猫さんの保健室
-腫瘍に関する特集-
猫におけるワクチン関連肉腫の発生について
猫におけるワクチンの普及は、いくつかの猫の伝染病の蔓延を防ぐ意味で、とても大きな役割を果たしてきました。しかし、ワクチンの普及とともに、新たな問題が少しずつ起こってきております。ワクチンは体を守るために大事なモノであるのですが、そのワクチンのために、腫瘍が発生するという問題が年々増加しております。症例数や発生する確率はかなり低いと言えば低いのですが、猫のためにしてあげた方がよいワクチンを打つことで、猫にとって良くない病気が発生すると言うことも、又一つの問題といえるでしょう。(順番がバラバラになりますが、猫のワクチンに関連して、他にも、ワクチンによるアレルギーやアナフィラキシーの発生という問題も起こっておりますので、それについては保健室3で近日中にアップする予定です)。
今回は、そのワクチンに関連して発生する肉腫について、解説していきたいと思います。
どのように発生するか
ワクチン関連肉腫は1980年代後半ぐらいから、猫の軟部組織の腫瘍である繊維肉腫の発生数が増加したことによって注目されはじめました。ちょうどこのころ、猫のワクチンでアルミニウムアジュバントという成分を用いた不活化ワクチンが開発されておりました。アメリカにおいては狂犬病の発生もあるため、これらのアルミニウムアジュバントを使ったワクチンの数がいくつかあり、それらを猫に打つことが増えたとともに、肉腫の発生が増加したのに気がつき始めたようです。アメリカにおける研究報告では、1000頭に1頭から10000頭に1頭と、やや幅があるものの、これらの腫瘍が確実にワクチンを打っている猫から発生しているという点が注目されました。これらの報告では、繊維肉腫の発生は、ワクチン接種回数の高い猫ほど発生の危険性が増加していることも伝えられております。また、当初は狂犬病ワクチンや、猫白血病ワクチンのアルミニウムアジュバントという成分だけと思われておりましたが、その後の研究では、すべての種類の不活化ワクチンの成分の他のアジュバントでも(普通の3種混合ワクチンなど)でも繊維肉腫が発生すること、油性のアジュバントを含むワクチン以外の注射(例:プログラムというノミ予防のクスリの注射や、ドロンシットという、駆虫のための注射)でも、肉腫が発生することなどが報告されました。
どの様な課程で腫瘍化するのか
この腫瘍の発生の誘因となる不活化ワクチンのアジュバント成分は、生体にはなかなか吸収分解されない成分で出来ていることが多く、生体内に異物になるものであり、その反応などを利用して、アジュバントが局所に長くとどまることによってワクチンの成分である抗原を体に反応させて免疫効果を上げるワケなのですが、この反応が体の中で細胞に対して侵襲的に働いた結果、細胞が腫瘍化してしまい、その組織において肉腫の発生が起きるわけです。アジュバントは組織に注射されると、局所で炎症反応を起こすわけですが、これによって繊維芽細胞が過剰に増殖し、やがて腫瘍化してしまう個体が発生するわけです。
ちなみに、これはアジュバントを成分として含む不活化ワクチンでは発生しますが、水溶性成分で構成されている弱毒生ワクチンでは殆ど発生が見られないようです。
診断と治療
ワクチン関連腫瘍は、殆どがワクチンを打った部位に発生しますので、診断するに当たっては、その猫のワクチンやその他の注射歴が非常に重要となります(打った場所、打った回数や年月日、など)。ワクチンを背中に打つことが今でも多いと思いますが、背中に摂取した場合、そこから発生したときは背部に瀰漫性に腫瘍が広がった像が見られます。ワクチンを接種後、殆どの場合は直後はしこりが残るのですが(直ぐに吸収されないため)、通常はこのしこりは1ヶ月程度で消失するのが、接種後1,2ヶ月たっても小さくならず、しこりが増大してきたときには、この腫瘍が疑われます。
治療については現在では一応切除がベストの方法ではありますが、背中に打ったワクチンが元である場合、腫瘍が広範囲に広がっていて全体の切除が難しい場合も多く、再発率も高いようです。足に打ったワクチンが元である場合には、可能ならば断脚などの処置をして、肉腫が他の広がらないようにして完全切除することは出来るようです。部分的にしか切除できなかった例では、放射線療法や化学療法(抗ガン剤)などの処置も試みられているようですが、確実な効果を上げているという報告はまだ少ないようです。
いちおう、アメリカの方で最近行われているワクチン関連肉腫の診断と治療の方法を下記に上げておきます。
診断:・注射部位に発生したすべての腫瘍の位置、形状、大きさを性格に記録する
・鑑別されるまでは、注射部位に発生したすべての腫瘤を悪性腫瘍であると仮定する
・以下の場合には継続的な診断と管理を要する→/注射後3ヶ月以上腫瘤が存在する/腫瘤の直径が2センチ 以上ある/注射後1ヶ月経過しても腫瘤が増大している
・上記に該当する場合は、診断的にバイオプシーを行う。
治療:・血液検査、レントゲン検査を行い、全身状態の把握と腫瘍のステージを見る。場合によってはCTやMRI も利用する
・肉腫はその部分だけえぐるようには取らない。
・切除したすべての標本を病理検査に提出する
・得られた結果に対して適切な治療方法を専門医と相談する(アメリカでは腫瘍に関する専門医認定制度とか があります)
予防と早期発見
この腫瘍の発生は、先に書いたとおり、ワクチンの接種回数にも依存する部分があるので、近年では、ワクチンの接種プログラムそのものの見直しが議論されているようです。いくつか上げておきますと、、、、
・ワクチンは背中に打つべきではない
・複数のワクチンを同じ部位に打たない
・ワクチン接種部位は、脚の出来るだけ遠位に打つのが望ましい。
・皮下の方が腫瘍の発生がわかりやすいので、できるだけ皮下接種
・エイズなどの伝染病がないならば、弱毒生ワクチンを使う(生ワクチンはアジュバントを使っていないため)
・その他刺激性や難吸収性の成分の注射の接種にも同様に注意する
本来、ワクチンは猫さんの命を守るモノであるはずですが、残念ながらこのような問題も同時に増えてきていることを考えると、改めて病気というモノの難しさを痛感せざるを得ません。今後、ワクチンメーカーさんの努力でこれらの点が改善されて、より安全性の高いワクチンが開発されることを願っております。