すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)
現代的犯罪とその背景
5.自己決定論と社会学
シンジ でもさ、鶴見くんずっとね、『完全自殺マニュアル』を書いて、
ワタル ええ。
シンジ でー、あのー、ま、『人格改造マニュアル』を書いて、
ワタル はい。
シンジ 『檻のなかのダンス』を書いて、ま、あのー、過去何年、何年だろ? 6年ぐらい? 6年ぐらいの期間で、
ワタル 5年前ですね。
シンジ 5年前かあ。すごい変わったと思いませんか。
ワタル ええ。少なくとも「アレッ変わったなぁ」と思ったのは、
シンジ うん。
ワタル 『人格改造マニュアル』って、確かオレ、清水の舞台から飛び下りるぐらいのつもりで、実はオレ13年間精神病院通っ、通ってるんですよって書いたつもりだったんですよ。
シンジ うん。
ワタル それまで、ほんっとに親しい2・3人の友人にしか話してなかったことなのに、なんかみんな話してません? 普通に。
シンジ うん、うん。
ワタル 「今どこどこのクリニックでなんとかもらっちゃってさー」とかって。
シンジ うん。
ワタル あーゆー雰囲気は少なくとも自分の周りになかったから。
シンジ うん。
ワタル もし自分の本の影響だったらうれしいなぁと思いますね。
シンジ いや、影響あったでしょう。だからちょうどねえ、援助交際のブームもほんのちょっと前ぐらい取材してると、やっぱり高校では『完全自殺マニュアル』、ちょうどまわし読みされてた時期なんですよね。95年前後っていうと。まわし読みされてたんですよ。だから、鶴見氏……100万部近くは売れてましたね。でー、実際100万人以上にまわし読み
ワタル 一つのクラスで18人ぐらいまわし読みして。
シンジ そう、ほんとに。だからものすごいやっぱり影響が、それはあったでしょうね。でー、それで言うとね、『檻のなかのダンス』で主張されているようなドリルシステムからの、そのー、抜け出す、脱却がある程度達成されてる一部のコにとってはね……
ワタル (タバコに火をつける)
シンジ あ、マズイよ。
ワタル (吸う)
シンジ あのー
ワタル どーなるのかなーとか思って。(会場笑)
シンジ いや、いいんだよ。
ワタル 注意されたら「あっ すいません」。はい。
シンジ いや、いいんですよ。だからテープをとって頂いてもかまわないんです。ま、それはどうでもいいんですけどもね。だから、達成されたでしょ。目的がかなり。
ワタル ええ、ええ、ええ。
シンジ だから達成されたから、あのー『完全自殺マニュアル』ほど
ワタル なんか、
シンジ 売れなかったとも言えるわけで。みんな「もうわかってるよ」っていうような感じがあったんじゃないのかなと思うんだけど。
ワタル それだったら、
シンジ うん。
ワタル いや売れなくてもうれしいっすよ。
シンジ うん。
ワタル だけどこの自殺の、ドクターキリコの事件があったときに、なんか新聞のコメント見たら「自殺を一概に否定するのはよくないんじゃないか」なんていうコメントが大学教授なんて載ってたりしてるんですよね。
シンジ うん。
ワタル そんなことありえなかったと思いますよ。
シンジ うん。だから自殺の問題についていうと、みなさんご存知かもしれませんけど、例えば安楽死の合法化っていうのが進んでいて。
ワタル はいはいはい。
シンジ でー、ま、日本でもねえ、95年横浜地裁判決ってのがあって、安楽死4条件って出て。安楽死4条件。でー、それはどういう条件かっていうと、大変合理的な条件ですよ。まず不治の病で、つまりもう治らないってわかっていて、ひどい肉体的な苦痛がある。で、痛み治療をしてる、つまりモルヒネ治療をしている。で、この3つの条件が満たされていて、なおかつ4番目に個人がその安楽死を望んでいるならば、っていうことで医師が安楽死を幇助することを合法であるというふうに認める判決が出てるんですね。
ワタル だけど殺人罪になりましたよね。確か。
シンジ そうです。で、まあ、あのー、いや、横浜地裁はその安楽死4条件ってのを出して、それを満たしてなかったということで、
ワタル ええ。
シンジ 殺人罪になってしまうわけですけれども。
ワタル 執行猶予つきましたけどね。
シンジ うん。でもね、この安楽死4条件、みなさん覚えてますか? いま。不治の病で、モルヒネ治療しているにもかかわらず痛みがひどくて、なおかつ本人が死にたいと思ってる場合は安楽死OKっていう条件ですね。でー、妥当だと思うでしょ。でもアメリカやオーストラリアのその裁判とか、あと法律とかみるともっと緩くなってるとこたくさんあるわけですよ。例えばアメリカではね、30何人、もう……今どうなんでしょ? 50人ぐらいその安楽死で……あの、自殺幇助の犯罪として問われているそのケボキアンっていう、キボキアンとかとも言われる、ケヴォーキアンっていうアメリカ人の医師がいますが、
ワタル 彼は……
シンジ うん、あのー、今4度目の裁判かかってますけど、3度目の裁判で3回無罪が出てるんですね。で、その無罪判決を見ると、安楽死の条件は日本よりも軽いんですよ。
ワタル や、日本のその4条件っつーのはむしろ安楽死を許さないっつー意味じゃないのかな? とさえ思えますよね。
シンジ まあ、そうも思えるね。
ワタル 「認めません」って意味かもしれない。
シンジ そうすると、
ワタル 尊厳死とかも。
シンジ そのアメリカの場合には死期が迫ってなくてもいいんですよ。死期が迫っていなくても、肉体的な苦痛がひどければ安楽死OKですね。でもこれは肉体的な苦痛とね、精神的な苦痛の境界が非常に曖昧だってことを考えると、
ワタル じゃ、自殺と安楽死が
シンジ 自殺に非常に近い。
ワタル そもそも安楽死は、じゃあ、あなたは認めるか? つったらたぶん五分五分ぐらいに割れると思うんですよね。
シンジ 割れますねえ。
ワタル そしたら「自殺は安楽死じゃないんですか?」って聞いたら、これもう言葉に詰まってしまうという。
シンジ うん。
ワタル こんなの分かりきってるじゃないかっていう感じしますけどねえ。なぜまだ「自殺否定、否定」って言ってるのか……? それでアメリカなんかだと、実は安楽死っつーか、末期ガン患者なんかに既にマリファナをね。
シンジ うん。
ワタル あのー、他のモルヒネなんかだと……別に医薬品でも構わないのにやっぱりマリファナが一番苦痛を鎮めるからっていうことで。末期ガン治療にマリファナを使っているっていう状況になっていると。
シンジ うん。
ワタル それじゃあ、それを日本はどう受けとめるのか? ということを考えれば覚醒剤、あ、麻薬取締法なんかもこの先どうなるのか分かりきってるじゃないかと。
シンジ うん。でもそのね、安楽死・自殺の問題についてさ、反対する人は、そのね、近代主義者はね、その、つまり僕たちのことなんだけど、自殺を認めるのはみんな近代主義者で、ジョン・ロックが言ったね、その所有権の根本は自分の体を自分で処分していいってことだと。
ワタル ええ。
シンジ 自分の体は自分の持ち物だっていう原則から出発している……これが間違いだ! その自分の体はお父さんやお母さんからもらったもので(笑)、心で、実は体だけじゃなくて心だってお父さんとお母さんからもらったもので、お父さんとお母さんの関係の中で培われてきたものだから。だから体をどう処分していいか自己決定していいなんてことはありえないし、
ワタル 今でもそういうこと言ってる人がいると。
シンジ 当然いるわけですよ(笑)。っていうか、そういう反対する人と、売春に反対するロジックもね、
ワタル うん。
シンジ 自殺に反対するロジック、安楽死に反対するロジックまったく同じで。
ワタル そういう人ってほんとにバカだなあと思うのは、
シンジ うん。
ワタル 自分のことを棚上げして話してるってことですよね。自分の体は、じゃあ自分のものじゃないのか? お前の体、じゃあ、自分の好きなように使えないのかよう? 使いたくないのかよう? って言われたら、「や、それはちょっと……」って言うでしょ。どうせ。
シンジ うん、うん。
ワタル で、自由の、そんなに一概に……小林よしのりみたいにね、公共性。だから自由を一概に認めちゃいけないんだ、みたいな。じゃお前の、個人のゴーマンかます自由も認められないよ、って言ったら「それは待ってくれ」って言うでしょ。
シンジ うん。
ワタル 自分の自由だけ棚上げにしといて、そういう発想……それ考える力のない人ってかわいそうですよね。
シンジ いや、私もそう思いますよ。
ワタル 宮台さんそういう人と闘ってるから、ほんとに……疲れ、疲れるよなあとか思いますけどね(笑)。だから、
シンジ や、僕はだからね、その人と闘ってるっていうことよりもね、
ワタル だってそっから説明しなくちゃいけないんだもん(会場笑)。
シンジ そうです(笑)。や、そういうの僕はその人に説明してんじゃなくてね(笑)、非常に教育的配慮をしてて。それは小松美彦と死の自己決定の動きを論争すると、小松なんて頭悪いからいいんです。君の言っているような意味でね。だから、だって小松の本読むかどうかも自己決定の問題だと。
ワタル (笑)
シンジ 「自己決定いかん!」って言ったら、「お前の本だって読めなくなるぞ!」っていうふうに言われると、どうしようもなくなっちゃうんで(笑)。だから……ただそれは、そういうことあえて言うのは、今鶴見さんが仰ったことを、多くはその棚上げにしてね、
ワタル ええ。
シンジ 言ってると。その……自分の体にしても心にしてもね、あるいは死にしても何にしても共同体的なもので、「自分で決めることなんかできないんだ」っていうふうに言うヤツ多いわけです。すごく。
ワタル ええ、ええ、ええ。
シンジ うん。
ワタル この間のなんか、えーっと、福田和也と小林よしのりの対談で「特権階級みたいなの作ればいいのにね」なんて言ってる。
シンジ うん。
ワタル 自分らが特権階級に入れると思ってる(会場爆笑)、としか思えないですよね。ナチスが政権取ったときアインシュタインだって国外逃亡したんですからね。どうなること、どうなるんだかそんなのわかりゃしないんだから。そういう人に……宮台さん大変ですよ。いちいち「あなたはそういう風に主張できるのも、自由があるからなんですよ」っていちいち説明しないと。「そのシステム自体の方が優れたシステムだと思いませんか」ってとこから説明してる
シンジ うん。
ワタル のが、宮台さんの地道な(笑)世直しを
シンジ でもね、そういうふうに言うけどね、
ワタル 当たり前のことなのにね。
シンジ や、鶴見さんと僕はね、やっぱりね、社会学をやってたってことが大きいと思うんだよ。
ワタル ええ、ええ。あ、そうそう。
シンジ 当たり前だっていうことでね。
ワタル そうっすね。
シンジ だから近代よりもいい時代はない、っていうのは、社会学をやってる人間にとってはもう共通常識だよ。だいたい。だって全ての……例えば共産主義にしろなんにしろね、いい? 共産主義圏でさあ、共産主義理論が彫琢されたなんて全然ないんだから。
ワタル まさかでもそれもこの場で説明しなくちゃいけないのかな?
シンジ そんなことはないよ。ないけど、
ワタル 彼らはみんな知ってるでしょ。
シンジ いや、言いたかったことはね、だから社会学は大事なんだよ。やっぱり(会場笑)。
ワタル うーん、社会学ってよく考えてみたら経済でも法律でも、理科系ですらね、全部学べるし、学ばなくちゃむしろダメだったりという学問なんで。いま一番面白いと思いますね。
シンジ やっぱり社会学の思考の伝統の中では、ほんとにやっぱりこの近代っていう時代を正当化する
ワタル そうですね。
シンジ っていう動機が非常に強かったから。
ワタル 最大のテーマは近代。
シンジ 近代化がテーマだね。
ワタル 近代。その次に現代社会ですけどね。
シンジ うん。でー、だからもちろんポストモダンとかっていう物言いも、社会学の中にも法学、経済学と同じように存在するけど、
ワタル ええ。
シンジ 基本的に近代否定っていうロジックだとして、として言っている人間は……。だからむしろその近代の徹底の中から出てくる思想をですね、だから自己決定の思想って近代にあるじゃないですか。
ワタル ええ、ええ、ええ。
シンジ 例えばね、そのー、元々ビシッとさせるっていうのの元には、さっきね、ちょっと申し上げたピューリタニカルなね、
ワタル ええ。
シンジ 禁欲的な自己制御ってあるじゃないですか。
ワタル はいはい。
シンジ あれはやっぱり自分で自分を制御するんですよね。
ワタル はいはい。
シンジ セルフコントロールなんです。ただほんとにコントロールの思想が、ほんとに徹底すれば、その何をもってコントロールしていると言うか、ってことさえも自分で決められる。あるいは例えば鶴見くんが本に書いてるように「自分で自分をコントロールしているって言ったって、自分で自分をコントロールするようにさせられてる」っていうわけだから。メタ的に言えばね「コントロールしてないじゃねえか」とかってね、次元まで、どんどんどんどんこう徹底してくると、
ワタル ああ。
シンジ やっぱり近代の徹底の中でやっぱり鶴見済くんっているし、僕もいるわけですよね。
ワタル ああ、そっかそっか。その後に……そうなんですよね。
シンジ うん。
ワタル フーコーが提示した問題ってのがあって。
シンジ うん。
ワタル この浅田彰の本の中で有名になってるかもしんないリゾーム構造……リゾームじゃねえや、クラインの壺っていうのがあるじゃないですか。
シンジ うん。
ワタル あのー、頂点なのかと思ったらそこが一番底につながってる。だから自分は当然権力者じゃないと思って、一番この社会の……一番誰が権力あるんだろ? って一生懸命考えてみたら国民主権。自分が権力者だったとかね。そういうことっつーの、日々みなさんの生活の中で起こってることなんですよ。
シンジ うん。
ワタル 実はね。だから学級委員に立候補したと思ってそれは自主性の発揮だと思ってたら、実は教師に他の生徒を管理させる片棒を担がされてただけだったとかね。そういう自己決定とはまた別のねえ、難しい複雑な問題があるにはあるんですが。基本は基本ですからね、でもね。ここを外し……で、前近代に戻ろうっていうようなことを主張する人は、ちょっとついていけない所ありますよね。