■月刊「Lit-MAss」27号 「偶像の変節」第1回 鶴見済Interview■

 記念すべき第1回はフリーライターの鶴見済さん。『完全自殺マニュァル』で不謹慎だと社会問題化され、昨今は『人格改造マニュアル』で「脳をチューニングして楽チンに生きよう」と世に訴えた異色のライターである。
 1997年6月13日、中央大学多摩キャンパスで行われた岡田斗司夫氏との対談《*1》(演題「過剰な劇場としての日常」)を終えられて間もないお疲れのところ、控え室にお邪魔した。

 

「世界平和のことを考えるよりも、部屋の片づけをしろ!」

――対談の方お疲れ様でした。

鶴見 どうも。楽しかったですよ。岡田斗司夫さんてとても頭のいい人で…、結構カタイ話にもなりましたけれど。

――じゃあ早速なんですけれども「リトマス」の感想とか、注目された記事、特集とか何かありましたら聞かせてください(事前に数冊渡していました)。

鶴見 ああ、リトマス。そーだな、これ(26号「ゴラン潜入記」のページを開いて)、これがあるところがすごいですよねぇ。取材費なんか出ないんでしょ、やっぱ。きっとゴランまで行った学生っていうのは政治的な考えがあってそこに踏み入ったことなんでしょうけど。…これなんかわりと普通の学生さんがやるような雑誌にはないでしょうね。目を引きました。

――あと、宮台真司さんの特集(講演会実施=95年、に際して)なんかどうですか。宮台さん本人についても結構ですけど。鶴見さん2月に宮台さんと毎日新聞で対談《*2》されてますよね。

鶴見 よく読んでるねえ。あれ夕刊だよ。
 宮台さんとこの前テクノのクラブで会ったんですよ(笑)。ハッピー系のやつだったんですけど。周囲と違和感なく踊ってましたよ。たいしたもんだなって。
 フツー若者の研究とかする場合、わざわざクラブ来て踊るまでしないじゃないですか。するところがねぇ、見上げたもんだなと思って。やっぱそういう所に実際に来ないで「若者は〜」とか書いたりする人って大した事ないですから。

――そういえば、宮台さんが言ってたんですけど、2年前パーティーで一緒になった切通(理作)《*3》さんと喧嘩して、以来仲が悪いとか…。

鶴見 ああ、花見ですね。たまたま切通がいて、オレがアッハッハッハって感じで飲んでいたんですね。そしたら彼が隅の方でじぃーっと見ていて…、その後批判文が出てきたんですよ。周りの人の話だと、あの花見でつまらない思いしたものだからそのヤケクソで批判したんじゃないかって。

――そうなんですか、かなり長いこと批判されていたようなので、もっと深いワケでもあるかと思っていたんですが……。
 ところで、中央大学へ来たのは大学生の時以来ということですが、どうですか? 雰囲気とか。

鶴見 まず最初に目に付いたのが、「学食の開店時間を延ばせ」とか「バスの運行時間を延長しろ」とかいう看板ですかね。昔はねぇ、例えばべ平連《*4》とか、世界についての主張をしていたのに、これって身の回りのこじんまりした要求になってきた、というところが非常にいいんじゃないのでしょうか…。

――あ、いいんですか…。

鶴見 ええ、そうそう、それが絶対正解ですよ。韓国がどうのこうのとか従軍慰安婦問題がどうしたとか…そういうこと言ってるようでは今の世の中挫折感を味わうだけだと思うんで、それがいいですよ。だって嘘ですもん、そんなの心のから出ている要求じゃないよ。どう考えたって。でも「学食」とかっていう生活から滲み出ている要求でしょ。その方が強いですから(笑)。うん絶対正しいですよ。

――では、鶴見さんの学生の頃の大学ってどんな感じでした?

鶴見 僕の頃っていうのは前の時代の名残で「○○阻止!」とかってやっぱやってましたけれど、もう僕らの頃はそんなこと誰も関心ないんですよ。だからそんなこととっとと捨てて、バスがどうのこうのとかやるべきだったんですよ当時から。だから正しいですよ、ああいう立て看。
 そう、その後に革マル《
*5》の立て看があって、一応こういうのもあるのかって感じで、んー"学生で革マルに青春を注ぐ"という…。なんかドン・キホーテみたいじゃないですか。だからやっぱりそれより「バスを動かせ」とかがいいんじゃないかと思いますよ。

――リトマスでもマズイ学食の改善キャンペーンやったんですよ。

鶴見 ええええ。だって僕の今の主張は「世界平和のことを考えるよりも、部屋の片づけをしろ!」ということですもん。身の回りのチマチマシタしたことを考える時期なんだってことを取り敢えず認識しないとだめだっていう主張なんで…、もうピッタリ。
 だからああいう立て看作ってる人たちひょっとしてオレの本よんでるの?って(笑)。

――話は変わりますけど、鶴見さん「フリーライター」という肩書使っていらっしゃいますよね。知ってるようで、実際普段何にやってるんだ、とかどういう生活しているんだとか意外と分らないと思うんで、少し解説していただけますか。

鶴見 フリーライター業ですか。まあ原稿の依頼を待つとか。最近はわりと本の企画を自分で考えてる以外は原稿の依頼が来たら書くっていう風にして、それをコラム集にまとめるという形にしているんですよ。原稿の依頼もポツポツ来るし…ある程度、2・3年やるとキビシイんですよ、自分から仕事取ったりとかしないと。でも署名でだんだん原稿書いていくうちに楽な生活になってくるんで、…みなさんフリーライターお薦めですよ(笑)。だって本1冊書いただけで百万部とか売れて…。

――まあ、売れればいいですけどねえ。

鶴見 売れますって!だってあんなこと誰にもできるじゃないですか。何でみんやらないのって。だって言っていることは、誰だって思ってる"自殺したい奴はすれば"っていう、それだけですもん。できますよ。
 俺なんか会社なんて9ヶ月でやめちゃったりして…。

――お勤めなさってたことあるんですか。

鶴見 そうそう、工場に。だけどそこからドロップアウトしていきなりよかったー!って感じになれちゃうんでよかったですよ。それにフリーライターで売れたりすると、名前が有名になったという実感があったりして、それって絶対気持ちいいはずなんですよ、誰であっても。「有名になることが目的じゃない」なんて言う人もいますけれたぶんウソで、絶対ちやほやされたいとか尊敬されたいとか思ってると思いますよ。
 だからそういうことを満たすにはフリーライターって結構いい職業じゃないかなぁ。

――では、仕事をやめてから『完全自殺マニュアル』までは何かなさっていたんですか。

鶴見 はい。大学卒業してからすぐに工場に入って、そこやめて、出版社のアルバイトやって、でも編集は勤まらなかったですね。ゲラ整理とか苦手なんですよ。テキパキしなければいけない仕事って。だからフリーラーターになって思いますね、天職だって。自分がホントにしっくり来る仕事見つけた!って感じです。ウチでこまごま文章打ってたりするの好きですから。本読みながら。取材するのも割りとおもしろいし。

――なるほど。ところで鶴見さんの本は太田出版から出てますけれど、きっかけはどのような感じだったんですか。

鶴見 企画持ち込みしたんですよ。「こういう企画あるんですけど見て下さい」って。それでやりますって言ってくれて、企画通りにコトは進んだって形で。
 出版界って僕が思うに、まあわりと健全に動いていると思いますよ。音楽業界とか凄いですからね。広告とかも。それより出版界の方がいいですよ、絶対に。

――はぁ、そんなものですか。
 ではお時間ですので最後に今後の本の予定などについて、何か「リトマス」の読者だけにコッソリ教えていただけないでしょうか。

鶴見 う〜〜〜〜〜〜ん。いやー、これでよく秘密主義とか言われちゃうんですけどそれだけは言えない!!

――そこをなんとか!

鶴見 そうですねスケジュール的に見れば、次は『完全自殺マニュァル』の文庫化か、『無気力〜』みたいなコラム集を出版する、と。その先の本チャン企画は(人差し指を立てて)「しーっ」ということで。「本チャンは"しーっ"」って書いといて下さい(笑)。きっとまたみんなびっくりすることやりますから。アハハハ。

 

 インタビュー後鶴見さんは講演会を主催した白門祭スタッフの面々とテクノクラブとはおおよそ無縁の高幡不動へと飲みにくりだしたとか…。

 取材の申し込みをしたとき、「第1回(のゲスト)なんて光栄だなぁ」とおっしゃっていた鶴見氏。アルファからオメガまで和やかな雰囲気でインタビューは進んだ。「世界平和より部屋の片付けをしろ」というコンセプトはリトマスにも通じるところがあるし、まさに第1回のゲストに相応しかったのではないだろうか。
 そしてこうも考えた。リトマスも「鶴見済」に負けない企画を出さなければいけない!と。
(きき手・構成
/桑原崇)

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●注
《*1》
対談内容は、
岡田斗司夫 世紀末・対談『マジメな話』〔アスペクト/本体 700円/1998年4月11日発行〕の「鶴見済 ゴドーを待ちながら」に収録されています。
 なお上記の著作は
岡田斗司夫氏のHP「OTAKING SPACE PORT」内の「ライブラリー」で、データ化されたものを読むことができます。
《*2》
講演会は1995年11月4日に中央大学多摩キャンパスで行われた。題目は「終わりなき日常とメディア〜ブルセラ学者のメディア論〜」。講演会には250人強の観客を動員し質疑応答も活発に行われ、まずまずの成功となった。なお講演会の妙略は
雑誌『月刊 Lit-MAss  』16号〔中央大学 ジャーナリズム研究会/税込 ¥100/1995年12月1日発行〕に収録。
《*3》
切通理作…「文筆家」。著書に
『おまえがセカイを殺したいなら』〔フィルムアート社/税込 1900円/1995年〕など。『宝島30』〔宝島社 現在は廃刊〕や著書で鶴見済を執拗に攻撃している。
《*4》
1997年2月25日の毎日新聞 夕刊「ぽっぷかるちゃぁ〜」での宮台×鶴見の対談のこと。
現在は
宮台真司+松沢呉一『ポップカルチャー』〔毎日新聞社/本体 1400円/1999年4月30日発行〕のP66〜71に、宮台・鶴見対談「リセット文化」として収録されている。
《*5》
「『べトナムに平和を!』市民連合」の略。1965年4月24日に結成され、広く市民を組織してベトナム反戦運動を展開。
《*6》
革マル…「日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派」のこと。元を同じくする中核派とのいわゆる内ゲバは有名(詳しくは
立花隆『中核VS革マル』上・下〔講談社文庫/上・下とも本体 495円/1983年1月15日発行〕など参照)。


 このインタビューは中央大学ジャーナリズム研究会発行の雑誌、月刊「Lit-MAss」27号(1997年7月3日発行)に掲載されたものを一部改稿の上、転載したものです。
会と編集部そしてインタビューをされた方のご好意により転載されることになりました。
転載を承諾していただいた皆さんに、この場を借りて御礼申し上げます。

なお、3月30日のイベントにて鶴見済さんより転載の承諾を頂きました。
転載に快く応じてくれた鶴見さんに、この場を借りお礼申し上げます。

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                                    小嶺 健(ハンドルネーム:TAKESI)
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