置を求めた」とし、当該2誌を「一八歳未満の青少年に販売しないよう最大限の努力をする」と表明。流通・販売段階での制限を示唆したという(『新文化』2000年12月14日付3面)。

12月12日
1.出版問題懇話会は宝島社が帯紙措置に従わないことについて、同社に対し自主規制を尊重するよう要望する声明を出倫協に提出した。同懇話会は「宝島社が帯紙措置をしないで流通を強行することになれば、業界の三五年間の自主規制とは一体なんであったのかという事態にもなりかねない」と主張しているという(『新文化』2000年12月21日付2面)。

2.取次店は『DOS/V user』『遊ぶインターネット』の不扱い措置(仕入中止)を決定。

12月14日
第489回東京都青少年健全育成審議会で『DOS/V user』12月号、『遊ぶインターネット』1月号の指定が決まる。

 同社の出版営業局長は2002年10月23日の審理で、郵送直販に移行した2誌は約23万部(『DOS/V〜』)と約10万部(『遊ぶ〜』)だった部数が数千部になり、発行を中止したと証言。後継誌的な『DIGI〜』『遊ぶDVD〜』については「実売部数で申し上げますと、両誌とも約半減」したという(速記録より)。なお、東京都が『DIGI〜』と『遊ぶDVD〜』を指定することはなかった。部数が減少した理由はいくつかあるだろうが、指定されない内容に変更したことも影響したのかもしれない。

(2011/7/30 18:00)


もどる