すばらしいワタル紀行 1999年11月4日(木)

秋の大講演会 鶴見済−対談−宮台真司 in 大隈講堂


1.『完全自殺マニュアル』規制騒動

ワタル みなさんレジュメを作ったんで読んでみてくださーい。えーっとー……ちょっと読みにくいかもしれませんが……『完全自殺マニュアル』が現在各都道府県で「有害図書」指定が相次ぎ、ほぼ絶版状態。発禁決定状態。それで、えー、宮台さんが闘った援助交際、児童……児童買春禁止法が11月1日から施行され、えー、援助交際禁止という。2人のライフワークがもののみごとにふみ潰されたという“怨念の”緊急討論にようこそいらっしゃいましたー

(会場拍手。幕があき、拍手&「おー」の声)

ワタル えーっと、じゃぁ、この……このあれはもともとオレが振られてですね、えー、宮台さんに対談をお願いした形になってるんでオレが進行役を務めますが。機を同じくして、これをみなさん持ってたら読んで欲しいんですが『自殺マニュアル』発禁。発禁なんですよね。もう発売できません。どこからも。えーとー、これはもう読んでもらうしかないって思うんで。宮台さんの方の状況もご説明くださーい。

シンジ 鶴見くん、もっと説明した方がいいよ。

ワタル あはは。

シンジ あのー、えー、太田出版とのカラミのこと。2,3分説明した方がいいよ。

ワタル あ、えーっとですね、えー、太田出版と版権を引き上げるような引き上げないような言っているうちに、東京都が結局審議会にね、今回は見送ったものの「有害図書」を指定する動きで物事を進めるっていうのに発言したのが実はゴーサインだったということで。いきなり神奈川県なんかでは、神奈川県っていうと日本で東京、大阪に次ぐ3番目のマーケットなんですけど、そこでいきなりもう「有害図書」指定が決まってしまって。それの詳細はここに書かれてある通りなんですけど、自殺を肯定するものはダメだ、というような。もうそれに、それに追い討ちを……それで雪崩式にですね、もう三重県とか自殺を誘発するでいいやみたいな形で現在10県ぐらい、約10県で「有害図書」指定が決まってしまい、前例を言うと、前、10年前、遊人の『ANGEL』っていうのが「有害」コミック騒動で「有害図書」指定をくらった時に、全10県で「有害図書」になったときに、集英社、版元の集英社が絶版を決定したと。全都道府県の10県も売れないところがでてしまったらこれはもう絶版。普通は、通常はもう売れないわけです。だからもう、文庫になろうが改訂版を出そうがもうこの本は消えてしまったと……。

シンジ だからさ、鶴見くんさ、「有害図書」指定って言うのは事実上発禁ではなくてね、あのー、制度的にはつまり成人にのみ売ってよい。未成年、つまりこの場合18歳未満ですけども―18歳未満、高校生、中学生、小学生には売ってはいけないっていう規定があるんですけども―それが事実上発禁に近い効果を持ってしまう理由をちょっと説明した方が。

ワタル あ、はいはい。えっとー、発禁処分っていうのはですね、実際にはやっちゃいけない。あのー、これはもう絶対にダメなんですよ。国が、えーとー、もう、あのー、注釈もなしに出版を規制してはいけない。つまり、どんな本も言論とか思想の自由っていうのは要するに本の形をもって現れるものなんで。出版を規制するってことは、もうどんな保留もつかずに認められないわけなんです。

 だから本来だったら性とか暴力、そういったものだって国とか規制できないはずなんですけど、これをなんとかですね「でも規制したい」って思うときに苦肉の策っていうのをとると。そういう時に、必ずあのー、あがってくるのが青少年とか子ども。子どもが真似するじゃないかっていう論議なんです。で、青少年育成条例っていうのも元々は、子どもに見せたら子どもに害があるからっていうふうに勝手に行政者が考えて、そこをなんとか苦肉の策として使って。条例っていうのは元々県の中の法律ですから、その県の中だけでは、県の中だけで、えー、それを売れないように、売れないようにようにしたりとか。神奈川県だったら閲覧とか贈答、読み聞かせなんかも全部禁止なんですけれども、そういうのを禁止するだけだと。我々は県の中で青少年の健全な育成を考えてそれをしたまでだ、と。

 っていうようなことをやるんですが、結果的に書店の人っつーのは読者の、購買者の年齢なんかわからないわけで。もうわかりきってるんですけど、あのー、でも施行するんですよ。で、それが一つのところがやりだすと、東京がやるっつーことは他の県に「やれ」って言っているようなものですから、それを全国的に広めて、こう、なんつーかな? 国盗り物語みたいにね。こうやって1個1個県を埋めていってそれで全部県が埋まった時に絶版確定と。ま、通常10県くらいでやめる。ま、その本の出版活動はやめるっつーのが普通ですね。で、事実上の絶版決定というアゼンとする事態になったんすよねー……。

シンジ ま、あのー戦前ではね、皆さんご存知のように治安維持法とそのエージェントである特高警察っていうのがあったんですね。ま、発禁本というのもですね、盛んにこう指定されたわけですね。この場合には風紀びん乱といってもいわゆる猥褻云々かんぬんよりも左翼、あるいは反国家思想ということで取り締まられたわけですね。ところがまー、戦後も発禁本てなかったわけじゃなくて、ま、『チャタレー夫人の恋人』、チャタレー裁判っていわれるものが……1940年代末期からの猥褻本、カストリといわれるような検閲を……

ワタル それって発禁処分?

シンジ いや、事実上あのー、発禁処分なんですね。ただ発禁という形には…

ワタル 猥褻っていう……

シンジ そうです。猥褻。

ワタル 自主規制させるんですかね?

シンジ いや、そうじゃないです。それは“猥褻図画頒布等”というですね、刑法に規定された法律違反になるので、当然出版社、版元と全部警察に逮捕されて、その次は裁判にもってかれますから発禁とまったく同じになる。これはいわゆる「有害図書」指定とは違って、“猥褻図画頒布等”というのは販売者、非販売者が誰であるか問わないで、一般的にやります、というカテゴリーですね。ところが、「有害図書」って言われるものはですね、もともと1950年代後半から徐々に施行されていく「青少年保護育成条例」とか「青少年健全育成条例」とか、あるいは「青少年条例」とか、えー、あるいは「青少年愛護条例」とかいろんな呼び方があるんですが、こういう地方条例の中にですね、18歳未満の児童―児童福祉法でいう児童概念ですが―児童に対して主に暴力ですね、簡単に言えば攻撃性、あるいは攻撃欲を強く刺激するものや性欲を強く刺激するものを売ってはいけないという。

ワタル 最初東京にしかなかったんですよね。

シンジ そうですね。

ワタル で、青少年、えーっと、東京では健全育成条例っていうふうな……あ、じゃないや「健全図書」「不健全図書」っていう呼び方をしてて。今でもあのー「不健全図書」が指定されると同時に必ず「健全図書」が指定されてるんですね。ちなみに前回のオレがこの審議を、架空の審議をやった審査会での「健全図書」は、『ハッピーバースデー 命のきらめき』とか。健全だなぁ……その程度のもんなんですよ。本来。

シンジ あのー90年代入るころにですね、和歌山県発でコンビニなどで主に売られている「有害」コミック、ま、これは彼らがつけた名前ですけれども、要するにエロマンガ。さっき遊人っていうのを挙げてましたけども、いろいろ発禁になりました。で、これを取り締まろうという運動が住民サイドから出てきて、それを受ける形で青少年条例ならびに「有害図書」を取り締まる、そういう条項を設けることになったわけです。で、この条項はですね、先ほど申しましたように当初は、暴力性と性的な刺激ですね。これを取り締まる。そういう趣旨に基づいたものであった時に、当然のことながらかなり拡大適用を行わないと『自殺マニュアル』の類に適用することができないはずなんですね。

 まぁ、岡山県などはですね、実は拡大適用したと言っているわけですが、他の自治体の多くは、この『自殺マニュアル』、この鶴見さんの本を取り締まるためにわざわざ条例改正を行って、自殺の誘引になる、ある意味自殺のみならず自傷っていうカテゴリーにいれることもありますが、自殺や自傷の誘引になる可能性の高い本については、これをある種の成人指定ですね。未成年に売ってはいけないという指定を行うことができるという。こういうことをやっていって。だいたい97年以降ですよね。鶴見くんの……

ワタル そう。

シンジ 本が……

ワタル 不思議なことにね。

シンジ 自治体で、ま、あのー、つまり「有害図書」指定をされて、成人にしか売ってはいけない本になったわけなんです。

ワタル ちなみにそのころの『自殺マニュアル』ってのは、既に在庫調整の段階で。えー、こうベストセラーの波ってのがあって、それが必ずロングセラーに結びつくわけじゃないんですけど、『自殺マニュアル』幸運にもロングセラーっていうのに乗っかって。棚が、こう、なくなれば補充する、なくなれば補充する……そういうサイクルを繰り返してたんで。そのころに何だか知らないけど決まって。

シンジ あのー、たぶんね、「有害図書」指定を行う議会の方々ですね、ま、議会、あるいは行政の方に青少年部とかがあって。その中に「有害図書」を指定する、そういう部署があるんですが、そういう役人さんの方々は、これは事実上の発禁処分になるっていうことを、おそらく知らない方もいらっしゃる可能性が非常に高いと。

 例えばですね、いわゆる成人映画ってあるじゃないですか。R指定とかっていうのもありますしね。あのー、中学生とかの少年である場合には、つまり18歳未満の方は保護者同伴でなければいけないっとかっていう指定がありますしね。あるいはそれ以前から成人映画指定というのがあって。でー、これ、ま、しかし指定されたから僕たちの目に届かないってことが行われるということはなくて。これだけアダルトビデオが流通に乗る前は、もうどんなピンク映画館の、意見、意見を……

ワタル 今ないですね。

シンジ 今ないですね。今、上野・浅草近辺の、あのーチョボチョボ……えー、ま、きたない町の周辺にあったりするわけですけれども。ま、要するに映画の成人指定、あるいはR指定っていうのは、いわゆる発禁処分とは違った効果をもつわけですね。じゃ、どうして図書、出版業界の方にはですね、「有害指定」、つまり「成人指定」、映画で言う成人指定ですが、成人指定によって発禁と同等の力を持つのかっていうことが、版元と取次とあと書店、で、特に最近の書店はチェーン化された書店が多いですよね。

ワタル そうですねー

シンジ で、その書店の3者の対応の中で決まることが……その辺もう少し説明していただきたいなぁと。

ワタル えーと、みなさんが一番聞きなれないことは“取次”っていう言葉だと思うんですが、実はこの流通過程で一番重要なポイントにいたのがこの“取次”っていう会社なんです。本来は本の問屋さんにすぎないんですが、えー、2つしかありません。日本中に取次。トーハンと日販の2つ。それで、トーハンと日販つるんでますから、そもそもこの段階で、取次が扱わないって言っちゃったら扱わないんですよ。扱えない。本っていうのは流通しないっていう。まず、一番デカイ規制がそれで。『自殺マニュアル』書いてたのも、ずーっとそれと闘ってきたんですけども。それで書店なんかのですね、例えば神奈川県でジュンク堂とかですね。神奈川県にあるチェーン店で、

シンジ 文教堂ってのがありますね。

ワタル えーとね、ジュンク堂と、しゅん……えーっと何だっけな? ちょっと2つチェーン店が、普通東京で目にしないのがあるんですが、そこなんかが全部返本してる。そういうデカイところが返本しだすとですね、小さいところっつーのは、今、あのー、神奈川県どういう状況になっているかっていうと、小さいところで置いてる所っつーのに警官が入りこんでるんですよ。売ってねえだろうな、あ、売らねえだろうなっていう風に見張ってるそうなんですけど、そんなことしてまで客足を引きたい意気地を持ちません、売ろうと思いませんから、いずれ全部返ってくると。

 そういうですね、えーっとね、そうなってくると例えば10県、あ、例えばまぁ、都道府県の中で半分ぐらいダメになったとしても、そんぐらいになっちゃうともう取次とかが「そんな本うち扱わねえよ」っていう風なことを判断する可能性があると。そしたら、その時点で絶版になる……。

シンジ 『自殺マニュアル』って最初から取次って扱ってましたっけ?

ワタル えーっとね、

シンジ 最初扱ってない?

ワタル 普通は、今の本の流れっていうのは、出版社が見こみ生産で1万部なら1万部なり刷ると、それを全部取次に渡すんです。で、取次の中に、コンピューターに、パターン配本、配本パターンっていうのがインプットされていて、それをぜーんぶ、あのー、1万部どこどこの書店に何部、どこどこの書店に何部っていうふうに送られていく。コンビニエンスストア方式なんですね。だから、今の書店なんてのは何にも考えてない。ただ取次の配本パターンによって、従って、入れる本を決める。それだけのものなんです。コンビニエンスストアと一緒ですから。だから品揃えが一緒でしょ? でー、えーっとね……何だっけ?

シンジ や、あのー最初から自殺、『自殺マニュアル』って取次が扱ってましたっけ?

ワタル あ、そうそうそう。えーっとね、だけど『自殺マニュアル』って、あのー、取次がそういうまき方をする中で、いちいち全部注文。注文とったんすよ。短冊ってあるでしょ? こういう、読者カードっていう。ついてるじゃないっすか。ああいうのに、いちいちこうやって書店の人のこういう1冊分なら短冊こういう風に書いて送って、FAXで送ってって120万冊分やったんだって。異常な……とてもじゃないけどありえないですね。前例がない。

シンジ あのー要するにですね、取次の方がある意味だからそのー、120万部累計……この間……えーと出されたのが5年前ぐらいですか? 6年前ぐらい? 5年前ぐらい?

ワタル 6年前。

シンジ 6年前かー。だからこの間延々と取次の方はハンディキャップを負わせてきていることがあるんですね。

ワタル そうです。ただでない。

シンジ うん。

ワタル だから今回のこういったことで、もう宅配とかそういうことでしかない。

シンジ うん。だから要するにいわゆるオーダーをこうやってきて、ところがその販売店側が要するに短冊をわざわざですね、注文とって送ってくれるっていう対応をしていたので、読者のニーズがあれば本がまかれたってことですよね。えーと、これは販売店の側が、いま施行される云々かんぬんって噂の反響をされてましたけど、

ワタル いやこれは太田出版の人が言ってたんですから。

シンジ そうですか。要するにこれは書店の側がわからなかったっていういい訳が通らないんですけれども。つまり、どんな理由があったとしても大半の場合がですが、18歳未満に売ってしまった場合には育成条例違反。で、青少年条例違反で、これ販売店があげることなんですよ。

ワタル 逮捕されるんですか?

シンジ 逮捕される段階なので、かなり「有害図書」と言われるものをですね、扱うのは、リスキーな振る舞いになるわけなんですね。これは映画なんかの場合はですね、成人指定とかっての行うのは映倫なんですけれども、映倫っていうのはこれ映画業界の自主団体、

ワタル 自主規制団体。

シンジ 自主規制団体から成人映画と指定されたものを18歳の人がですね、えー、16、14,5歳で見に行ってましたけれども、14,5歳で見に行って、それ入れたからといって映画館の方、側がですね、摘発されたりするということはないだろうことがですね、映画とちょっと違った非常に大きなですねリスクが、販売店の側に存在するということになります。しかしこれだけですとね、例えばアメリカなんかだと、例えば21歳か……21歳未満か、の人間に酒をだすとパクられてしまいますけれども、その場合には、お酒の……

ワタル それはどっかの州ですか?

シンジ 州、州。で、お酒について、これはあのー

ワタル 全国でないでしょ?

シンジ 全国じゃない。州によって違いますね。これは身分証明書提出させますとかいって。だからもちろん、それと同じように日本の書店も、まー「怪しいな」と思ったらば身分証の提示を求めて売るという、そういう選択をすれば売り抜けることはできるんですね。

ワタル うーん。

シンジ ところが、制度上そういうことは論理的に可能なんですが、販売者の側でそこまでして『自殺マニュアル』を売ろうっていう、そういう選択をするところがないわけです。あんまりない。あるかもしれない。

ワタル マスコミがありますからね。

シンジ で、まー販売店あるところですね、要因に帰することができない、日本の田舎的状況ってのがあって。そういう風なリスクをかけてまであえて『自殺マニュアル』を売り続けるということになると、当然のことながら地域住民との間に軋轢が生じますね。地域住民の方から「なんとかできないのか」って言ってくると、行政にクレームが行きますね。もちろん行政は直ちになんとかできない。法的には。しかしですね、クレームが来ているというようなことを書店に告げることはありえることだし、それによって地域住民のある種の共同体的な同調圧力を受けるということは十分ありうることなんですね。で、このようなことがあるんでこういった……

ワタル あのー、和歌山で最近、「有害コミックから子どもを守る会」かな? コミック……猥褻コミックから子どもを守る会の、その新興宗教の団体のおばちゃんたちが発起人なんですけど。その人たちっつーのは、えーと「有害」コミックを置いてないかどうか県内中全部探して歩いて「有害」コミック置いてあったら通報しますってことで。ケーサツに。で、ケーサツがやっぱ行くんですよね。それっつーのはもう露骨に戦前と同じ状態なんですよ。

シンジ で、まぁそういう風な状況があって、要するに結論的に言うとあのー、例えば東京のですね、一部の書店なんかは気合を入れて扱い続けるなんてことがあるかもしれませんが、日本全国規模で言うと、かなりのとこでこの『自殺マニュアル』を現行のシステムで制定すれば、入手することはとても難しくなりますね。でー、かいくぐろうとすればたぶん自費出版の本をですね、通販で配布するのと同じような形態をとらざるを得なくなると思うんですよ。その辺はでも鶴見さんどうなんですか?

ワタル いや、そういう風にしたところでやっぱりあのー、18歳未満の人に売ったら違法ですから、やっぱり売れないと思います。それをビビル限り。ビビル以上。

シンジ だから、通販だと問題になるのは相手が18歳未満であるか18歳以上であるかを、

ワタル 年齢の確認を……

シンジ 確かめることができなくなりますから。あのーもちろん身分証をコピーして下さいって言ったってそんなもんいくらでもいろいろインチキできますので。そして間違った人間に渡ってしまった場合にはやはり送り主がですね、この育成条例違反でパクられるかもしれないんで。通販のシステムはですね、非常に利用しにくい、ということですので、結局手はないんですかね? これは決定的に。

ワタル え、オレはもう打つ手はないと思って何も手は打ってませーん。

シンジ うん。

ワタル もう手遅れだと思ってます。

シンジ という状況がですね、あのーいまこの起きている『完全自殺マニュアル』という本を巡る、ま複雑な……

ワタル まったく何の罪もないでしょ。まったく理由がないのに発禁になった。

シンジ で、ここで一つね、注意しておきたいのは、戦前の発禁処分とか猥褻図画頒布等でですね、パクるっていうことではなくて、つまり正式な発禁処分ではないけれども事実上ある本を発禁処分に近い状態に置くことができるだろう、その制度。単独で使えば、その発禁という効果を引き出さないんですけれども、日本のさっき言った販売店の形態、そして行政側の対応を組み合わせたところ、事実上ある種の本を発禁にできるという、そういうシステムになっているという。

ワタル 責任をわけあっていて、全国の流通過程とか全部の、日本全部とか、そういった全体的に見て最終的に発禁、というような形をとることが多いんですけど。

シンジ うーん。で、あのー事実上発禁という意味がたぶんおわかりいただいたところで、あれですね、鶴見くん、この本が「有害」であるという指定のされ方がたぶん一般化しつつありますが、その点は鶴見さん自身はどういう風に考えていらっしゃるんですか?

ワタル これって、いやー、もーさんざん言ったから言う言葉がない。口で言ってもしょうがないんだなって思いましたね。いや、ホント100でも、10でも20でも言いますよ。

シンジ それを言わなくちゃ。ちょっと言った方がいいよ。

ワタル いやー、あのーそもそも自殺はなんで悪いのかから始まって、えーと、この本が自殺を誘発してる証拠はあるのかと。えーと、防止してる可能性はないかと。なんで自殺がこんだけあるのかと。で、そういう議論はしつくされているじゃないか。この本を買うのは、あ、この本で、読んで自殺したんじゃなくて自殺する人が、する人がこの本を参考にしたと考えるべきだろうと。えーっとね、そもそも自殺っていうのは違法行為じゃないんですから。自殺を誘発するもしないも……えー、いいや(笑)。以下『フォーカス』※1 参照(笑)。『フォーカス』……あーえー『創』※2 参照にしてください。

シンジ えーっとね。だからこの、いま観客の方々の中で『自殺マニュアル』を一部でもお読みになった方、手をあげてください。

ワタル へー!

シンジ こんなにいらっしゃるんですね。お読みになったことのない方、手をあげていただけますか。だいたい2:1ですね。

ワタル どっちが多いんですか?

シンジ 読んだことのある方のほうが多いですね。これだけ売れてるわけですね。ぼく自身、ちょうど『自殺マニュアル』が普及し始めたころってブルセラの世代をやってたんですけれども、結局買った人がですね、高校とか中学の教室で回し読みをしているんですよね。回し読みをしているので実際120万部っていうふうにいっても、読者人口ってのはこれはもうかなり上回る。数倍規模で上回るっていうのがあるわけですね。

ワタル で、これあの今度ね、あのー初めて知ったっつーオヤジの人たちとかが結構買い始めて。それで一時期、オヤジ主体の八重洲ブックセンターとかで勢いづいたんですよね。ってことは、まだ市場は残されていた。全然知らない連中がいっぱいいたっていうかな。だから、このまま売っときゃどんだけ売れるかねぇ、ちっともわからないし。

シンジ うーん。あのー私のパートナーで『AERA』の記者をやっている速水由紀子の話にはね、やはり『自殺マニュアル』っていうのを、記事を『AERA』で書いたら※3、やはりそれについて今まで知らなかった年長の方々から手紙が来て。いわゆる殺人等の手段の「有害」図書と『自殺マニュアル』は区別して考えるべきであろう。なにゆえならば、自殺についてはいいことか悪いことか実際にはちゃんとした合意が存在しないし、自殺を考えているので、そういうような本はむしろ……はい?(会場から「自殺じゃなくて安楽死について考えてる」みたいなことを言われる)

ワタル あ、そうそう。

シンジ 自殺じゃなくて安楽死のことも考えているんだ。

ワタル そうなんだ。安楽死のことも否定してるんだよね。

●注
※1 『FOCUS』1999年9月29日号に掲載された「trouble 「完全自殺マニュアル」著者が版権引上げ宣言!――ベストセラーの有害指定問題」のこと。
※2 『創』1999年11月号に掲載された「126万部ベストセラーの著者の激白! 『完全自殺マニュアル』のどこが「有害」なのか」のこと。
※3 『AERA』1999年10月25日号に掲載された「仰天手引書の氾濫 『完全自殺マニュアル』騒ぎの陰で」のこと。


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