すばらしいワタル紀行 1999年4月2日(金)

現代的犯罪とその背景


1.現代的犯罪のカテゴリー

シンジ 遅れてすいません。

ワタル 花買ってて遅刻しちゃったんです。

シンジ (笑)

ワタル 灰皿ありますか?

朝カルの人 あの、すいません。タバコはちょっと……はい。

シンジ はい、えーと、こんばんわ。宮台と申します。で、あのー「現代的犯罪とその背景」というタイトルでのですね、講座は、2年前に横浜朝日カルチャーセンターでですね、ちょうどあれ秋頃だと思いますがサカキバラ事件が起こり東電OL事件が起こり……えー、そういうことでですね、けっこう今まで理解不可能だったタイプの、つまり動機が不透明な犯罪が増えているということが話題になった時期なんですね。

 でー、ちょうどその時期に「現代的犯罪とその背景」というタイトルの講座をやったわけですが、その「現代的犯罪」という言葉の意味をですね、あの、もういろんなとこで書いてるし言ってることですけども、要するに不透明さ、動機の意味不透明さ、意味不明さを指している概念です。

 で、基本的には70年代の後半にだいたい先進国どこでもですね、「現代的犯罪」という言葉が生まれて動機なき殺人の類がですね、その言葉によって指し示されるようになってきたわけだし、あるいはこれもいろんなとこに書いていることですけれども、ちょうど70年代後半はね、アメリカで「人格障害」っていう概念が生み出された時期ですね。

 「人格障害」というのは病気じゃないけど頭が変っていう意味です。簡単に言えば、従来の診断基準では神経症にも精神病にもあたらないけれども、当人や周囲にいる人間がまともな生活がおくれないというふうに訴えるので、まあ、そういうケースが急増したために、するようになったために生まれた概念であるわけです。

 で、したがってそれは原因カテゴリー、因果カテゴリーではないんですね。単なる記述カテゴリーなんで。例えば「人格障害だから何かした」とかいう言葉の使い方には全く意味がない。単なる誤用であるわけです。ま、そういう誤用もたくさんあった話は以前の講座でもやりましたが。

 えー、その後ですね、まあ月日が1年半ぐらいたちました。で、1年半ぐらいたって、特にですね、少年法改正問題がサカキバラ事件の後、その余波としてですね、起こったということが事件としては……事件というよりも問題としては一番大きな部分ではないかなというふうに思うわけであります。

 でー……っていう、あの、僕の長口上はですね、これは来週、まあしますんでですね、そこでベラベラ喋るんでですね(笑)、今日はまず最初の前振りは、「現代的犯罪」っていうのは、もともとはそういう不透明さを指していたことだと。

 でー、まあ……もう少しだけ踏み込んでいえば70年代後半っていうのは、犯罪に限らず宗教の領域にも消費の領域にもサブカルチャーの領域にも、ま、セックスの領域にまで、ありとあらゆる領域に不透明さが広がったために、そこでいろんな新しいカテゴリーがですね、生み出された時代でもあります。

 だから犯罪だけが特殊に変化したっていうことよりも、様々なものがそのコミュニケーションの変化と連動して変化したというふうに考えるのが、ま、正しい捉え方であります。で、まあこのー「現代的犯罪」と象徴されるような現代的コミュニケーションには、実はみなさんのですね、家族や地域や会社や学校で散々さらされてきているものであって、特にですね、「現代的犯罪」を考えないと計測できないような意味領域はないと考えてよいのであります。

 が、ま、しかしながらですね、この「現代的犯罪」それが逸脱カテゴリーであるということによって、実は他のコミュニケーションの領域には存在しないいろんな派生的な、例えばあのー、少年法改正問題のような制度変革につながるような動機づけを人々に与えてしまうことがあるのですね。特にその犯罪、つまり逸脱ってことを巡っては、それはどういうふうに再解釈をすればいいのか? って、いつもいつも問題になることであります。

 でー、ちょっとデータ的なことだけ申し上げておきますけれどもですね、ま、実は『犯罪白書』がですね、えー……これは今年に入ってから…………えーっと、そうです。今年に入ってから出た『平成10年度版 犯罪白書』っていうのがあるんですけども、その『犯罪白書』の要点を4つ述べればですね、まず少年犯罪がですね、全犯罪に占める割合が激増してるわけです。もう一度言いますと、少年犯罪が全犯罪に占める割合が激増しています。

 でー、一般の犯罪、凶悪犯ともに3分の1か4割ぐらいまで至るようになっているのが新しい点です。この少年犯罪の激増の内訳ですけれども、まず処分歴がない少年の犯罪、つまり普通の子がやるっていうふうなですね、犯罪が非常に増えているっていう点は、まさに「現代的犯罪」のカテゴリーにピッタリ一致するわけですね。

 要するに生い立ちに問題があるとか、家庭環境に問題があって、それで「もっと幸せな育ち方をすればそういう犯罪をしなくてすんだのに」というふうに言えるようなタイプの少年犯罪ではない少年犯罪が増えているということであります。あともう一つは、その経済的に裕福な家庭の子が基本的には、ま、激増してます。貧しく家庭環境が悪い、つまり経済的な意味での家庭環境のいい家庭の子どもが統計的に増加しています。

 あとですね、背景とは違って、犯罪は異質ですけども突発性暴力が非常に増大しています。これは“キレる”っていうことであります。ま、これ以前から言っているように、学校でキレる少年が昨年以来話題になりましたけれども、それ以前からですね、非行の現場っていうふうに言いますけど、非行の現場では、ま、キレる、突発性暴力っていうのが、この10年くらい話題になってきたものであります。

 で、それがまあ再確認されているということと、あと要するに誘われて強盗するとか、誘われて強姦するとかですね、そういう、あの凶悪犯であるにもかかわらず、つまり昔はかっぱらいとか万引きに関する同調的犯罪ってあったんですが、凶悪犯に関する同調的犯罪が増えているという傾向もあります。で、まあ、えー、そういう少年犯を巡るですね、これ以前から存在する、ま、傾向の再確認が、少年……『犯罪白書』、『平成10年度版 犯罪白書』で行われたということが一つあると。

 あとですね、あのー、昨年来、ま、事件化したのは今年だとしても、昨年来ですね、ネット犯罪がずいぶん話題になってきています。もちろんこれは僕もいろんなとこで言ってるように、ネット犯罪に類するものはですね、もう10年以上前、あるいは15年ぐらい前からテレクラを舞台に起こっているとも言えるわけですが。

 でー、それも非常にアングラ的な色彩が強かったんだけど、やはりインターネットってのはテレクラと違ってオーバーグラウンドに近いですね、匿名メディアでありますからして敷居が低い。もちろんテクノ文化は今は敷居が高いですけれども、いったん使うようになった人間にとってはリンクを辿ってアングラサイトに、ま、出かけていくというようなことが、誰でもできるし、誰でも行っているはずのことで。

 アメリカの大学生に関する統計調査、1日―これ男の子ですけれども―H系サイトを見る時間インターネット利用者の内20……平均すると25分H系サイトを見ている。だいたいそんなもんでしょうね(笑)。インターネットを使って1日に10……25分もH系サイトを目撃してしまうというですね、このピューリタニアン伝統がある、効率の国アメリカでさえ。あ、しかしクリントンのような最近いろいろありますけども、そういう状況ですから。

 たぶん日本の場合にはインターネット利用者の男性の内H系サイトを見ている割合っていうか時間的平均とるとおもしろいと思うんですね。もっと多いはずだろうと思いますが。まあ、ことほどさように、あのー、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドの敷居がですね、大変低くなってきているというような明らかな傾向がありますね。

 で、もちろんこれインターネットを舞台にしている犯罪って傾向ありますよね。ま、違法取引っていうのが昔からずいぶん話題になっている。違法取引は非常にあります。あと、もう一つ、プライバシーを勝手に暴くとかですね、罵詈雑言を浴びせるという類のプライバシーや名誉毀損、プライバシーの毀損や名誉の毀損という問題が2番目にありますね。

 で、さらに3番目としていうならば、まあインターネット、テレクラもそうですが、匿名であることを利用した行きずり犯罪のようなものがやはり話題になってくる。これもインターネットだから出てきたというよりも、以前からあるものですけれども、そうしたものに昔なら巻き込まれなかった人間が、巻き込まれるようになってきたっていうようなことも、非常に大きな傾向だろうと思います。鶴見くん、ヒマだったらここに少年犯罪って表がありますんで。

 えー、まあ後はですね、動機なき殺人ということが言われる時に、あるいは犯罪といわれる時に、基本的に軸になっていることは快楽殺人という概念ですね。快楽殺人というカテゴリーも、サカキバラ事件の際も、それ以降のさまざまな事件が起こりましたけれども、その快楽殺人というカテゴリーで記述されるものが、非常に多くなってきています。えー……まあ、えー……いいですね。ま、具体的な例は出さなくていい……。はい、えーとかですね、いろいろあります。

 僕だけ立ってるのも変ですので座りますが(笑)、まあ、今日はですね、あのー、鶴見くんに来ていただいた理由は一口で言えばですね、さっき申し上げた、2番目に申し上げた匿名メディアを巡るですね、いくつかの事件に基本的に3点セットというか……匿名メディアがあるとしますとですね、クスリが関わってる、自殺が関わってますね。えー、まあ、いろんな問題が噴出してくる。

 で、特にドクターキリコの診察室、診察室じゃなくて、ドクターキリコの事件。これお分かりになると思いますが、インターネットを舞台に毒物を配布した、販売した事件ですね。で、あれは『噂の眞相』その他のメディアでですね、まあ、いろいろ真相が明らかになってきたのは、ドクターキリコ診察室は草壁っていう容疑者の開いたホームページではなくて、ま、別の人間が開いたホームページ云々かんぬんと。いろんな情報がありますけれども、ま、事件の本質にはあまり影響がありませんが。

 ま、いずれにしてもそういう非常に特徴的な事件が起こったことを、まあ、どう理解するか。例えば自殺の問題をどう理解するか? クスリの問題をどう理解するか? といえば、もうそれについて本を書いてる人といえば鶴見くんしかいないという(笑)。両方……

ワタル 本を書いてるというより僕自身が犯罪者なんですけど。

シンジ (笑)そうだね。

ワタル そのまんまなんで。今執行猶予中で。懲役1年半なんですよね。

シンジ はい。

ワタル オレはなんでこんなところに呼ばれてるのか自分でもよくわかんないんですけど。

シンジ はい。でー、いや、そういうことで呼んだんですね(会場笑)。つまり当事者ってことで。

ワタル 犯罪者ってことで(笑)。犯罪者代表です。鶴見です。よろしくお願いしまーす。

シンジ はい。でー、執行猶予中ということもあって、あまり彼の個人的なことをお聞きするわけにもいきにくいんですよね。なぜ、覚醒剤に手を出したのかをですね(笑)、せっかくですから聞いて……

ワタル 素晴らしいから(会場笑)。

シンジ ……しょうがないですけども。まー、あのー……基本的には、実は犯罪を「犯す/犯さない」っていうことに関係ないんですね。多くの人間がクスリと隣り合わせにいるし、自殺と隣り合わせにいるという状況があるわけで。で、特に昨年まあ……僕にとってはねこぢるのね、自殺っていうのが、ま、僕だけではなくて多くの人間にとってショックだったと思うんだけども。

ワタル あとhideさん。

シンジ hideさんもそうですね。なんか非常に希薄ですよね。ねこぢるの自殺はhideさんの自殺から1週間たってない時期にお亡くなりになったんですが、手法的には模倣しているといわれて。

ワタル 同じやり方でね。『自殺マニュアル』に書いてあったり。

シンジ うーん。

ワタル あーゆう人がポンポン死なれちゃうと生きてる自分がなんかバカバカしくなってきちゃいますよね。だんだん……。

シンジ うーん。

ワタル あーゆう、あんな成功してる人が死んじゃってるのに、なに俺生きてるんだろって思っちゃいますよ。こんな苦しみながら(笑)。バカじゃねーの? とか。

シンジ うん。

ワタル そういうふうな感じが生まれてくるといいなって、俺最初から思ってたんですけどね。

シンジ うーん。

ワタル みんなポンポン死んじゃうっていう。

シンジ それはたぶん成功とか成功でないっていう感覚ってないんじゃないのか? 例えばねこぢるの死にしてもですね、死っていうのが……ねこぢる氏にしてもですよ。

ワタル うん。

シンジ うーん、成功したっていう感覚は……

ワタル 草壁さんなんかもポコッと死んじゃいましたね。

シンジ うーん。

ワタル あっけない死に方だったっすよね。

シンジ あのー、ドクターキリコの診察室については、けっこう話題になった。一部アングラサイトで。でー、僕も時々見てたんですよ。でー……あのー……誰とは言えないんですけど僕の知り合いでですね、学生なんですけど……その、あのサイトに頭がきたらしくてですね、荒らしをかけまして(会場笑)。

ワタル あー、はいはいはい。

シンジ 1回つぶしてるんですよ(笑)。

ワタル そういう背景があったみたいですね。

シンジ 僕の大変近しい学生で、それを言うとマスコミの取材が殺到するんでですね(笑)、いま初めて言いましたけれども。

ワタル 宮台さんが仕返ししたんじゃない?

シンジ いやいやいやいや(笑)、そんなことはない(笑)。

ワタル でも、

シンジ でー、その「自殺系サイトとかやってんじゃねえよ」「死にたいのはお前だろ、コノヤロ」みたいなですね、デッカイ字でですね、タグを使ってバンバン書き込んだら1回つぶれて休止状態になっちゃったんですよね。

ワタル 決まりのない世界ですからね。

シンジ ええ。

ワタル インターネット。

シンジ はい。

ワタル でー、ドクターキリコの、この関連、関連の犯罪って、この事件っておもしろいんですよね。ドラッグがからんでる。

シンジ うん。

ワタル 自殺がからんでると。毒物、今話題の毒物。そしてインターネット。三題噺みたいな感じでね。

シンジ はい。

ワタル なんかこれを語れば現代社会が語れるんじゃないかっていうような。で、

シンジ じゃ、バンバン語ってください。はい(笑)。

ワタル バンバン語ってしまおうという。

シンジ はい、はい。


2.誰が被害者なのか?

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