青少年条例と国際条約

―「有害図書類」指定との関係―


【児童の権利条約】 署名:1990年9月21日 批准:1994年4月22日

1995年3月1日付 福岡高裁判決(抜粋)

 控訴人は、本件条例は条約に違反する旨主張するが、右条約も、未成熟な青少年の健全な育成に有害である図書類を全く無視して、青少年にあらゆる情報を受ける自由を保障することまで規定したものではなく、また、それをすべて親権者等に委ね、いかなる事態に至ろうとも締約国が規制することを禁止したものと解釈することができないことは、同条約が、その前文において、児童に対する特別な保護を与えることの必要性を宣言した一九二四年の児童の権利に関するジュネーヴ宣言及び一九五九年一一月二〇日に国際連合総会で採択された児童の権利に関する宣言等を掲げ、右児童の権利に関する宣言を踏まえて、児童は身体的及び精神的に未熟であるため、適当な法的保護を含む特別な保護及び世話を必要とすることに留意すべきことを謳い、一三条一項において、「児童は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」としつつ、同条二項において、「1の権利の行使については、一定の制限を課することができる。ただし、その制限は、法律によって定められ、かつ、次の目的のために必要とされるものに限る。(a) 他の者の権利又は信用の尊重 (b) 国の安全、公の秩序又は公衆の健康若しくは道徳の保護」と規定していることからも明らかであり、また、右一三条二項但書にいう「法律」は、国会により制定される法律のみを指すものではなく、法律の範囲内において地方自治体の議会により制定される条例も含まれると解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。
<青少年条例との関係>
 宮崎県知事は平成4年7月、「宮崎県における青少年の健全な育成に関する条例」に基づき、パソコン用ゲームソフト(フロッピーディスク)を「有害図書類」に指定した。ゲームソフトメーカーは条例が憲法第21条等に違反し、無効であるとして、指定を取り消すよう訴えを起こした。第1審(宮崎地判平成6年1月24日・判例時報1495号57頁)、第2審(福岡高判平成7年3月1日・判例タイムズ883号119頁)ともに原告敗訴。最高裁第3小法廷は平成11年12月14日、原告の上告を棄却した※1。

 控訴審において原告は「有害図書類」の指定は児童の権利条約第13条に違反するとの主張を追加。これに対し、福岡高裁は上記のような判断を示して原告の主張を退けた。海外でも、児童の権利条約を批准している韓国(批准:1991年11月20日)やドイツ(批准:1992年3月6日)は「有害図書類」指定に類似した内容をもつ青少年保護法を制定している※2。このことからも明らかなように、青少年条例による「有害図書類」指定が児童の権利条約に違反するとの解釈は困難である。

  ※1 この裁判の判例評釈には、野村武司「PC用ゲームソフト有害図書類指定処分取消訴訟上告審判決」『法律のひろば』2000年6月号、67-73頁や、淺野博宣「パソコンゲームソフトの有害図書類指定」『判例セレクト'00』(法学教室第246号別冊付録)、8頁(2001年)がある。

※2 安部哲夫、金容世「韓国青少年保護法(仮訳)」『北陸法学』第7巻第4号、43-70頁(2000年)、戸田典子「ドイツの青少年保護法 ―酒、たばこ、有害メディアの規制」『外国の立法』第241号、62-100頁(2009年)参照。

【関連リンク】
▼外務省:児童の権利条約(児童の権利に関する条約)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/


【児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書】 署名:2002年5月10日 批准:2005年1月24日

2010年2月5日付 第1回報告審査に関する児童の権利委員会からの質問事項(抜粋)

日本語訳(外務省HPより) 原文(英語)
6.児童の売買、児童買春、及びコミックにおける児童の描写を含む児童ポルノ等の組織犯罪を根絶するためにとられた措置を、委員会に報告願いたい。 6. Please advise the Committee of the measures taken to combat organised crime involving the sale of children, child prostitution and child pornography, including depiction of children in comics.
<青少年条例との関係>
 「コミックにおける児童の描写」は児童買春・児童ポルノ禁止法の「児童ポルノ」には該当しない。一方、青少年条例の「有害図書類」には該当する可能性がある。これは条例の規制対象に「絵」が含まれることによる。ただ、指定方法によっては規制対象を限定していた時期もあった。包括指定の対象を「写真」に限定していた静岡県は2001年12月に「絵」を追加。奈良県も2003年3月に「絵」を追加した※1。以降、包括指定の対象を「写真」に限定している道府県はない。

 実際、神奈川県知事は2010年9月の県議会で「東京都青少年健全育成条例改正案で話題になった、漫画などの登場人物である、いわゆる「非実在青少年」に係る性的描写の規制についてですが、本県では、青少年を性の対象とするものを含め、卑わいな内容が一定量に達している図書類については、すでに、現行条例で有害図書類として扱っており、改正後も、青少年への販売禁止などの規制を続けてまいります」と説明※2。従来から規制対象であると明確に述べている。

  ※1 条例見直しに先立ち、奈良県は2002年12月11日〜2003年1月7日までパブリックコメントを募集した。その後示された回答では、包括指定の拡大について「メディアの多様化や刊行物のライフサイクルの短期化など、有害図書類の多様化に対応するため、従来の写真及び写真掲載図書に加えて、絵・コミック、ビデオテープ等も対象にした包括指定制度を導入することとしました」と説明している。

※2 http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/00/
1199/chiji/gikai/h2203.html参照。なお、個別指定に分量基準はない。従って「卑わいな内容」が一定量に達していない場合、つまり包括指定の基準に達していない場合でも個別指定することはできる

<参考−1>「子どもの性的搾取及び性的虐待からの保護に関する条約」(日本は未署名)
 大森佐和「子どもポルノをめぐる法的状況」『セクシュアリティ』第47号、68-71頁(2010年)によると、欧州評議会の「子どもの性的搾取及び性的虐待からの保護に関する条約」では「実在する子どもの子どもポルノについては、国による留保を認めることなく単純所持を明確に禁じている。また、擬似的な写実的子どもポルノについては、提供・利用可能化・頒布・送信・自分や他人のための取得については国による留保を認めることなく処罰化されることとなる」という。

<参考−2>「2003年12月22日の子どもの性的搾取及び子どもポルノの撲滅のための欧州連合理事会の枠組決定」
 戸田典子「ドイツの青少年保護法 ―酒、たばこ、有害メディアの規制」『外国の立法』第241号、62-100頁(2009年)によると、「2003年12月22日の子どもの性的搾取及び子どもポルノの撲滅のための欧州連合理事会の枠組決定」では「子どもポルノ」を(1)実在する子ども、(2)子どものように見える実在の人物、(3)実在しない子どものリアリスティックなイメージの性的行為等を描いたものと定義。EU構成国は子どもポルノの作成等を刑罰をもって禁止しなければならないという。

 ただし、国による留保が認められており、(2)の場合で「「実在の人物」 が作成時点で実際に18歳以上であったとき」、(1)(2)の場合で「描かれた子どもが性的行為についての同意能力を有する年齢に達しており、作成及び所持に同意しており、専ら子ども本人の個人的使用のためであるとき」、(3)の場合で「作成者が専ら個人的な使用のために作成し、個人的に所持し、(1)(2)の子どもポルノの素材とはならず、流布する危険がないとき」は犯罪としないこともできるという。

【関連リンク】
▼外務省:児童の権利条約(児童の権利に関する条約)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/
▼CRC/C/OPSC/JPN/Q/1
http://www2.ohchr.org/english/bodies/crc/docs/CRC.C.OPSC.JPN.Q.1.pdf ※PDFファイル
▼児童ポルノとの国際的闘いの強化に関するG8司法・内務閣僚宣言(仮訳)
http://www.moj.go.jp/hisho/kokusai/g8_2007child_porno_dec-japanese.html


【女子差別撤廃条約】 署名:1980年7月17日 批准:1985年6月24日

2009年8月7日付 第6回報告に対する女子差別撤廃委員会の最終見解(抜粋)

日本語訳(男女共同参画局HPより) 原文(英語)
35. 委員会は、「児童買春・児童ポルノ禁止法」の改正によって、この法に規定する犯罪の懲役刑の最長期間が延長されたことなど児童買春に対する法的措置が講じられたことを歓迎する一方、女性や女児への強姦、集団暴行、ストーカー行為、性的暴行などを内容とするわいせつなテレビゲームや漫画の増加に表れている締約国における性暴力の常態化に懸念を有する。委員会は、これらのテレビゲームや漫画が「児童買春・児童ポルノ禁止法」の児童ポルノの法的定義に該当しないことに懸念をもって留意する。

36. 委員会は、女性や女児に対する性暴力を常態化させ促進させるような、女性に対する強姦や性暴力を内容とするテレビゲームや漫画の販売を禁止することを締約国に強く要請する。建設的な対話の中での代表団による口頭の請け合いで示されたように、締約国が児童ポルノ法の改正にこの問題を取り入れることを勧告する。

35. While the Committee welcomes legislative measures taken against child prostitution, such as the revision of the Act Banning Child Prostitution and Child Pornography which increased the maximum term of imprisonment for offences committed under this legislation, the Committee is concerned at the normalization of sexual violence in the State party as reflected by the prevalence of pornographic video games and cartoons featuring rape, gang rape, stalking and the sexual molestation of women and girls. The Committee notes with concern that these video games and cartoons fall outside the legal definition of child pornography in the Act Banning Child Prostitution and Child Pornography.

36. The Committee strongly urges the State party to ban the sale of video games or cartoons involving rape and sexual violence against women which normalize and promote sexual violence against women and girls. The Committee also recommends that, as indicated in the delegation’s oral assurance during the constructive dialogue, the State party include this issue in its revision of the Act Banning Child Prostitution and Child Pornography.

<青少年条例との関係>
 「女性に対する強姦や性暴力を内容とするテレビゲームや漫画」は青少年条例の「有害図書類」に該当する可能性がある。ただし、性暴力のみを対象とした指定制度はなく、性描写の一つとして規制されることになる。例えば、神奈川県は性暴力を疑似体験できると批判されたパソコン用ゲームソフト「レイプレイ」について、包括指定に該当するとの判断を示している(平成21年度第3回県児童福祉審議会社会環境部会資料「性暴力ゲームソフト「レイプレイ」について」参照)。

<参考>実証的研究
 大渕憲一「暴力的ポルノグラフィー:女性に対する暴力、レイプ傾向、レイプ神話、及び性的反応との関係」『社会心理学研究』第6巻第2号、119-129頁(1991年)によると、アメリカ大統領が設置した委員会は1971年、ポルノグラフィーに顕著な反社会的影響は認められないという報告書をまとめた※。ところが、「この委員会の結論に対して心理学者たちの多くは疑問をもち、これがポルノグラフィーの影響に関する実証的な研究を盛んにするきっかけとなった」という。

 その結果、委員会が十分に分析しなかった暴力的ポルノは、非暴力的ポルノに比べて「はるかに強い反社会的影響があると言われている」という。こうした影響研究の成果は、坂元章「ポルノグラフィーの悪影響問題 ―現代のメディアと社会心理学の研究―」『母性衛生』第46巻第1号、8-10頁(2005年)に簡潔にまとめられている。これによると、さまざまな研究によって「暴力的ポルノの視聴は、女性に対する攻撃行動を増加させうること」が明らかになったという。

 また特に問題があるのは、性暴力を「最終的には女性が好意的に受け入れてしまう内容」であることが示され、このようなポルノは「「女性はレイプされたがっている」という誤った信念―レイプ神話―や、性暴力を肯定する価値観」を持たせる恐れがあるという。この他にも、メディアは性交渉の喜びや快楽は描くが、性病や望まない妊娠などはあまり描かないため「青少年の性交渉に対する見方を歪めたり、性行動を危険なものにしている可能性が指摘されている」という。

  ※ 委員会は「同意のある成人に対する性的物件の販売、提示、配布を禁止する法はすべて廃止すべき」とする一方、未成年については「州は、一定の性的物件を未成年に対して商業的に販売しまたは販売のため陳列することを禁止する立法をすべきである」と勧告した。ただし、禁止される物については「写真や図画に限るのがよく、文章は除外すべき」とコメントしている。詳しくは田宮裕「わいせつに関するアメリカ大統領委員会の報告書について(二)」『ジュリスト』第478号、111-118頁(1971年)を参照。

<性的メディアの影響研究に関する参考文献>
(1)H.J.アイゼンク、D.K.B.ナイアス『性・暴力・メディア』岩脇三良訳(新曜社、1982年)
(2)大渕憲一「性的覚醒の攻撃行動に及ぼす影響」『心理学評論』第33巻第2号、239-255頁(1990年)
(3)大渕憲一「暴力的ポルノグラフィー:女性に対する暴力、レイプ傾向、レイプ神話、及び性的反応との関係」『社会心理学研究』第6巻第2号、119-129頁(1991年)
(4)三井宏隆「社会心理学とポルノグラフィー」『実験社会心理学研究』第31巻第1号、69-75頁(1991年)
(5)佐々木輝美「性的メディア接触と青少年の性意識」『青少年問題』2003年3月号、16-22頁
(6)佐々木輝美「性的メディア接触が大学生の性意識に与える影響に関する研究」『教育研究』第46巻、143-151頁(2004年)
(7)坂元章「ポルノグラフィーの悪影響問題 ―現代のメディアと社会心理学の研究―」『母性衛生』第46巻第1号、8-10頁(2005年)

【関連リンク】
▼女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約(男女共同参画局)
http://www.gender.go.jp/teppai/index.html
▼検証・宮台真司が広めたメディア悪影響否定論
http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/news/editorial/03.htm

(2010/11/19 19:30)


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