すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)

現代的犯罪とその背景


6.新しい幸福

シンジ うん。後ね、あのー、毒物とか薬物ってことについてだけども、

ワタル はいはい。

シンジ 最近ほら、健康ドラッグって言い方をしたりとか、ま、いろんな言い方アメリカであるんだけど、「病気だ」ってクスリ飲むっていうんじゃなくて。クスリを飲むってのが日常化してますよね。

ワタル そうですね。

シンジ うん。でー、たぶんその動きが今日本にも上陸しつつあって。つまり病気じゃないけど日々快適に過ごすために、

ワタル とくに向精神薬っていうやつですね。

シンジ そうですよね。

ワタル あのー、1950年代以降、えー、それまでの精神科治療ってクスリってなかったんですよ。

シンジ うん。

ワタル 何があったかっていうと電気ショックとロボトミーだけなんです。とんでもないんですけども。50年代からは全部向精神薬、抗うつ剤だとか精神安定剤だとかが主流になってきたのは、ま、アメリカあたりが発端になっ、アメリカ、ヨーロッパあたりが発端になってきて、日本にもどんどん上陸してきたと。だけど頭を操られるのはどうも恐い、と。

シンジ うん。

ワタル だからすごい、向精神薬に関してメチャクチャ敏感なんですよね。この規制に関しても。だからいきなり麻薬取締法は、麻薬及び向精神薬取締法に。1990年だったかな? 突然変わってしまったという。ドラッグ扱い。

シンジ あのー、

ワタル 新しいそのー、倫理、倫理観、価値観についてけない人たちの最後のあがきって感じですかね。

シンジ うん。でもね、NHKが前ドラッグについて、ついてのね、ドキュメンタリーを、ま、去年の初めぐらいに、春に放映したときに、アメリカの紹介をしたんですよ。で、やっぱり、その、ま、リタリンとかプロザックとか、まあ境界が曖昧なクスリをいっぱい混ぜて、

ワタル ええ、ええ。

シンジ とくに日常的に使ってるわけですよね。

ワタル はいはい。

シンジ で、もちろん処方がなきゃ使えないクスリってなってんだけど、自分で買ってきて。で、ただそれに一回はまったことのある人間が、それから離脱する、ま、NHK的にね、その離脱するその理由がね、クスリを入れた自分が本当の自分だとは思えないと。本当の自分は、つまりクスリで上げ底されていない状態の自分だと思うみたいな。だからナチュラルなものがいいと思うから、だからクスリでなくて、クスリよりも自己改造セミナーっていう。

ワタル ええ、ええ。一回クスリを通過して、ナチュラルの方がいいっていう。

シンジ いいというふうに言う。そういうことはどう思いますか? ナチュラルでもいいんですか?

ワタル や、それはむしろ日本なんかやるみたいに「クスリを飲むな!」っていうよりも全然健全な社会だと思いますよね。そうやって自己選択できる。自己決定っつーのは、もうどうしようも否定しようのないことだと思いますけどね。「自己決定、自己決定って言うな!」って言う人、何考えてんだろ? って思っちゃいますよね。

シンジ うん、あの、ま、それ選べるとしてね、その選べるって選択肢与えられたときに、そのー、ナチュラルかね、そのナチュラルじゃないかっていうことは、鶴見くん重要ですか? それは。

ワタル え? えーっと、それはほんとに人それぞれ分かれると思うんですよ。

シンジ うん。

ワタル 自分が見た限りでも分かれますし。

シンジ うん。

ワタル だから、それを選択できるかできないかを大事にしてほしいなっていう気がしますよね。

シンジ うーん、それ例えば、それこそ鶴見くんはどっちなの?

ワタル え? 僕ですか?

シンジ だんだんナチュラルな方に行ってるような気もするんですけど。

ワタル や、できることならオレは一生クスリで(会場笑)。

シンジ (笑)

ワタル だってスッゲーいいんですもん。

シンジ うん(笑)。

ワタル 無理、無理無理。エクスタシーとかやったことありません?

シンジ いやー(笑)。

ワタル 僕はあれ、あの多幸感は、

シンジ うん、はいはい。

ワタル 毎、毎週、毎週多幸感なんですけど、

シンジ うん。

ワタル ガーッて幸せになっちゃうんですけど。あのー、一生、自力だったら一生のうちに2、3回かな? って思うぐらいですよ。その多幸感たるや。

シンジ うん。

ワタル すごい……。女の子にふられた後に、直後はもうこの世の地獄だって思ったんですけど、いきなりそれ食っただけでニヤニヤ、ニヤニヤ。とまんないです、ニヤニヤが。「ちょっと幸せかもな」とか思っちゃって(会場笑)。「ふられるのもまた良し悪しだな」なんて思っちゃったりとかして(笑)。

シンジ うん。

ワタル 少なくとも口元ニヤニヤしてましたから(笑)。

シンジ じゃ、逆にそのナチュラル系の人間の気持ちってわかります?

ワタル それもわかります。

シンジ それはどうしてナチュラルにこだわるんですか?

ワタル これ、これ(持ってきた鉢植えの花を指す)。それが今これなんですけど。うーん、ここまで話し持ってくのすごい難しいんですが……。宮台さんはこれいいなあって思います?

シンジ 思いますねえ。

ワタル 思います?

シンジ うん。

ワタル あ、そっかー。や、ほんとにいいんですよ。でもオレ……えーっと、たぶんレイヴに行ったりとか留置所に入ったりする前までは、こういうのは、見るのは時間のムダだと思ってたんですよ。

シンジ うん。

ワタル そしたら、あのー、まったく……あ、そうそう。今まったく仕事してないんですよね。ちょっと話しズレちゃうかもしれないんですが。自己決定は自己決定でそれは絶対重要だっていうことで、とりあえずさっきの所は置いといて……。えーっと、今まったく仕事してないんですよ。

シンジ うん。

ワタル これからも仕事する気がないんですよ。でー、そんななってくると、今まで限りなく余暇、余暇の時間が延びていってるなーと思ってたんですけど、それが全部になっちゃうとさすがに余暇って思えないんですよね(会場笑)。そっちが本番の時間に。いきなり……だから全部本番の時間になっちゃったんですよ(笑)。突然。じゃ、でも仕事してないときですから、じゃ、本番の行為をしなくちゃいけないっていうことになってくる。

シンジ うん。

ワタル それはほんとに論理的に考えてるんじゃなくて、自分のイメージなんですけど。そしたらやっぱり一生懸命、一生懸命っつーか、今まで一生懸命いい本書いたりとかしたように、一生懸命いいご飯を食べて、一生懸命いい睡眠をとって、一生懸命、例えば……えー、いい散歩をしてとかですね。それが本番行為に思えてきたんですよ。それが自分にとってものすごい劇的な変化、一生に何回か、っていうぐらいの劇的な変化で。今まさに、それにビシビシと打ちひしがれてるとこなんですけど。そうすっとこういうもの(花)がですね、自分じゃなんとも説明できないんですけど、たまらなく……ただ見てるだけでいいんですよ。ただ生きてるだけなんですけど。ほんとに。みなさん思わないでしょ? 花なんてって思うでしょ。でもいつかたぶん、そう思う日が来ると思いますよ(会場笑)。

シンジ あのね、鶴見くん、それはこういうふうに……

ワタル だってすごい美しい色だなって思いません?

シンジ うん、あの、こういうふうに言うと、鶴見さんがね、だから以前その仕事を、ま、ガンガンガンガンやってた時には、仕事をやっている自分をバランスするとか、緊張したと思ったら緊張をほぐすとかっていうその「陰と陽」でもいいし「表と裏」でもいいけども、そういう組み合わせの中で、例えばクスリっていうのが意味をもったけども、逆にその「表と裏」っていう感じで「表」がなくなって。したがって「裏」を表化したといってもいいけど。そうなった時に、ナチュラルなものに対して感覚が開かれたっていうふうな感じでいいですか? それ。

ワタル ええ、ええ。まあ、ほんとに散歩とかするばっかりな生活なんですけど。

シンジ うん。

ワタル うーん、ま、いろんなもの見るしかないですよね。ただ単に歩きながらいろんなものを見る。それが本番行為。だから一生懸命見るんですよ。見るようになるんですよ。そうすると見方がわかってくる、って言ったらいいのかなあ? 見るコツがわかってくると、ほんとに……例えばコケとかすごい好きなんですよね、いま。コケとかカビとか。そういうのなんて当然みんな、あのー、わざわざ見ないじゃないですか。いちいち見る人いないんですけど。僕なんかわざわざ山とかまで、樹海とかまで行って、コケ見に行ってる。

シンジ うん。

ワタル わざわざ採集して帰ってきたりとかして。培養とかしてますからね(笑)。

シンジ コケって培養できるんですか?

ワタル や、できます、できます。コケとかカビとかね。青、青くてバーッと青いカビとかすごいきれいですよ。汚いもんは嫌なんですけどね。やっぱり。うーん……すごい。

シンジ うん。

ワタル で、全然、で、今の状態がまったく虚しいか? つったら、これが今までに感じたことのないほど充実した毎日なんですよ。

シンジ なるほどねえ。

ワタル 不思議なことに。そういう……当然こんな状態になったら、「なんかヒマになるんじゃないか?」とか「虚しくなるんじゃないか?」とか自分でも思ってたんですけど……や、もう仕事なんかほんとしたくないぐらい

シンジ うん。

ワタル 充実してますね。幸せです。ほんとに。

シンジ だから「時にはリラクゼーションを」とか「時には自然を」っていうふうな自然派じゃなくてってことですね。

ワタル そうですね。だいたい「余暇」っていう字が、「余りの時間」って感じ、ことじゃないですか。

シンジ はい、レジャーって、まあ、そういうねえ。

ワタル ええ。

シンジ うん。

ワタル だけどまったく仕事しない幸せっつーのも、実はあるんだっつーことに気がついたって大きいなって思って。やっぱこれもさっきの話しにつながってくると思うんですけど、価値観ね、価値観。一体どういう幸せがあるのかっつーのが、ものすごい多様になっちゃってるから。えーと……

シンジ でも、鶴見さんどうだろうね。今の話しを聞いてね、思うのはね、例えば僕テレクラフィールドワークしてると思うのは、テレクラってやっぱりバランサーなんですよ。バランサー。つまり一方でビシッと、良き妻、良き母やるとかね、良き家庭人やってるとかっていう表の顔と、

ワタル はい。

シンジ 表の顔であれば収まりきらない何かプレッシャーとか、

ワタル はいはい。

シンジ 感受性とかがあって。それバランスするために匿名メディアを使うとか、トリップするとか、

ワタル はいはい。

シンジ だから匿名メディアから、そのクスリから何から何まで、今広がっているものの内のかなりの部分はやっぱりバランサーだと思うんですよ。だから以前よりもね、やっぱビシッとすることとかが、やっぱり当たり前じゃなくなってきたじゃないですか。

ワタル ええ、ええ、ええ。

シンジ だからビシッとした家庭人とか、ビシッとした学生とか社会人やろうと思うと、昔よりもね、ストレスすごい高いと思うんですよ。

ワタル もともとストレス高い行為で、なおかつそれが社会的に有効でなくなってきたってことですね。

シンジ そうです。なくなってるから。だから少なくして、だからどんどんバランスをとるためにね、そのリラクゼーションだ、そのー、自己改造セミナーだ、テレクラだ、そのトリップだっていう部分があると思うんですよ。

ワタル ああ、はいはいはい。

シンジ うん。それで言えば、今鶴見さんが仰った

ワタル でもそれはあくまでも、

シンジ うん。

ワタル 休憩って感じですよね。本番は仕事なんだ、仕事で成果を上げるためにリラクゼーションするんだって感じで。

シンジ そうですね。つまり

ワタル その逆転は起こっ、起きてないじゃないですか。そんなに。

シンジ ま、僕も昔からよく言う、補完的だよね。むしろそうやってバランサーがあるからビシッとして、ビシッと一時期苦しい中でも振る舞え続ける

ワタル そうそうそう。その隣にあのー、「勝利・成功の秘訣」とかそういう本とか並んで、一緒に買っちゃったりしますからね。

シンジ うん。

ワタル リラクゼーションの方法とかと一緒に。

シンジ うん。

ワタル だけど……そういうねえ……

シンジ そういう、だから鶴見くん

ワタル 自分でも驚きましたもんね。

シンジ そういうバランサー的なものの先に行けというふうに言いたいと。

ワタル 体の、体の快……みなさんはとりあえず、みなさんに言いたいのは「体がついてることを思い出そう」っていう。そう、『檻のなかのダンス』の中では主張したんですけどね。

シンジ うん。

ワタル これ(花)はもう体とはもう、でもちょっと違うもんだからどう、どういうふうに言っていいのかよくわかんないっすけど。体で感じる快感って、もうすっかり忘れちゃってんじゃないんすか。

シンジ うん。

ワタル で、ダメなもんだと思いこんでると思うんですよ。近代人であればある程度。でも見なおしてみましょう、と。

シンジ うーん。

ワタル だってそれが生きてるってことなんですもん。

シンジ わかります。でもね、気功の人とかいろんな人がいっぱいいますけど、ほら、人間なんでこんなに頭を使うようになったかというと、やっぱり頭をフル回転させるとそれはそれなりにドーパミンが出てね、気持ちいいからじゃないか? 例えばそのコントロール感とかね、その自分で何かを理解できた、腑に落ちたときの支配感とか、世界のコントロール。

ワタル はいはい。

シンジ うん。気持ちいいから頭を使うんじゃないか? っていう説もありますよね。

ワタル ああ、それも否定はしないですけどもねー

シンジ うん。

ワタル でも……オレ一応、両方やった者として(笑)、

シンジ (笑)

ワタル あの、両方達成した者として……だって東大に合格しても嬉しくないんですもん。全然。ホッとしただけですよ。「やっと終わった」って思っただけで、全然喜びとか感じませんでしたよ。ほんとに。あのー、掛け値なく。

シンジ でも鶴見さんちゃんと卒業されましたよね?

ワタル そうですね。

シンジ うん。でも、あまり鶴見さんて学校来なかったですよね?

ワタル 学校は……最初は行ってました。でも、

シンジ だから社会学科の後輩に聞いても、君のこと知らないんだもん。みんな。

ワタル だって、周りの人たちがバカだったから(笑)。

シンジ (笑)そっか。

ワタル パーソンズばっかり勉強してるのね。

シンジ ああ。

ワタル それで最終的にシステム社会論ばっかりやるじゃないですか。

シンジ うん。

ワタル ま、ここ、ここだけの話かもしんないけど(笑)。で、当然システム社会論をモデルケースとして、あのー、えーっと、サーモスタットみたいな

シンジ はい。

ワタル こういう装置みたいな

シンジ はい。

ワタル 社会をモデルケースとして、現代社会に最終的に当てはめていくのかなー? と思ったら、AGIL図式で終わりなのね。

シンジ そればっかなんだよ。

ワタル あのー、空間に、空想の社会モデルを作って、それがどういう風に変動していくか、どういう風に維持されていくかってことを頭の中で考えて終わりで、現実の社会問題を解決しようとは、一向に思ってないのね。びっくりしましたね、オレ。

シンジ はい。

ワタル それで吉田民人とかはそういう風にね、あのー、言ったんすよ。

シンジ うん。

ワタル で、「あ、これはもう山崎浩一の方がいいや」と思った。

シンジ うん(笑)。

ワタル あっちの方がよっぽど社会のためになるなと。

シンジ あのー、わかります。それは僕もほとんど同じような感想を持って。はい。

ワタル それがまた仕組みだったりするんですよね。

シンジ うん。

ワタル あのー、ロクなこと、社会の一番肝心な部分に目を向けさせないように、社会学者にそういう下らないことを学ばせると

シンジ うん。

ワタル いうことも起きてるような気がしますね。

シンジ うん。

ワタル ロクでもない、役に立たないこと。


7.パンクからレイヴへ

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