すばらしいワタル紀行 1999年11月4日(木)

秋の大講演会 鶴見済−対談−宮台真司 in大隈講堂


7.質疑応答 その2

司会 じゃ、質問の方……

質問者4 えっと、鶴見さんレジュメの最後の方に近代社会のシステムがぶっ壊れて、じゃあ、そんでもこういうふうに社会が、何が、何がこの社会を守ってるのか。ここでは「補助サーモスタット」っていう言葉が出てきてんですけども、ま、その後に一つ疑問としたいんですけど、お二人にもお聞きしたいんですけども、ここで言われてる「補助サーモスタット」ということを、お二人はどういうふうに考えているかってことを、まず一つお聞きしたいんですけど。

ワタル 今日はここまで行かなかったんですね。

質問者4 それじゃ、その……

ワタル ロフトプラスワンでやりますかね。や、さすが清野くん。ここのところ、あのー、じゃあ、私なりに説明すると、もう、この日本の状態、はっきり言って、もう、無法状態だと思うんですよ。で、まあ、司法が機能してないっつーのが最悪だと思うんですけど。ま、すべての過程でチェック&バランスの機能が働かないと。これはシステム社会論的に見たら、ほとんど……例えば、オレの本とか宮台さんの本とか、マイナスのフィードバック機能っていう役割を社会的に果たしてはずなんです。えー、行き過ぎだ、強く生きろはいいけど行き過ぎだっつーのを、あのー、「おいおい、行き過ぎだよ」っていう、フィードバック機能をちゃんと働いてたはず。ある程度働いてたはずなのに、それを妨げると。あ、それを、もう強引に、口実とかそういう手続きまで無視して排除してしまおうというこの社会っつーのは、ま、ある程度、自己組織能力を失ったシステムであると。ま、サーモ……、えー、サイバネティックス的に言うと、「サーモスタットの壊れたエアコンがつけっ放しになっている部屋」みたいな。そういう制御不能の状態になってる、と見ることもできるが、それにしてもなぜ壊れないの? なんでなの? なぜなのか? っていうのを今日は話そうかなーと。ここまでいったらいいですね、というような話をしてたんですよね。でも……

シンジ ま、ぼくなりに答えるとね、あのー、日本の場合のサーモスタットの役割を果たしたのは共同体的な縛りなんですよ。共同体的な拘束なんですね。でー、結論を先に言いますと日本はそれがメインでした。ところが、共同体的な縛りがあまり頼れなくなってしまったこの文化の伝統の元で花開いた近代市民社会といわれるところのフィードバック機能は、それとは別のメカニズムを使うようになったんですね。で、それはいろんなものがあるんですけれども、あのー、それは要するに動機づけのシステムです。一つには教育であり、もう一つはそのストレンジャーですね。異者との出会い。つまり、まったく自分と異なる人間と共生をする、つまりコンヴィヴィアリティ。そこに生きるという条件を満足させなければならないという、そういう“たが”が、いろんな場面で法律の制定に人を動機づけるとなったわけです。わかりやすい例を言うと、日本には都市計画というものがずっとありません。ま、このかた都市計画っての、あったためしがないんです。がしかし、それでもですねー、あのー、江戸、あるいは京都、伝統的な町には、町並みというものがあったんです。で、それはなぜかといえば、いわゆるコモンセンス。共通感覚、共同体的な共通感覚が、

ワタル そう。

シンジ あるんですね。人に任せておいても、勝手に任せておいても、同じような振る舞いをしたんです。それはやっぱり同調圧力ということなんです。ところが共同体が細分化してくると、そういう、ま、自制的な動機づけを期待できなくなります。人々が勝手気ままに家を建てるように、建物を建てるようになります。そうすると町並みは当然のことながら壊れていくことになります。で、そこでは、あるのは、計画という概念が必要なんですが、計画をするためには今度はパブリックの利害、公のために計画をするっていう動機が必要なんですね。で、この公っていうのを担保するのが、実はその欧米的な文化における、その異者、ストレンジャーズとの共生。つまり、自分と同じ共同体に属さない人間と侵害しあわないで共生するための条件、ということなんです。ところが、日本にはこういうパブリックっていう概念が存在せず、ま、小林よしのりさんみたいな方が典型ですが、パブリックっていうとですね、なにか大きな家のように考えてですね(笑)、大きな共同体をパブリックと。えー、一君万民……まー、

ワタル 国みたいな。

シンジ 国がパブリックであると。だからバカなですね、批評家はですね、パブリックは国に重なるとは限らないというような、まったくトンマな非学問的な批判を小林さんに対して投げかけていますが、学問的にまったく意味がありません。範囲はどうでもいいですが、パブリックの概念は欧米では19世紀に、実は共同体という概念から異者、ストレンジャーズとの共生のための条件、つまりルールや想像力という概念に置きかわった、ということが重要なんですね。そのことを踏まえないと20世紀の社会科学はまったく意味がなくなった、なかったことになってしまうんです。

ワタル で、この国が法治国家でないっていうのは、まあ、だいたいバレた。薄々バレてきてるにもかかわらず、何が、何かが、じゃあ、この国を暴走させないでいるのかっつーのは、なんかストッパーが働いてて、補助的なストッパーが働いてて……

シンジ あのね、旧枢軸国は全部暴走したわけですよ。で、それはねえ、結局コモンセンスってのを頼れなくなった時には、

ワタル うん。

シンジ 非常に危険なことが起こりかねないんですね。つまり、ファシズムの理論ってのはそうなの。ファシズム分析ってのが社会科学の伝統にあるんですよね。

ワタル うん。

シンジ これは、昔人々は田舎の共同体に所属していたんですよ。ところが、枢軸国って急に近代化したでしょ。急速に。で、急速に都市労働者が増えたんですよ。で、みんな孤独でさみしくて、たまらないわけ。このさみしい都市労働者たちを大きな家に所属させる。えー、それはつまり、

ワタル 大衆社会。

シンジ 過渡期の……大衆社会というよりも、それが要するに崇高な共同体としての国家なんですね。さみしい、昔の田舎の共同体に代わって、輝かしいですね、アーリアの共同体や第三帝国や……

ワタル 民族なんて。

シンジ 大東亜共栄圏をつくろうとですね、そうですね。そういう概念が持ちこまれるわけです、実はこの崇高な共同体としての国っていうのは、実は伝統とは何の関係もない極めて人為的なものです。で、まったく人為的なものであるがゆえに、この多くの場合、動機づけを構想させることになります。で、これは実例が既にあるわけです。我々のように共同体に頼る以外の、そのフィードバック、ネガティブフィードバックというですね、サーモスタット原理を知らない国が、今までアメリカという重しがありましたよね。アメリカに重しがあったので、天皇制に復帰することも日本が軍事大国化することも絶対に不可能だったんですけれども、このアメリカの重しがだんだんだんだん緩くなってくると。もちろんアメリカが目を、目の黒いうちは天皇制復活とか絶対にありえないんですけれども、しかし、アメリカが許す縛りの中ではですね、暴走はしないまでも極めて異様な事態が起こる形があります。で、とりわけ、あのー、共同体がですね、危機に瀕すると、ま、共同体を守るために何をするかわからないという大原則が。

ワタル ええ。ナチスドイツの時は、要するに、あの人たちは何を考えたかっつーと、共産主義を選ぶよりは、えー、民族主義を選ぶ。

シンジ ユダヤですね。

ワタル ユダヤ市民を排斥運動。えー、ヒトラー、あれは共産主義に奪われない、共産主義が政権取るよりはナチスが政権取ったほうがいいだろっつーことで、このガタガタの社会をナチスに委ねた。だけど、今、この日本の世の中で法律さえ、民族なんて日本人には実感できませんし、国家なんつーのもみんな考えてない。で、法律さえ、もう、無法状態といえる。何が支えてるのかっていったら、ここんなって出てきたのが、さっきの共感…共通…共生しようとか、えーと、我々の人という生物ってのの生の実感。もう、これ以外に最後のストッパーねえんじゃねえかっつう。そこでギリギリ耐えてるというかですね。えー、そういうふうな感じがしますねー。それだけじゃないとは思うんですけど。えーっとね、システムと、システムと生活世界っていうのは、えー、分離されてたっていう。支配する側もされる側も導入されてたはずなんですけど。ハーバーマスとかね。システムと生活世界って分けたりして。えー、今ね、今の社会だと、システムと生活世界は、例えば、同じ人間が担当してんすよ。朝7時に起きてシステムいって、夜中帰ってきて生活世界戻って、土日はいいおじいさんと。で、あのー、大蔵官僚とかに月から金曜までなってるとかね。その、同じ人間がやってる以上、

シンジ 鶴見くんね、だから鶴見さんがそういうふうに言ったんだけども、でも鶴見くんの言うことに共感する人間たちもやっぱり若い人たちに出てきてるわけじゃないですか。

ワタル はい。

シンジ だから難しくなってるわけですよ。例えばね、鶴見さんがそうやって共同体的な縛りからね、自由になっていくわけです。特に若い世代からね。そうすると年長世代は、これを社会の崩壊だっていうふうに呼ぶわけ。で、つまり、ぼくや鶴見くんは一旦人々がそういう共同体的な檻や箱から自由になって自分の足で立つ、立ってもらわないと新しいルールも共通の原則も成り立たないだろうと考えるわけですね。

ワタル うん。

シンジ ぼくたちが新しいステージだと、あるいは必要不可欠な通路だと思うものが、ある別の視角から見ると完全な崩壊現象のように見える。

ワタル うん。

シンジ それは見えるだけじゃなくて、そういうパワーストラクチャーに関する利害のですね、違いがあるわけなんですよね。そういうものに動機づいて、実は非常に深刻なコンフリクトでも起こりつつあるという状況です。

ワタル みなさん、わかりやすく言うと、歴史的……

司会 すいません。もう……

ワタル ちょっといいっすか。歴史的にちょっとね、退行してるぐらいに思ってもらえばいいんじゃないかな。近代社会って始まったの最初、あの「神は死んだ」ってとかね。あの夜警国家。夜警国家なんていうのがあって。それだけでうまくいかないんで福祉国家っつーのが出てきた。20世紀入ってからなんですけど。その福祉国家が肥大しすぎちゃって、みんな面倒見すぎちゃってる。だから、もうちょっと自己決定の方やって、その、ま、面倒みる側の力とかをもうちょっと減らそうっていうような、そんなことしてるんじゃないかなーと思ってるんですけど。その程度で……

司会 他にもう一人だけ、質問のある方いらっしゃいます? じゃ、そちらの方。

質問者5 あ、ちょっと話が戻っちゃって申し訳ないんですけど、えーと、『完全自殺マニュアル』の発禁とかってことが多少なりとも問題意識があると思ってお二人が前にいると思うんですけど、だとしたら問題は、その実質上発禁にすることで、たぶん青少年……防止……育成? なんか……

シンジ いろんな呼び方があるので適当でいいです。

質問者5 その辺の問題、その辺を理由にして表現の自由を侵害してる、その辺が口実となって表現の自由全体が侵害されてることが問題なのか。それとも、鶴見さん、ちょっと言ってることがぼくとしてはコロコロ変わられる感じがするんでよくわからないんですけど、若者? その、ほんとに青少年、未成年者の人権が今回の法律では守られてない、本を読めなくなる、だから、若者がかわいそうなんだっていうことが問題なのか?

ワタル や、若者っつーか、オレは全部20歳未満。

質問者5 その辺をだから、未成年者がその本を読めなくなるから問題なのか、それとも表現の自由全体がその……うーん。未成年者の人権という口実のもとに侵害されてることが問題なのか。

ワタル オレが問題にしたいのは未成年者の人権っていう誰も気づいていないことです。

質問者5 じゃ、宮台さん。

シンジ あのね、そのー、それを、ま、問題にしている。後者の方です。むしろ。ただね、あのー、こういうふうに考えてください。さっきインターネットの話をしましたがね、実際には鶴見さんの影響を受けた自殺系のホームページたくさんあって。ま、ドクターキリコの診察室で有名になったんですね。あのー、美智子交合がやっているサイトなんかも鶴見さんの影響でできたホームページであったっていうんですね。でー、インターネットに戸は立てられないので、実際には『自殺マニュアル』が発禁になっても、その分むしろですね、インターネットがその穴埋めをしていて。したがって、インターネットにアクセスできる若年者の人口割合が増えていけばいくほど、実は若い連中にとってはですね、さして不利益はないっていうふうになる可能性もありえます。あるいは鶴見さんがですね、誰かの助けを借りて『自殺マニュアル』全文公開をですね、例えばインターネット上で行ったりという可能性だって論理的にはありえるわけで。でー、本屋さんというのはさっき言ったようにね、共同体の中にある存在で不買運動なんかされた日には、おまんま食い上げになっちゃうわけです。田舎なんかだと。で、インターネットっていうのは共同体から自由でありうるですね、そういうコミュニケーションメディアでありますから、そういったものを自由自在に使えば基本的にはですね、若い連中はそれでアクセスできる可能性を遮断されてることにはならない。

 ただそのためには、インターネットにアクセスできる若年者の割合がもっともっと増えていく必要がありますので、みなさんこれから先電気メーカーとかですね、そういう、就職される方がいらっしゃいましたら、最近はそのー、女の人にですね、インターネットを普及させるための販売戦略をたくさんとってきて、とられるってことが多いんですが、これからは子どもです。えー、小学校に入ったらインターネットっていうですね、通念を流布させるような広告戦略をですね、展開をして。「小学生になってインターネットできないの!?」「お前まだ!?」「頭悪いんじゃないの!?」みたいなですね、そういうコミュニケーションが普及するようにしていただきたいと思います。

ワタル で、あのー、オンライン出版の方はもう着手してますから。

シンジ そうですか。はい。

質問者5 ありがとうございました。

司会 時間も大幅に延長しておりますので、その辺で質疑応答を終わらせていただきたいと思います。えー、それではですね、鶴見氏と宮台氏に花束の贈呈をいたします。(会場笑)

シンジ&ワタル (花束をもらう)

司会 拍手を……(大きな拍手)。えー、それでは人物研究会主催「秋の大講演会 鶴見済―対談―宮台真司」を終わらせていただきたいと思います(再び大きな拍手)。大変ありがとうございました。

(幕閉まる)

ワタル みなさん、今日はあんまり喋れなかったんで、自分が手書きで書いたレジュメを読んでもらえればそれで……いいたいことはそんだけです(会場から拍手)。今日、ちょっと失敗しちゃってすいませーん。今度は失敗しないように……

 

おわり


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