すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)

現代的犯罪とその背景


2.誰が被害者なのか?

ワタル だけど、これ3つともだいたい、あのー、最近の犯罪が増え……少年犯罪なんか増えてるってさっき宮台さんがおっしゃってた、おっしゃったんですけども、どんな、内訳ってだいたいどういうのが大幅なもの? ドラッグじゃないかなってオレ思うんですけど。どうですか? 傷害とかそういった刑法犯っていうのは増えてるんですか?

シンジ 刑法犯……その、基本的には少年犯っていうのは刑法犯になるんですけども、あのー、いわゆる凶悪犯の

ワタル でもドラッグとかっていうのは、あれ覚せい剤取締法違反とか麻薬取締法違反で、

シンジ うん。

ワタル 刑法犯とは違います。

シンジ 違うの? どういったらいいの?

ワタル ええ、傷害とか窃盗とかそういうのが、いわゆる古典的な犯罪が刑法犯で、

シンジ はい。

ワタル で、こういった、あの売春であるとか

シンジ うん。

ワタル 宮台さんなんか追っかけてた売春、インターネット、

シンジ うん。

ワタル 毒物の、あの、受け渡し。そういったものがまったく別の法律で取り締まっ……新しくできた法律で。戦後以降ですよね。

シンジ で、鶴見くん見てみて。だいたいね、刑法犯のカーブと覚醒剤取締法違反のカーブとまったく同じなんですよ。だいたい。

ワタル うーん。だから……

シンジ えー、ほとんど同じカーブです。こうなって、こうなる。で、えー、これが、

ワタル でも、今になってとくに、まあ若い人の間で刑法犯が増えたという印象を、僕はないんですけどね。

シンジ まあ83年……で、1回下がって。で、94年ぐらいからまた上昇に転じます。こういうカーブですね。えー、少年法も刑法犯もほとんど同じ。

ワタル 最近の犯罪の傾向っていうのこれ明らかに言えることで、被害者がいないんですよ。

シンジ うん。

ワタル で、あのー、少年犯罪に限らず大人の犯罪でもやっぱりあのー、一番多いのって覚醒剤だと思うんですよね。たぶん。ちょっとデータ見てないんでわかんないんですけど。あのー、覚醒剤だと思うんですよ。で、囚人なんかも全部覚醒剤がダントツに多いです。

シンジ 刑務所なんか圧倒的に多いよね。

ワタル ぼくの留置所でも一番多いのは、常に覚醒剤が一番多いんですよ。あの、傷害とか窃盗とか売春斡旋とか入ってくるんですけど、常に多い。ダントツに覚醒剤が多い。半分ぐらいになっちゃうこともあるんですよ。

シンジ うん。

ワタル えーとー、だからそういった被害者のいない犯罪ばっかりが増えてるってのは、一体どういうことなのか? と。それによって司法っつーもの、司法体制っつーのも、ものすごいデタラメになっちゃってるのをオレは、あのー、逮捕されて裁判受けて知ったんですけれども。もう、あれ裁判行われてないですよ。

シンジ うん。

ワタル 少なくとも覚醒剤に関しては。そうですね、ほとんど検事が決めてますね。有罪か無罪かってのは。で、あのー、日本だけかと思うんですけど、みなさんご存知かどうか知りませんが、検事が起訴する、裁判にかけるっていうふうにした時に、裁判官がそれを「無罪」にすることは日本ではほぼ0パーセントなんですよ。

シンジ うん。

ワタル そんなことやってる国ほとんどない、ほとんどっつーか日本しかないですよ。世界中に。起訴されたら全て全員が「有罪」なんです。アメリカだと30パーセントっすからね。有罪者の判決率。日本で、だからとんでもなく変なことが起きていると。しかもこの被害者のいない犯罪に関してと。それはどういうことなのかと。そこら辺から世の中が見えてくるんじゃないかと。

シンジ うん、あのー、毒の方はどう思いますか? 毒は、毒はだから被害者がいるんだけど、

ワタル 毒……だってこのドクターキリコの事件自体被害者がいないじゃないっすか。

シンジ うん。

ワタル 誰が被害者なんですか? これ。

シンジ そうですね。

ワタル 誰? 誰に問題が生じてる?

シンジ うん。

ワタル わからない。しかも宮台さんが追っかけていたあの援助交際、誰が被害者なんですか?

シンジ うん、そうですね。

ワタル 覚醒剤、僕は誰に謝ったらいいのか? ねえ。自殺、自殺、社会問題、誰が悪いのやら……。

シンジ まあ、あるいは女子学生がダイエット薬と称して毒物をね、同級生に配布した事件とか、あとまあ、あのカレー事件なんかありましたけどもね。

ワタル まあ、あれは無差別犯罪、古典的な犯罪だと思いますよね。

シンジ そうですね。無差別、

ワタル 帝銀事件とかそういった類の。

シンジ まあ、あのー、被害者に対する特定された悪意がないという、えー……ま、

ワタル あのサカキバラ事件なんかも割と古典的な犯罪かなって思うんですよね。どこの国にもありがちな。

シンジ うーん、まあ、昔だと

ワタル あの人キチガイでしょ。キチガイじゃないですか。あのー、その後で先生刺した中学生いましたよね。

シンジ はい。

ワタル あの人の方がむしろ象徴的な感じで。あのサカキバラの方とかを追っかけていくとあんまり……ちょっとズレるんじゃないかなって気がしてるんで。あの人ちょっとキチガイだと思うんで。

シンジ うん、あのー、

ワタル 突拍子もないでしょ(会場笑)。象徴的じゃないんじゃないか?

シンジ まあね、19世紀あるいはそれ以前からね、中世からああいうタイプの殺人者、

ワタル 南米とかもそうですよね。あれ。

シンジ ええ。確率論的に時々出てくるタイプの犯罪で、

ワタル そうそうそうそう。で、神様まつって、自分の中で神様作り上げて人殺すっていうパターンがすげえ多いですよね。

シンジ はい。多いんですが……あのー、だからよくわからないんでね。サカキバラの調書が以前出たあと、親の手記っていうのがね、母親の手記ってのが出た。出ましたね。読まれた方おられますか? 『週刊文春』で。うーん、あれを見ると、まあ、だいたいみなさんが予想されているようなタイプの……まあ、ガイ、ガイキチなんですけど(笑)。やっぱり。で、やっぱこれはもう……もちろんだから母親がああやったこうやったっていう弁明や、あるいは、まあ、反省も書いてあるわけですけれども、基本的には距離がありすぎてですね、ちょっと因果的に結びつけることが確かにできない感じがしますが。しかしまあ、詳細はわからないので何も言えませんが。じゃあ、

ワタル で、この被害者が誰も、あのー、「私が被害を受けた」って言ってもいないのに一体誰が騒いでるのか? と。

シンジ うん。

ワタル 一体騒いでる人は誰か? っていうのを考えてみると面白いかもしれない。それは、あの……オヤジだと思う(会場笑)。オヤジでしょ? 要するに。ま、援助交際、自殺、ドラッグに関して言えば、若い人たちで「問題だ、問題だ!」って言ってる人一人もいないですよねえ?

シンジ ……はい。

ワタル あのー、変化、価値観が変化してきたっていうのは明らかなことで。そんなこと社会が変わってれば変化するに決まってるんですが、変化を恐がる人たちっつーのが若干いると。

シンジ いきなり突っ走ってますが、いえ、あのー……(会場笑)

ワタル や、ぼくはやめましたよ。

シンジ (笑)いや、いいですよ。はいはい。あのー、

ワタル やってませんよ、僕。

シンジ 要するにそのー、犯罪と、何かの振る舞いをね、犯罪として法的に多分規制する場合には、2種類の考え方あるんですよね。一つは誰かの権利を侵害したから。つまり個人的な法益を、法の利益を供するね、個人的な法益を犯したから、それについて償いをとってもらう。あるいはそれはいけない、っていう感じですね。もう一つ、そのー、被害者がいないっていうふうに鶴見さんが仰ったのは、その誰か特定された人間の個人的な法益、つまり人権の侵害はしていない……

ワタル 公共の福祉に反することですね。

シンジ そうですね、公共の福祉に反するということになってる。

ワタル 公共の福祉にしがみついているのは何者か? と。

シンジ はい、だからそれはね、性の問題とクスリの問題でもほとんど同じとこに行き着くんですよね。

ワタル そうなんです。

シンジ だから個人的な法益っていうことの外側に、ま、公共の福祉のことを法学の領域では社会的公益って言いますけどね。社会的公益、ま、公共の福祉。個人の利益の外側にいわば秩序の利益として立てることできるのかどうか? っていうことですけどね。

ワタル だけどまあ、最初資本主義ができた時っつーのは小さい政府、夜警国家とかね。その後大きな政府が公共の福祉のためになるとか。

シンジ うん。

ワタル それは時代を追うごとに変わってくるもんですから、それは膠着状態に陥ってしまってはいけないものなんですよね。

シンジ うん。

ワタル 時代、時代に合わす。そうやって、

シンジ うーん。

ワタル 変えていかねばならない。

シンジ はい、あのー、

ワタル 公共の福祉関連というのは。

シンジ 変わってきたんですよね。だから例えばね、性の領域に関しても70年代に入るまでは基本的には公共の福祉っていう観点から裁いたんですよ。

ワタル ええ、ええ、ええ。

シンジ だからセックスをすることが性の秩序を……

ワタル もう、ドラッグもまったくそうですね。

シンジ そうだろうね、うん。

ワタル 禁煙とか。

シンジ だからそれでちょっと鶴見くんに聞いてみたいのはね、だからさっきね、あの性の領域だと例えば家父長制的二重構造って言われるね、男が偉くて女が従うとか、

ワタル はいはい。

シンジ そのー、妻や娘は男の所有物だとかいうふうな枠組みがあって。で、男は買い放題で構わないが男の所有物である妻や娘は売ってはいけないっていうふうな規範がね、

ワタル はいはい。

シンジ あるとすると、男の買春は罰せられないけど女の売春は罰するっていう仕組みには極めて合理性があって。つまり良き秩序という、はっきりした良き秩序のイメージがあって、

ワタル ええ、ええ、ええ。

シンジ こういう秩序をもとにして売春を裁きます……だいたいそれがだいたい、性のやり方だったとすれば、そのクスリに関するね、

ワタル はい。

シンジ そのー、姿勢を支えている秩序イメージってのはどういう秩序イメージなんでしょうね。


3.風紀委員の倫理とビシッとさせる精神

すばらしいワタル紀行目次へ