■東京都
答申案に批判続出 拡大専門部会
青少年条例の改定について検討している東京都青少年問題協議会は2003年12月24日、拡大専門部会を開催し、起草委員会がまとめた答申原案について意見交換を行いました。
原案に対し、起草委員からは「委員会では規制ありきの議論が進行した」「原案は一委員の意見に偏っている」などの意見が出たほか、専門部会の委員からも「罰則については専門部会で議論していない」「原案で示されているデータはかなり乱暴だ」などの意見が出ました。また、「2ヵ月の検討期間では無理」という審議日程に対する批判もありました。
このため1月9日に予定されていた第4回起草委員会は、起草委員以外の専門部会委員も出席し、原案の修正について議論することになりました。なお、「導入は見送るべき」とされた包括指定については、「委員会では導入すべきという意見もあった。両論併記にすべき」などの意見が出ています。
<専門部会および起草委員会の開催状況と今後の審議日程>
10月28日 第1回専門部会
11月 4日 第2回専門部会
11月10日 第3回専門部会
11月19日 第4回専門部会
11月21日 第5回専門部会
第1回起草委員会
12月 9日 第2回起草委員会
12月17日 第3回起草委員会
12月24日 拡大専門部会
1月 9日 第4回起草委員会
1月19日 青少年問題協議会総会(答申の決定)
<答申原案の主な内容>
【タイトル】
(答申原案)
青少年が安心して育つ環境を、大人が責任を持ってつくるために
―有害情報の効果的な規制、青少年の深夜外出の防止策等について―
(第25期東京都青少年問題協議会答申)
平成15年12月24日
東京都生活文化局
【「不健全」図書の現状と課題】
「指定図書は、区分陳列する場合であっても包装して販売することを罰則を設けて義務づけるべきである」
「出版社が不健全図書を包装し、販売店は包装されていない不健全図書は販売しない、自主規制の新設が求められる。
なお、自主規制の実効性を担保するために、条例において自主規制を促す規定を設けることも検討すべきである」「包括指定では個別の指定図書名が明示されないことから、運用段階での実効性を担保するための十分な指導体制を確保することは難しい。また、内容によらず量的な規制だけで図書の不健全性を100%問うことや審議会の議を経ないで不健全図書指定がなされることの是非等の問題点もある。
これらのことを総合的に勘案し、当面は、包括指定の導入は見送るべきである」
【図書、ビデオ等の自動販売機等の規制】
「年齢識別機等の設置と24時間稼動を条例で義務づける必要がある」
「年齢確認をしないと機械内部の商品が見えない装置の設置とその24時間稼動を条例で罰則を設けて義務づける必要がある」
【青少年の深夜外出と検討すべき課題】
「条例で子どもを深夜外出させない努力義務を親に課すことにより、親の責任を明確にし、その責任の自覚を促すことは、無駄ではない」
「青少年を犯罪に巻き込まれる危険から守るために、「大人が、正当の理由もなく保護者の嘱託又は承諾を得ないで、深夜に青少年を同行して外出すること」も禁止すべきであるが、年齢による青少年の生活実態の変化を考慮し、罰則を設けるのは16歳未満の青少年を同行した大人に対してのみとすべきである」
【深夜立入を制限する施設について】
「カラオケボックス及び漫画喫茶・インターネットカフェは、都健全育成条例制定時にはなかったものであるが、青少年溜まり場、深夜徘徊や無断外泊の場となり易い状況がある上、自主規制が及ばない事業者が過半ないしは大部分であるため、指定施設に追加すべきである」
「臨機応変に深夜立入制限施設の指定が行われるべく、その指定を知事の定める規則に委ねることが適当である。規則に委任するに当たっては、第三者機関の客観的な意見を聞くことにより、公平・適正な指定を期すために、予め東京都青少年健全育成審議会の意見を聞いて、施設指定の改廃を行うべきことを条例で定める必要がある。
なお、時代の変化により、社会通念上不健全な行為の場となる危険性が低くなっていると考えられる施設については、不必要な規制は廃止すべく、指定廃止を検討すべきである」
【危険な刃物類の購入、所持と課題】
「青少年の興味を引き、携帯しやすく、かつ日常生活において所持する必要のない刃物類を指定し、指定された刃物類について、青少年への販売等を罰則を設けて規制する必要がある。また、販売業者の自主規制として、刃物類の販売について、購入者の年齢を確認するなど、年齢に応じた販売をするように指導していく必要がある」
【古物買受け等の現状と課題】
「東京都は、青少年の健全育成という観点から、規制を導入すべきであろう。すなわち、青少年の保護育成、自ら成長発達する機会の保障という観点から、小学生や高校生など年齢に応じた生活行動、成長の実態に合わせた規制方法を検討することにより、青少年が正当な目的で古物を売却する権利まで制限しないよう配慮すべきである」
【スカウトの規制】
「スカウトの勧誘行為と他の行為を区別することは困難であり、新たな条例で違法なスカウトの勧誘を明確に定めて規制することは、現在のところ、難しい。
このため、都として、実行性ある規制方法を検討するとともに、当面は、現行法令を可能な限り活用する道を探りつつ、青少年への教育・啓発を進めて、被害の防止に努めることが求められる」
【生セラ等の買受け等の規制】
「生セラを規制する法令がない上、規制対象とする物品や行為を明確に定めることは困難であるため、現在のところ、生セラを罰則を設けて禁止することは難しい」
「都健全育成条例で生セラ禁止規定を設け、禁止されるべき行為であるという認識を宣言すべきである」
【深夜立入制限施設等への調査指導体制の充実】
「深夜立入制限施設及び図書類等の自動販売機の調査については、必要な範囲の警察官に立入調査権を付与することが適当である。また、指定刃物ならびに古物買受け等にかかる調査については、銃砲刀剣類取締法や古物営業法、質屋営業法にかかる知識を要すること、対象店舗が都内全域に散在することなどから、警察官による立入調査を中心とすることが適当である」
【書店、コンビに等への調査指導体制の充実】
「地域住民の有害環境を改善する意欲を活かす仕組みづくりが望まれる」
【緊急な指定への対応】
「小委員会を常設機関とし、月に1回の審議会開催を待つことなく緊急に指定すべき不健全図書や危険な刃物の指定に対し、公平・適正かつ迅速に対応する体制を確保されたい」
【規定の整備】
「買春行為に関しては、都健全育成条例の青少年免責規定の趣旨を吟味しつつ、その適用の是非を改めて検討されたい。
なお、法と重複する規定については、所要の措置をされたい」
1.他の道府県が導入している包括指定では、「卑わいな姿態等」を被写体とした写真または描写した絵が一定の分量に達していた場合、自動的に「有害」図書とみなされる。
これに対し、個別指定では、1点1点審議会で審査を行うものの、性表現に限らず、暴力や犯罪、さらには自殺に関する表現なども「有害」指定することができる(個別指定の規制対象はこちら。包括指定の規制対象はこちら)。さらに、個別指定では、写真や絵だけでなく、文章表現も「有害」指定の対象となる。また、秋田県は2003年10月に包括指定を導入しているが、「有害」規制監視隊の意見に対し、「包括指定の基準に至らない図書類については、従来どおり「個別指定」により行う」と回答している。つまり、個別指定は包括指定と比較してより厳しい規制を行うことが可能なのである。
『新文化』2003年11月27日付「「包括指定」に反対 不健全図書 石崎青少年審議会会長が表明」という記事によると、都青少年問題協議会専門部会では、包括指定の導入に反対し、個別指定と自主規制を強化すべきだという意見が出ていたという。答申案に包括指定が盛り込まれた場合、条例がどのようになった(る)かは不明である。ただ、他の道府県並の包括指定であれば、個別指定の強化よりも「謙抑的」といえるのではないだろうか。なお、東京都の個別指定は出版業界の自主規制と連動していることにも注意が必要である。2.出版界の業界団体・出版倫理協議会(日本書籍出版協会、日本雑誌協会、日本出版取次協会、日本書店商業組合連合会の4団体で構成)には、東京都の「不健全」図書指定を連続3回または1年で5回受けた雑誌に対し、次の号から「18歳未満の方々には販売できません」という帯紙をつけるよう通知する自主規制(帯紙措置)がある。帯紙をつけない雑誌は取次で扱われず、たとえ帯紙がついていても書店から注文がない限り送品されない。この帯紙措置を適用されると、「流通部数が極端に減ってしまうために、休刊(実質的な廃刊)を余儀なくされてしまうのが通例」(長岡義幸「東京都「不健全」図書指定に宝島社の反撃」『創』2001年1-2月号 115頁)だという。
したがって、東京都の個別指定が強化されれば、3回連続または1年で5回「不健全」指定を受け、「休刊(実質的な廃刊)」となる雑誌が増える可能性がある。3.宝島社の雑誌『DOS/V USER』と『遊ぶインターネット』は2000年9月〜11月にかけて、東京都で連続3回「不健全」指定を受け、出版業界の自主規制(帯紙措置)により書店・コンビニでの販売が不可能となった。
このため宝島社は東京都を相手取り、「不健全」指定の取消請求訴訟を行ってきたが、東京地方裁判所は2003年9月25日、請求を棄却した。この判決に対し、同社は10月7日に東京高等裁判所に控訴する一方、都の認定基準や指定プロセスの恣意性を立証するためだとして、「不健全」図書指定を受けた人や会社から、証言・証拠などを募集している。情報は、宝島社「不健全図書指定処分取り消し請求訴訟」のページから送信する。なお、地裁で下された判決の主文なども同ホームページで公開されている。
▼「不健全図書指定処分取り消し請求訴訟」
http://www.takarajimasha.co.jp/no/(宝島社)
<個別指定を行う東京都青少年健全育成審議会について>
1.東京都青少年健全育成審議会の委員名簿や近年開催された審議会、青少年問題協議会の議事録等は次のページで確認することができる。
▼「審議会等」
http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9files/singi.htm(東京都)
東京都が行った「不健全」指定の件数はこちら。2.朝日新聞の津山昭英・東京本社編集局記事審査部長(当時)は、過去に「不健全(有害)」図書の審査などを行う東京都青少年健全育成審議会で委員を務めていた。津山氏が委員であった当時、朝日新聞は2001年1月25日に「有害情報規制 どういう結果を招くか」という社説を掲載している。この社説では、自民党「青少年社会環境対策基本法案」について、「メディアを政府や行政の監視下に置く」、「メディアリテラシーの能力を育てることが大事だ」などと批判している。ところが、2001年3月に改定・強化が予定されていた東京都青少年健全育成条例については一言も触れていない。なお、この時の条例改定では、「不健全(有害)」図書の指定事由に「自殺」や「犯罪」が追加されたほか、区分陳列の義務化などが行われた。
3.メディア関係者が政府や自治体の審議会に参加することは、ジャーナリスト倫理に反するという批判がある。例えば、朝日新聞紙面審議会の渡辺正太郎委員は、『朝日新聞』2003年10月10日「変わる政治 深い視点で 朝日新聞紙面審議会 03年度第3回」という記事で次のように述べている。
「既存の体制と距離を置き批判することも新聞社の大きな役割のひとつである。例えば、政府の審議会に新聞社が入って政策提言に参画すると、自らそれに縛られ、政府の先棒を担ぐ結果になる。慎重な対応が必要だ」
この意見に対し、吉田慎一・東京本社編集局長は「政府の審議会への記者の参加について、朝日新聞は、抑制的に考えるのを原則にしている。参加要請があった場合は、数人の委員会で参加が適当かどうか検討して判断している。場合によっては報道の公平・公正、不偏不党の根幹にかかわりかねないからだ」と答えている(なお、この時の紙面審議会の司会は津山昭英・編集担当補佐だったという)。
津山氏は「有害情報規制」を扱う東京都青少年健全育成審議会の委員であったが、朝日新聞の委員会はどういう議論をへて「参加が適当」と判断したのだろうか。また、「報道の公平・公正、不偏不党」を重視するのであれば、委員ではなく、あくまでも取材者の立場で審議会にかかわるべきではないだろうか。
メディア関係者が審議会に参加することは、メディアが「政府の先棒を担ぐ」以外にも、様々な弊害が考えられる。メディアに依存する記者や文化人、さらにはメディアを敵に回したくない人々が審議会問題について書けるのだろうか? メディア関係者の審議会参加は「報道の公平・公正、不偏不党」という枠を越えて、市民の「知る権利」を脅かしている可能性がある。4.朝日新聞の紙面審議会は、審議会参加についてこれまで何度か議論している。これを受け、朝日新聞は1993年に「今のところ、個別にその審議会の目的、性格、運営の実態、状況を考えながら、参加すべきかどうかを判断しています。この日の論議も踏まえて、さらに手続き、ルールなどを詰めていくことにしています」(『朝日新聞』1993年4月18日「政府審議会への社員参加 是非めぐり再び論議」)という方針を示している。
津山氏は「有害情報規制」を扱う東京都青少年健全育成審議会の委員であったが、朝日新聞では、東京都青少年健全育成審議会の「目的、性格、運営の実態、状況」について、どのように考えていたのだろうか。5.メディア関係者が政府の各種審議会にどれだけ参加しているかは、総務省行政管理局編『審議会総覧』で確認することができる(ただし、地方自治体の審議会等については掲載されていない)。なお、審議会への記者参加を「抑制的に考えるのを原則にしている」はずの朝日新聞でさえ、1人で複数の審議会を掛け持ちしているケースがある(参考:平成10年度版『審議会総覧』)。
6.メディアと審議会の関係については、以下の文献が詳しい。
(1)天野勝文「「取り込まれる」ジャーナリスト」『総合ジャーナリズム研究』第128号(1989年) 46-52頁
(2)天野勝文「「取り込まれる」マスコミ人 全国版」『総合ジャーナリズム研究』第144号(1993年) 72-79頁
(3)天野勝文「政府審議会は記者のウバ捨て山か 記者クラブ同様これも一つの癒着ではないか」『文芸春秋』1993年11月号 296-303頁
(4)天野勝文「新聞人の各種審議会への参加について」新聞労連編『新聞記者を考える』(晩聲社、1994年) 187-211頁
【関連リンク】
▼「有害」規制法案・条例の状況 ■東京都「青少年健全育成条例」
http://hp1.cyberstation.ne.jp/straycat/watch/data/jyoukyou/tokyo.htm(「有害」規制監視隊)