東京都青少年条例騒動の歴史


1999年:「活字本」規制運動

1.異例の会長見解

 警視庁から鶴見済『完全自殺マニュアル』(太田出版、1993年)の「不健全」指定を要請されていた東京都は1999年8月26日、東京都青少年健全育成審議会で現行条例および認定基準には該当せず、諮問を見送ったと説明した。議事録によると、見送りそのものは「条文を拡大解釈するということはできない」「妥当な結論」と委員から評価されたものの、「諮問の対象になるように改正されたらどうなんでしょうか」「条例改正まで踏み込むべき」などの声が上がることとなった。

 委員が一通り意見を述べると、女性青少年部長は「マスコミも注目しておりますので、何らかの形で審議会としての意見表明というふうにしていただければ」と提案。事務局が示した案を委員が修正し、異例の会長見解が発表された。その際「条例改正などというようなのはどこかに入らないでしょうか」「条例の見直しを含む適切な対応というのは、やはり総意に近い」などの意見が出たため、東京都に対する要望として「条例の見直しを含む」という表現が追加されている。(つづく)

会長見解(修正前)   会長見解(修正後)※下線が変更部分
1 本審議会は、株式会社太田出版発行の「完全自殺マニュアル」について、自殺の手段・方法等を詳述し、自殺を誘発するおそれのある内容であり、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある不適切なものと考える。しかしながら、審議会としても、現行条例の規定のもとでは、本書の不健全図書類指定は困難であるという、今回の東京都の判断は適切なものと考える。

2 自殺を誘発するような記述・描写をしている図書類は、青少年の健全な成長を阻害するおそれのあるものであり、関係業界はもとより、東京都においても適切な対応をとられるように要望するものである。

3 根本的には、このような図書類による青少年の問題が生じることのないように、条例等による規制のみならず、自他ともに人の命の大切さや生きる喜びの理解等、青少年の生きる力や判断力の育成・強化へ向けた、家庭や学校、地域等のより一層の取組みが何よりも重要であると考える。

  1 本審議会は、株式会社太田出版発行の「完全自殺マニュアル」について、自殺の手段・方法等を詳述し、自殺を誘発するおそれのある内容であり、青少年の健全な成長を阻害するおそれがある不適切なものと考える。しかしながら、審議会としても現行条例及び認定基準の規定のもとでは、本書の不健全図書類指定は困難であるという、今回の東京都の判断は妥当なものと考える

2 自殺を誘発するような記述・描写をしている図書類は、青少年の健全な成長を阻害するおそれのあるものであり、関係業界はもとより、東京都においても条例の見直しを含む適切な対応をとられるように要望するものである。

3 根本的には、このような図書類による青少年の問題が生じることのないように、条例等による規制のみならず、自他ともに人の命の大切さや生きる喜びの理解等、青少年の生きる力や判断力の育成・強化へ向けた、家庭や学校、地域等のより一層の取組みが何よりも重要であると考える。

(2013/2/13 06:30)

2.東京新聞の不満

 当時のマスコミは『完全自殺マニュアル』の規制に強い関心を示しており(「「不健全図書類」の指定増加」参照)、会長見解のきっかけになったことは疑いない。だが『完全自殺マニュアル』のみが注目されていたわけではない。例えば『東京新聞』1999年7月26日付「「捜査現場無視」募るいら立ち 警視庁の「完全自殺マニュアル」通報」という記事には「過去に警視庁が「有害」として東京都に通報したが、有害指定を受けなかった本」として、図書6冊の写真が掲載されていた。

 本文では捜査関係者の「やみくもの通報ではなく、薬物や傷害事件などの家宅捜索や供述から、少年事件に影響を与えたとみられる薬物やナイフなどの本を通報しても、捜査現場の意見は全く考慮されない」という話も紹介。過去の指定は性描写などビジュアル(視覚的)なものばかりだと指摘し、「活字本」である『完全自殺マニュアル』の通報を「都の姿勢に対する不満にとどまらず、有害図書指定の現状に一石を投じようとする意欲の表れとも受け取れる」と持ち上げていた。(つづく)

 
<東京新聞が注目した図書6冊>
 本文に具体名はないが、写真から判明したタイトルは次の通り。なお、写真の下には「『活字本』で問われる都の姿勢」という見出しが配置されていた。
・『ザ・必殺術』(第三書館、1994年)
・『危ない1号』(データハウス、1995年)
・『危ない1号 第2巻』(データハウス、1996年)
・『危ない1号 第3巻』(データハウス、1997年)
・『身の毛もよだつ殺人読本』(宝島社、1998年)
・『危ない28号 第2巻』(データハウス、1998年) 
 
<東京新聞が注目した運動家>
 東京新聞は1999年9月11日に「都審議会が条例見直し含む異例の注文 「完全自殺マニュアル」規制に動き」という記事を掲載した。前半は自主規制の状況や会長見解などを、後半は「反自殺本」活動に取り組む運動家について報じている。
 この人物は1993年11月9日に『完全自殺マニュアル』の出版社と著者に対し、店頭からの回収と販売中止を求める「発刊中止申立書」を提出しており(鶴見済編『ぼくたちの「完全自殺マニュアル」』(太田出版、1994年)参照)、記事でも「自殺方法のヒントを与える本は、たとえ出版、表現の自由があっても許せない」と厳しく批判している。

(2013/2/20 06:30)

.「自殺」にとどまらず「犯罪」まで

 「条例の見直しを含む適切な対応」を求められた東京都は2000年5月11日、「不健全図書類の指定事由の追加」などを東京都青少年問題協議会に諮問した。協議会は同年12月20日に答申をまとめ「自殺マニュアル本は、単に青少年の自殺を誘引するのみならず、死に至る詳細な記述が犯罪の手段として利用されかねない」「不健全図書の指定対象に自殺マニュアル本を含めることで、青少年に対し、自殺はいけないという大人からのメッセージを伝える効果がある」と指摘。

 さらに「自殺を誘引するのと同様に、青少年に対して著しく犯罪を誘発するおそれの強い図書類についても、不健全指定できるようにすることが必要」と提言した。マスコミが火をつけた『完全自殺マニュアル』騒動は、東京新聞の記事に沿う形で、つまり自殺に加えて犯罪をテーマにした図書類まで規制されることになったのである。その後、指定対象に「著しく自殺若しくは犯罪を誘発」を追加する条例案は2001年3月29日に都議会で可決され、同年7月1日から施行されている。

<平成13年第1回定例会「東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例」の概要と審議結果>

第53号議案 東京都青少年の健全な育成に関する条例の一部を改正する条例
         (生活文化局)
【概要】
 青少年の健全な育成を図るため、不健全な図書類等の取扱いについて、次のような改正を行う。
1 自殺又は犯罪を誘発するおそれのある図書類について、販売等の自主規制及び知事による不健全図書類の指定の対象に追加する。
2 不健全な図書類の区分陳列について、販売業者に対して、義務規定等を設ける。
 (1) 知事が指定した不健全図書類について、他の図書類と明確に区分し、容易に監視できる場所に置かなければならないこととする。
 (2) 発行業者等が青少年の閲覧等が適当でない旨の表示をした図書類について、区分陳列の責務を課す。
3 自動販売機等による図書類等の販売・貸付業者に対し、設置に係る事前届出義務、自動販売機等管理者の設置義務等に関する規定を設ける。
4 青少年健全育成審議会に、専門事項を調査するため、専門委員を置くことができることとする。
5 罰則及び警告に関し、所要の改正を行う。
【施行期日】
 平成13年7月1日。ただし、図書類の区分陳列等に関する規定については同年10月1日

東京都議会配布資料「平成13年第1回定例会知事提出議案」より抜粋。

 

会派名

議員数 賛否
東京都議会自由民主党

49

日本共産党東京都議会議員団

26

都議会公明党

23

都議会民主党

13

都議会無所属クラブ

3

生活者ネットワーク都議団

3

社会民主党

1

自治市民’93

1

×

都民の会

1

合計/審議結果

120

可決

『都議会だより』No.241,242(合併号)をもとに作成。

(2013/2/27 06:30)


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