すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)

現代的犯罪とその背景


3.風紀委員の倫理とビシッとさせる精神

ワタル えーと、まず最初にアルコールの規制っつーのがあるのをみなさんはご存知だと……ご存知でしょうか? えーと、第一次大戦前にですね、世界で、世界禁酒連盟かな? なんかオレ自分の『檻のなかのダンス』っていう本に細かく年表書いたんですけども。それまでのお酒っていうのは、ただ発酵させてその発酵した部分を飲む、っていう薄い酒だったんですよ。だけど19世紀に技術開発が進んで。で、20世紀に入った時に蒸留酒っていういわゆるアルコール、あの僕たちがイメージするアルコール、ウイスキーであるとか、ウォッカであるとか、ああいうもんが大量に出回るようになってきて酒の害っていうのが物凄い社会問題化したんですよ。それは今のドラッグとか、覚醒剤とか、そういったもんが広まり……広まるのとまったく同じような状況で。えー、なったんですけれども。それ程やっぱり闇雲に規制したんですよね。とくにアメリカの禁酒法って有名じゃないですか。えー……

シンジ アルカポネの時代ですね。

ワタル アルカポネ。あのー、ギャング、昔ギャング、今マフィアっていう人たちが黒いコート着てダダッて撃つ。映画なんかでよくありますよね。あの時代のことで。結局禁酒法どうなったかっていうとですね、その間に恐慌も挟んで……禁酒法なんていうのも法律を作ったばっかりに……みんな禁酒なんかバカバカしくってそんなのしてられないわけです。やるに決まってるんですから。法律を無視し始めたんですよね。だからマフィアがそこらのバーでダーッて撃ちまくって、力のあるもんが一番権力を持つっていう。アルカポネが一番大統領ぐらいの、裏の大統領みたいな感じになって。で、最終的に、なんつーのかな? 無法の、無法の30年代とかいう有名なアメリカの時代を迎えてしまって。もう収拾がつかない状態になって。えー、破綻、破綻しちゃったんですよね。禁酒法っていうのは。

シンジ うん。

ワタル それは日本でも同じことでですね、日本でもなぜ未成年者の飲酒が禁止になってるかというと、実はその時期に禁酒法についで日本でも未成年者の飲酒を禁じたと。飲酒を禁じたからなんですよね。で、今でも残ってるから禁酒。だから未成年者の飲酒は違法な行為であると。

シンジ うん。

ワタル それを考えるとですね、同じ轍を踏んでるなっつーのが露骨にわかり……感じがしますけどねえ。酒なんか新しく登場した蒸留酒ってものに対して、やっぱり恐かったんですよ。みんなね。あんな酔っ払いとかが増えちゃってるんで。だけどそうやって闇雲に覚せい剤取締法みたいなもので規制したんですけれども、そしたらどうなったかっつーのは歴史が証明していることであって、っていう感じですかねー……。

シンジ ま、その30年代の教訓は今でも時々語り草になるのは、つまり人々が使うものを禁止するとマフィアが暗躍して、やっぱり犯罪増えたりして、

ワタル そうそうそう。だから今あのー、

シンジ そういう人間がいっぱいでてきて、

ワタル 製造と販売を中止したばっかりに全部ヤクザが仕切っちゃってるんですが。

シンジ うん。

ワタル で、結局ヤクザ対策として覚醒剤をますます取り締まるっていう、もうどうしようもない矛盾に突っ走っちゃってるんですよね。

シンジ うん。

ワタル アメリカもそうだったんです。

シンジ はい。でも、ほら、例えばアメリカのね、禁酒法は、あのー、その蒸留酒が出てきて人々がそれを恐がるっていうことなんだけど、その背景にはやっぱり、そのアメリカの宗教観ってあるじゃないですか。

ワタル ええ、ええ、ええ。プロテスタンティズムの禁欲精神ですね。

シンジ そうですね。禁欲精神だね。つまり酩酊しちゃいけない。

ワタル はいはいはい。

シンジ いつも覚醒して、

ワタル 快楽に耽るなと。

シンジ そう、自分を律しなきゃいけないっていう。

ワタル はいはいはい。

シンジ 要するに自己決定の思想のルーツ、その辺にあるわけですけれども。宗教的な禁欲によって自分を律するんですけど。で、なんで、そのー、だからその、それ以前はね、もう酒もクスリもドラッグも、そういうドラッグなんかも含めて、あのー、さして禁止するっていう風潮なかったですよね。

ワタル そうなんですよね。

シンジ うん。

ワタル それをみんな……だいたい祝祭の一部として利用するのが普通であって。うーん、なんでそうやって社会的に禁止するのかっていう理由がない。よく考えてみたら理由がないじゃないですか。

シンジ うーん、だからルーツはね、こんな感じだと思うんですけども、

ワタル 宮台さんは最近仰ってますね。

シンジ うん、まー、ルーツはやっぱアヘン戦争ですよね。だからアヘン戦争とか、まあ例えば19世紀に書かれたシャーロックホームズのようなねえ、彼はコカインやってますよねえ。コカイン常用者で鼻からヒューヒュー吸っているわけで。当時はまったくそれは問題じゃなかった。イギリスもアメリカも、どこもそんなものは全然問題じゃなかったんですけれども……アヘン戦争の愚民化政策っていうのがあってね。イギリスがアヘンをばら撒いて中国人を、まあ、抹殺しようという政策があったんですけれども。ま、それ以降アヘン戦争終わってから、19世紀後半、末期にですね、大量の中国系移民がアメリカにアヘン吸引の習慣を持ち込んだんですよね。でー、それがそのー、アメリカ人にうつらないようにするっていう。中国人は勝手にやりゃあいいけど、アメリカ人にうつってもらっちゃ困るっていうのが、最初の麻薬政策の始まりなんですよね。

ワタル まあ、ショッキングっていえばショッキングだったんでしょうね。

シンジ うん。

ワタル 国が一つ潰れる。

シンジ あのー、さっきの話ですけどね、でも、そのアメリカの場合は例えば禁止するとか、例えばアヘンとかアヘンの取り締まりに始まってね、酩酊系の薬物を禁止するっていうのは個別事情があったわけじゃないですか。

ワタル ええ、ええ。

シンジ で、それをなぜねえ、日本をはじめとする、その欧米列強でねえ、いわゆる先進国が完全に「右へならえ」してしまったんでしょう? 20世紀に入ってねえ。

ワタル うーん、やっぱりあのー、なんつーんすかねえ……やっぱり酒とかを取り締まる人たちのリードしてたのも、やっぱり禁欲的な

シンジ うん。

ワタル あのー、まあ、学級会であのー、風紀委員に立候補しちゃうような人たちね。今でもそうですよ。麻薬撲滅運動やってる人たち。とんでもない、あのー、生徒会で風紀委員に立候補しちゃうような人たちの中の選りすぐりのような人たちがやってますからね。

シンジ (笑)

ワタル そういう人たちってなんか声がデカイんですよね(会場笑)。ただ単にそんだけの問題じゃねえかと思うんですけど。「ビシッとしようよ」っていうね、気風が若干あったと。とくに日本に関して言えば、明治時代なんかは天皇陛下様のもとで我々“臣民”でしたからね。人権じゃない。臣民ですからね。平等なんかないんですから。「臣民たるもの天皇陛下様のもとでしっかりしないとダメじゃないか」……あのー、刑法に酒に酔って人に被害を与えることを禁ずる法律なんつーのもあるんですからね。実はね。

シンジ うん、うん。

ワタル そういう気風っつーのがあって。だけどいい加減それが、えーとー、別にその個人の自由じゃん、勝手じゃんっていうのがバレてきたって感じですかねえ。

シンジ うーん、その、それでね、鶴見くんがとくに『檻のなかのダンス』、これ昨年出し……昨年ですよね? これは。

ワタル そうでしたっけ。

シンジ 一昨年? 昨年ですよね。昨年。

ワタル あ、そうそうそう。

シンジ 『檻のなかのダンス』では、要するに「ビシッとさせるシステム」っていうかね、

ワタル あ、ドリル、ドリル。

シンジ ドリル、ドリル。ドリルから自分を解き放てという、ま、命令形にしちゃいけないらしいんですけども、解き放つのもよかろうという提案を、

ワタル ええ。

シンジ されてるわけですけれども。

ワタル あれはみんなに気づいて欲しいことの一つですねえ。

シンジ うん。けど、なぜビシッと、例えばね、なんで

ワタル 少なくとも

シンジ 学級会みたいなやついるんでしょうね? その学級委員長みたいにビシッとしないと困るヤツ、生徒会立候補しちゃうようなヤツ、なんでいるんでしょうね?

ワタル や、褒美を与えられるからじゃないっすか。やっぱ特権が、甘い蜜を吸わされるからこそ、みんなあのー……あれ先生のあれですよね、

シンジ うん。

ワタル 片腕になってやってるわけで。みんな生徒と反対の立場から生徒を仕切ってるわけですからね。

シンジ うん。

ワタル その代わり特権があるじゃないですか。

シンジ うん。

ワタル 少なくとも、あのー、通信簿に特記事項がつくとかね。

シンジ うん。

ワタル そういった特権を与えて管理させると。生徒に分担して管理させるとか。そういう緻密な仕組みが実は見えないまでも出来上がってるということをみなさん気づいてらっしゃいますかね?

シンジ で、あれね、あのー、放送委員が

ワタル だいたい、こう、こういう、こういう風景自体がそもそも20世紀に生まれたもんだと思いますよ。なんで、僕が例えば今こういうふうに靴とか脱いで、こうやって片足こういうふうにやって、これ「だらしない」というふうに見られるのか? なぜみなさんは誰にも命令されてないのにそうやってビシーッとして、あのー、身動き一つしてないでしょ。辛くありませんか? 辛くないんですか? 当たり前のことだと思っ、思わされてるでしょ。動いたっていいじゃないですか。なんで誰も「立ち上がるな」とか言ってないのに、なんで立っちゃいけないの? 誰もしゃべ

シンジ 学級崩壊。

ワタル え? あれは素晴らしいんですよ、だから(笑)。原点に帰ってる。で、昔はそれでも問題なかったんすよ。この風景自体が近代、近代そのものと言っても過言じゃないんじゃないんですかねえ。こうやって横に並ぶ。コマ割り、コマ割りの風景。絶対そうでしょ。会社、予備校、学校、全部コマ割りの風景の中にみなさん生きてきてませんでしたか? そして足。机を前にして足をこうやって両足地面について。で、こうやってかがんで、前に何か紙が置いてあると。そんな風景、そんなことをやってた人間って19世紀以前にいないっすよ。それは近代社会、近代社会の後期に入ってからですよね。

シンジ うん。

ワタル そういう所を、あのー、うまくできてるんで見抜いてほしいなっていう。

シンジ そうですね。あのー、

ワタル ビシッとさせる仕組み。

シンジ とくに映画とかで見ると昔からアメリカに憧れたのはね、やっぱアメリカって先進国で、日本よりも進んで日本が手本にしなきゃいけない国のはずなのに、けっこう学校へ来る人たちってみんな足組んでてさあ、こんななってるじゃないですか。

ワタル そうですね。

シンジ ね。

ワタル 日本が一番すごいですよね。

シンジ そうなんで。アメリカの青春モノの映画とかで、ドラマとか見るとだいたい格好だらしないですよね。

ワタル ええ。

シンジ 先生もいきなりこの机の上に座っちゃ、座りながら話しちゃったりとか。

ワタル だいたい高校の教室の風景が大学の、日本の大学の教室の風景みたいな。あれ座席一応決まってないみたいな感じですもんね。

シンジ うん、そうですね。だから僕も最初の頃はねえ、それを気取ってねえ、授業しながらね、こういうグルグルと歩き回る、時には机の上に座るとかってやったんだけど、浮いたんでですね(会場笑)、やめましたけど。最近やらなくしましたけれども。あのー、なんかそのー、ビシッとさせるっていうシステムがやっぱり

ワタル や、ほんと……しないと。みなさんね。

シンジ うん。

ワタル 従順ですよねえ。

シンジ それはやっぱりねえ、日本とかドイツが

ワタル 従順。

シンジ 後でしたよね。アメリカよりもね。後から来た人間の方が、

ワタル ドイツほど酷くないですよね。ドイツ……。

シンジ うーん。

ワタル ドイツのあのヒトラーのあれが、ま、頂点だと思ってもらえば構わないんじゃないんですか。

シンジ そうですね。

ワタル 行進にしても、足一つ、一糸乱れぬ行進とか。

シンジ うん。

ワタル 全員同じシャツ。全員同じ髪型。

シンジ だからそういうふうに考えてみるとね、やっぱりそれは明らかに近代化の、鶴見くんも本に書いてるけど、

ワタル ええ。

シンジ 近代化と関係がありますよね。

ワタル そうですね。

シンジ 近代工場労働者はどういうことができたとか、

ワタル ええ、ええ、ええ。

シンジ あるいはやっぱり約束を守るとか同調を守るとか様々なね、

ワタル ええ。

シンジ システムを支えるための振る舞いの作法、どうあればいいのか? ってことがやっぱりあって。後発近代化国の連中はそのー、アメリカとかイギリスに、例えば100年遅れで産業化がやってきたわけです。

ワタル はいはい。

シンジ 工場労働者を大挙養成しなきゃいけなかった。

ワタル はい。

シンジ しかし周りは田舎だらけ。

ワタル はいはい。

シンジ 田舎がある中で役に立たせようとすると、より過激にビシッとさせる以外になかったわけだろうね。やっぱり。

ワタル だから、

シンジ うん。

ワタル いきなりヒトラーが出てきたり、明治天皇が出てきたりしちゃったのかもしんないんですけど。えー、そこが実は社会のために、実はなってたとこが不思議なんですよね。

シンジ なってましたねえ。

ワタル 富国強兵って。

シンジ うん。

ワタル あのー、実際日本はホントに江戸時代なんか世界地図にも入ってなかったような国なのに、一等国になった。

シンジ うん。

ワタル 第一次大戦参戦しましたから。日露戦争なんて日本が勝ったんすからね。

シンジ うん。

ワタル 一等国になっちゃった。

シンジ それはビシッとしたご先祖様たちのおかげで。

ワタル 全員ビシッとさせることで、

シンジ うん。

ワタル あのー、ベンサムっつー人がね、「最大多数の最大幸福」つったのは、全員が、どっかの特権階級だけじゃなく全員がまんべんなく幸せになれるにはどうしたらいいだろう? っていうふうに考えて、ある程度各自の力を殺しながら全体的に国力だの生産力、国の生産力だのをアップしていけば、全員が均等に幸せになれるんじゃないか? そのためにはある程度辛い、辛い姿勢とかも我慢しましょうよっていうようなことを言い出した、言い出しっぺだと思うんですけども。えー、それがね、いまだに残っちゃっている、きてると思うんですよね。

シンジ うーん。

ワタル で、日本の経済成長っつーのは、その、そういう形で成り立ってるんじゃないかと思うんですね。

シンジ ちょっと質問を

ワタル でも、

シンジ うん。

ワタル 今はもう通じないでしょう。おそらく。


4.ドリル(学校編)

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