すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)

現代的犯罪とその背景


7.パンクからレイヴへ

シンジ そうですね。あのー、だからその「現代的犯罪」って言われるものもね、そのバランサー……つまりキツくなった社会でキツイことをなんとかやるためのバランサーっていうことから見ると、かなりの部分がある程度カバーできますよね。そういう枠組みで。

ワタル そうですね。

シンジ でー、鶴見くんが言ってることっていうのは、キツイなら降りろ、ってことですね。比較的。

ワタル そうですね。はい、はい。

シンジ とにかく、その補完的リラクゼーションを利用するだけじゃなくて。

ワタル 無視、無視しろってね。

シンジ うん。だけどやっぱり、あのー……いや、だからそのための布教活動を今までされてきたわけでしょ。

ワタル うーん、まあ、あくまでも自分のためだと思ってたんですけど。

シンジ あのー、『檻のなかのダンス』とね、それ以前の作品がやや違うのは、例えば『完全自殺マニュアル』がね、そのー、これがあるって理由でね、「これを持って自殺するやつがたくさんいるんだ」っていうふうなバッシングあった時に、

ワタル はいはい。

シンジ 逆の言い方もしてましたよね。「いや、これがあるおかげでなんとか生きていける」っていう。

ワタル や、もともと

シンジ うん。

ワタル ええ、ええ、そのために書いた本なんですけどね。

シンジ そうだよね、うん。でもその場合には、ほら、これがあるからなんとか生きていけてしまうという現実があって。

ワタル はいはい。

シンジ うん。だから僕の周りにもそういうのいましたよ。何人か学生とか知り合いとか。

ワタル あー、手紙でも来ました。手紙来ました。

シンジ 「いつでも死ねると思うからなんとか頑張れる」とかね(笑)。

ワタル ええ。

シンジ うん。だからその意味で言うとちょっと補完的なところありましたよねえ。『完全自殺マニュアル』。

ワタル そうですねえ。だからこそ『人格改造』書いたんすけどもねえ。

シンジ うん。

ワタル うーん、違う……そこに断層を感じられます?

シンジ や、

ワタル あのー、『檻のなかのダンス』からと。

シンジ 『檻のなかのダンス』で、だから断層を感じましたね、僕は。だから鶴見くんが

ワタル 断層、断層っていうかその2つは違うもの?

シンジ だと思いました。

ワタル あ、そっすか。

シンジ うん。あのー、前者の2つはある程度システム補完的な、っていうか、システムとうまく結合してしまう部分が

ワタル あー、なるほど。はい、はい、はい。

シンジ あったと思うんだけど、鶴見くんがその第3作目の自信作だっていうふうに言った理由は、読んでみて「ああ、そうか」っていう。

ワタル 何しろ社会学専攻ですからね。

シンジ うん。

ワタル 社会のこと書きたくてライターになったんすから。

シンジ うん。や、だからあのー、その意味で言うと、なんて言ったらいいんだろ? そういうふうにして書いたものであるにもかかわらず、ある程度そういう感覚っていうのをね、自明化、当たり前化していたっていう部分が若い人たちにはやっぱり、そういうのがあって。

ワタル うーん

シンジ だから

ワタル でもどうでしょうねえ。

シンジ 一部だけどね。もちろんね。

ワタル そう思われます?

シンジ や、どうも

ワタル 手紙見ると、

シンジ うん。

ワタル やっぱり、あのー、「気付かなかった」っていう手紙が圧倒的に多いですよね。

シンジ うん。

ワタル 「初めて知った」とか「目から鱗が落ちた」とか。

シンジ そうですね、もう知っちゃってる人間読まないと思うんだよなぁ。

ワタル だけど、

シンジ うん。

ワタル フーコーを、フーコーの『監獄の誕生』を、ま、そっくりそのまんまなんですけど、それを今のに当てはめただけなんですけど。フーコーを読んだ人間でさえ、気付いてなかったことじゃないのかなと俺は思いますけどねえ。

シンジ うん。やっぱね、だから鶴見くんはそのー、あれなんですか? あのー、社会に対する敵意っていうの持った時期ってないんですか?

ワタル (笑)最初の『自殺マニュアル』のころね。

シンジ やっぱ敵意があった?

ワタル そっす。

シンジ それはつまりどういった敵意なんですか? それは。

ワタル いや、えーと……相手、対象はないんですよ。

シンジ うん。

ワタル 対象はないんで。あのー、パンクってミュージック、

シンジ はい。

ワタル ムーヴメントそのものがそうなんですけど、イライラするぜ、退屈だぜ。で、ヤツラにやられ、踊らされるな。で、ヤツラって誰かわかんないとかね。

シンジ うん。

ワタル だけど、それ自分の不快感のはけ口を求めていたのみ、って感じですよね。

シンジ でも、例えばね、それで言えば今そういう人間いっぱいいるでしょ。井上三太的世界っていうかさあ。

ワタル はいはいはいはいはい。

シンジ あのー、ムシャクシャするぜっていう。

ワタル 相変わらず暴力行為行われてるみたいですしね。

シンジ うん。いっぱいあるよねえ。で、そういう敵意の源泉っていうのは何、何なんですか? それは。

ワタル だけど、

シンジ うん。

ワタル 自分らの頃……僕、僕なんかもう明らかですよね。きっと、ドリルですよね。

シンジ うん。

ワタル でもドリルゆるんできてると思うんですよ。

シンジ そうですね。

ワタル ドリルって言ったら、みなさんお分かりにならないかもしれないんですが、受験勉強とかクラブ活動とかを無理矢理させて、体をビシッとさせて。一生大人しく定年退職まで国のために尽くさせようと。人を使おうと。そういうシステムかな。そういうのが自分にとっては一番嫌で。それでムシャクシャ。だから終わり……あのー、“終わりなき日常”っつーのは、俺にとって本当に絶望的な言葉だったんですけども。それ宮台さんとその後対談するんですよね。あのー、『毎日新聞』で※。

シンジ うん。

ワタル そん時に言ったのは、えーっと……“終わりなき日常”がだんだんよくなってきたと。いい、それもそれでいいじゃねえかって気になってきたんだっつーとこで、ちょっと変わりましたよね。

シンジ うん。

ワタル そっから、そこら辺から何かよくなってきたのかな? 割と。

シンジ うん。

ワタル 社会に対する敵意はなくなってきました。

シンジ でも、どうだろう? その、僕はよく分からないですが、そのパンク的なものからね、そのレイヴ的ものへ

ワタル そうそうそうそう。

シンジ ってあるじゃないですか。

ワタル 簡単に言うとそうです。はい。

シンジ そうだよね。でも日本ってそれどのぐらいの規模で起こってるんですか? それは。

ワタル えーっとですね、パンク・ムーヴメントっつーのは明らかにムーヴメントって言っても構わないと思うんですけど、

シンジ そうだよね。すごかったよね。

ワタル えーっと、まだダンス・ムーヴメントはまだまだですね。

シンジ うーん、思ったよりも僕ね、広がりが少し遅いような気がするんですけど、どう思われますか?

ワタル ドラッグがないからじゃないですか。

シンジ ドラッグがないから。

ワタル ええ。やっぱりドラッグがないと、一晩やりすごすの……DJが悪いと、音が良くないとね。苦しい場合が多いですよね。音がよけりゃあいいんですけど。またヨーロッパに比べて、例えば日本の音とかも若干良くなかったりするんですよ。

シンジ うん。

ワタル そうすっとますますダルくなって、離脱しちゃう人が多くなってくるっていう。だけどダンスじゃなくても、体が気持ちいいことだったら何でもいいと思うんですけどね。じゃ、宮台さんいかがでした? えーと、何度かお会いしましたけれども。

シンジ うん、

ワタル ダンス会場で。

シンジ あのー、

ワタル キツイ?

シンジ その後もね、いや

ワタル つまんなかった?

シンジ 結局ね、すごくいい音のとこ行ったんですけど、

ワタル はいはいはいはい。

シンジ メッチャクチャ混んでて。いい音のところは混んじゃう。踊るロケーション悪いんですよね。

ワタル 会場悪いですね。メチャ悪いですね。踊るようにできてないっすから。

シンジ ということは、もともとだと思うんだけども。あまりにもちょっと感じ、状況悪いよね。

ワタル それと外でやるのが、僕は外で踊るのがほんとに一番好きなんですけど。

シンジ うん。

ワタル そうすると固定メンバーが行ちゃったりとかして。

シンジ あー、なるほどね。

ワタル なかなか初心者には足を踏み入れ難い、とかね。

シンジ うん。

ワタル なかなか難しい状況あるんですけど。でも増えてるような気がします。

シンジ うん、僕はある意味では増えたせいでねえ……だから数が要するに少ない時の方がね、ある程度環境を整えやすかったんじゃないかな? って気がするんですよ。やっぱり。いま、その人口がある程度増えてきた時点でインフラ的なね、壁にちょっとぶち当たってるかなあ、と。ヨーロッパとかに比べると。

ワタル ああ、はいはいはい。

シンジ うん。だからちょっと、

ワタル インフラ的な壁というと?

シンジ だからそのハコであり、レイヴを行えるような場所であり、

ワタル ああ、そっかそっか。

シンジ うん。

ワタル そっか。なるほどねえ。ハコとか……

シンジ で、そこに行けばいい音も聴けて、ちゃんと踊れるという。いい感じなれるっていうねえ。だから今のいい音だす、その石野卓球とかが前にあそこでやった時、

ワタル はいはいはいはい。

シンジ リキッドルームでやった時、

ワタル はいはいはいはい。

シンジ メッチャクチャ混んでてね。やっぱり。

ワタル 1500人ぐらいいますからね。定員1000人のところに。

シンジ あの辺なんかアイデアないんですか? レイヴを勧めようとかやってる人間の中には。

ワタル いやー

シンジ たぶんそのハード的な問題がね、

ワタル ロンドンとかだと……リキッドルームって定員1000人なんですけど、2000人ぐらい入れる大箱でみんな平日からガッツンガッツン踊ってるんですよね。

シンジ うん。

ワタル だけど日本で、東京で少なくともリキッドルームより大型のハコを作るのはまず無理ですね。

シンジ 無理だよね。

ワタル あの、湾岸の方とかにできるぐらいかな? って感じ。

シンジ たぶんそれが壁なのと、あともう一つの壁は、やっぱりあのー、まだ閉じてるよね。うーん、

ワタル サークル的なところが。

シンジ サークル的雰囲気ありますよね。

ワタル だからお互いの……セクション化するんですよ。また。

シンジ うん。

ワタル よりによって。そういうのは、「そういうのやめようぜ」っていう音楽だったはずなのにね。

シンジ で、オープンマインド、オープンハートっていうのはなかなか……

ワタル ええ。

シンジ うまくいってないですよね。それもクスリのせいかな?

ワタル や、えーと、どうな……国民性かもしんないんですけど(笑)。

シンジ うん。

ワタル だけど欧米の方でも一気にドーンと今の状態に……3万人レイヴを行える状態になるまではやっぱ4年も5年もかかったと思うんで。

シンジ うん。

ワタル いい状態にはなってるとは俺は思いますけどね。

シンジ なるほどね。

ワタル だいたい若い人たちを見ると、なんとなくそんな感じしません?

シンジ うん。

ワタル 援助交際いいじゃん、って。

シンジ うん、だからね、援助交際って今すっごい下火になったんですよ。東京近辺ではね。

ワタル あ、そっすか。

シンジ うん。高校生に関して言うと。で、逆にね、年長者にどんどんどんどん増えてるんだけど。つまり、やっぱりあれもね、バランサーだった部分があると思いますね。その若年者がバーンって援助交際してるときには。で、もちろん自分にとってのバランサーでもあれば、一部環境、例えば親があって学校があって、っていうのに対してバランスを取るっていう。自意識の問題と環境の問題両方にバランスを取る、っていうのがあったと思うんだけど。だからもっと“まったり革命”が進行しちゃったんでねえ。

ワタル ええ。

シンジ はっきり言って、逆に援助交際やることに無理があるように感じるようになって。

ワタル や、それは一時期もてはやされたからこそ向かった、過剰に向かっちゃったっていうのがあって。

シンジ うん。

ワタル そのゆり戻しがあるってのは健全なことなんじゃないんすか。

シンジ いわゆるネオコギャルは援交してないんですよね。でもそれで言うと、まだ無理がいっぱい残ってる地域とかでは相当にありますね。

ワタル でも相対的に見ればまあ、なんとなく……そもそもね、ああいう人たちがもう発言する、だんだん段階になってきてると思うんで。

シンジ うん。

ワタル そうすると、さすがに小林よしのりとか福田和也って駆逐されるんじゃないかな? と思いますけどねえ。

シンジ うーん。

ワタル どう思いますかね? だって宮台さんぐらいでしょ。はっきりいって。あのー、

シンジ 宮崎哲弥も最近賛同してますけどもね。

ワタル 宮台さん、

シンジ はい。

ワタル 俺が30年生きてきて、こういう人初めてですよ(笑)。ドラッグ解禁、ドラッグいいじゃねえか、援助交際いいじゃねえか、っていう評論家。

シンジ (笑)

ワタル これ画期的な、画期的なことだと思いますけどねえ。

シンジ うーん、まあ、でも、あのー

ワタル そういう人も出てきていると。

シンジ だからそのー……やっぱりほら、鶴見くんも『完全自殺マニュアル』の時にはね、そのパンキッシュなさあ、つまり方向性のない敵意ってのがあったってあるじゃない。僕もそれ、すごい長い間やっぱり……あったわけですよ。でー、ブルセラ問題でデビューをした、マスコミデビューをした時には、やっぱりちょうど……鶴見くんの『自殺マニュアル』のちょっと後ぐらい

ワタル その前から知ってますよ。

シンジ うん、その前も基本的には

ワタル 『サブカルチャー解体神話』。

シンジ 神話解体。

ワタル 神話解体。

シンジ あの辺も、だから非常に漠然とした敵意はありましたけれども。僕もね、その……昨年暮れ以来けっこう長い鬱になって。相当厳しかったんですけども。鬱を越えてみたら結構ラクになってましたねえ。僕も最近よく散歩するんですよ。散歩男で。今日も代々木公園散歩して、ヤキソバ買って食ってたら花びらが落ちてきて。花びらのかかったヤキソバを食ってうまかったですけどもねえ。

ワタル あ、そうっすか。

シンジ 花びらはうまいなあ、とか思って。

ワタル 今度一緒に公園行きません?(会場笑) 公園いいっすよねえ。公園。

シンジ いいです。最高ですねえ。今日代々木公園3時間ぐらい散歩しました。

ワタル (笑)ほんとですか?

シンジ ええ。

ワタル 俺この間、日比谷公園3時間っすよ(笑)。

シンジ うん。や、だからねえ、そういう感じを持ってきたっていうのはありますよね。だから僕たちが取材したりとかする時も、

ワタル そっか。

シンジ 取材したり踊ったりっていう割と動きを、世の中の動きとシンクロしやすい場所にいるからだと思うんだけども。

ワタル ええ、ええ、ええ。

シンジ うん。やっぱりだんだん……世直しとか言ってるヤツ阿呆に見えますよね。やっぱりね。

ワタル うーん。

シンジ 海とか山とか行ってるのは阿呆だなって気がしてくるんで。

ワタル うーん、何を……

シンジ うん。

ワタル 宮台さんみたいに俺は「世直しモード」とかそういう気はサラサラないんですけども、何が、何を心がけるべきか? 2,3キーワードを言う、言うとしたら、

シンジ うん。

ワタル 自分が一番、何を大切なのか知るのと知らないのは、たぶん分かれ目だろうなと。

シンジ うん。

ワタル 俺は自分の幸せのみ! 自分の生活のみ! って限ってるんですよ。だからうまくいったんじゃないかな、と思うんですよね。他のことは全部切り、そのためには全部切り捨てることも辞さないと。自分はみなさんどうなりたいのか? 社長になりたいのか? 社長になりたい……幸せになりたいというのがやっぱり一番一般的な意見だと思いますが、幸せになるためにはどうしたらいいのか?

シンジ それがわかんないんでしょ、多くの人は。たぶん。

ワタル や、それはでも自分で考えるしかない。せっかくこうなっちゃった以上ねえ。それに今までよりは幸福だと思いますよ。だって幸せになれないことを「幸せになれる」っていうふうに教え込まれてたわけですから。まだ自分で考えられるだけマシであって。だからほんとに学校行くことが自分の幸福につながるのか? ですとか、朝日カルチャーセンターに行けば自分は幸せになるのか? とか、毎日いま通ってる会社でやりたいことが、ほんとに自分のやりたいことだったのか? とか。えー、もし辞めたらほんとに食えなくなるのか? そんなにカネが欲しいのか? とか。働きたいのか? 俺は働かな、働いてない。でも幸せですからね。自分の目標達成しちゃってますから。有名になりたいのか? とかね。そういうことを、自分が一番何を大切だと思ってるのかわかってるってことが大事じゃないのかなーっていう気がしますねー

 

※ 『毎日新聞』1997年2月25日付・夕刊に掲載された鶴見済×宮台真司「リセット文化」のこと。この対談は『ポップ・カルチャー』(宮台真司+松沢呉一、毎日新聞社)に収録されています。


8.キーワードは「自由」

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