猫さんの保健室

-腫瘍に関する特集-


 はじめに

 近年、動物の寿命は飼育形態の様々な向上によって、飛躍的に伸びており、猫も例外ではなく、10歳以上の猫の数は確実に増加しております。しかし、高齢化によって又、発生する病気にも変化が見え始め、昔は余り見なかったような病気に遭遇することもしばしばです。人では現在、死因となる病気の発生のトップが悪性腫瘍となっており、腫瘍の発生は普通に見られるようになりましたが、猫でも例外ではなく、昔に比べて腫瘍の猫を多く見る機会が増えたように思います。しかし、実際に猫の腫瘍に遭遇する場合、猫自身がその病体を隠しがちなせいか、かなり進んだ状態になってから病院で診察することもしばしばあります。また、飼い主さんが猫に腫瘍が出来るという認識が余り無いこともしばしばあるようです。また、一口に「腫瘍」と言っても、私たち自身が割合狭い意味でしかその意味や病気をとらえていない場合もあるようです。
 今回は、そんなわけで、腫瘍について、病気としての位置付けや、腫瘍の病気としての性質、診断、治療、個々の腫瘍について、等々、解説していって見ることにしました。
 なお、この文章をまとめるにあたり、難しい表現なども出てきますが、ワタシが大学時代に学んだ教科書に、幸い用語の解説などが出ていますので、それも紹介して、出来るだけ腫瘍という病気について詳しく知ってもらおうと思っております。

腫瘍の定義
 腫瘍とは、動物の細胞や組織が、周囲の組織と無関係に自律的かつ無制限に増殖する病的状態を言います。そして、その細胞は形態、機能の面から、異型性を示します。

 ---いきなり難しい用語が並びますので、まずは用語解説から。

自律性:腫瘍化する組織は、元々はその動物の細胞に由来するものです。しかし、元々の細胞の増殖とは全く異なった形で勝手に増えていく状態を示します。
 
---もう少し簡単に説明しますと、腫瘍になる細胞というのは、元々私たちや猫さんが体に持っている細胞なのです。言い方を変えると、体のどの細胞やどの部分にも、腫瘍というのが出来る可能性があるわけなのです。ある正常な細胞の一部分が、ある日突然、その細胞の持つ正常な働きを失って、異常な形で増え続けて出来てしまったモノが、いわゆる腫瘍の細胞なのです。出来てしまった腫瘍の細胞は、廻りの正常な組織と無関係に、勝手に増え続け、やがて正常な組織を浸食したり圧迫したりなど、色々悪い影響を体に起こすようになり、それが続くことで全身状態が悪化していくわけです。

異型性:腫瘍組織は元々はその動物の正常組織から発生します。しかし発生したその腫瘍は元々の正常細胞と形態的、機能的な違いがあり、形態、配列は正常細胞と比べて不規則かつ異型的です。また、その細胞は正常な細胞が本来持つ機能は失われております。
 
---これについてももう少し簡単に説明しますと、腫瘍の細胞は元々は正常組織から発生しているので、元の組織が持つ細胞としての性質は多少は残っておりますが、その形や増え方が全く異なってきます。これ以上詳しい話というと「家畜病理学」というきわめて専門的な分野に踏み込んだ話になるのですが、細胞というのは、発生の状態によって成熟した細胞(文化型といいます)と、その細胞が本来持つ形になっていない幼若な細胞(未分化の細胞)など、様々な形に又分類されるのですが、腫瘍細胞というのはこの幼若な細胞のままで分裂を繰り返すため、細胞が成熟して本来持つ機能を有していないわけです。

腫瘍の肉眼的形態
 腫瘍は、肉眼的にも組織学的にも、由来となった正常組織や細胞とは異なった形を示します。しかし、その形態は細胞の増殖の速さ、その細胞が本来持つ性質、腫瘍が増殖に伴って起こす変化(出血、炎症、壊死、血管の新生、細胞の変成など)や腫瘍を取り巻く周囲の組織などに影響され、多様な形を示します。
形状:腫瘍の形態は様々な形を取りますが、普通は限局性(ある限られた場所にあること)、結節状(塊の形をなすこと、です)で、周辺組織とある程度境界線を持つものが多いです。その形態によって、結節状(小さな塊のもの)、、キノコ状、ポリープ状、乳頭状、樹枝状、カリフラワー状などと表現します。また、明らかな腫瘤を作らずに、表面が壊死したり脱落したものや、周辺との境界線が不明瞭に発育した瀰漫性の形態のモノも存在します。
大きさ:腫瘍は分裂して増殖しますので、発生初期にはごく小さいモノが多いですが、分裂を繰り返すことで次第に大きくなります。大きさは必ずしも悪性度とは一致しませんが(ごく微少なままの悪性腫瘍もあります)、一般には急激に大きくなるモノは悪性傾向が強いです。
色:腫瘍の由来となる細胞の種類にも影響されますが、時にはその腫瘍自体が独特の色を示す場合もあります(例:悪性黒色腫-色素のため黒色となる。血管腫-血管組織が豊富なため、赤色を呈する。脂肪腫:脂肪組織の色と同様の黄白色。)。腫瘍に続いて起きる変化のために変性、壊死した組織では、その腫瘍の本来の色と又異なった状態を示している場合が多いです。
硬度(硬さ):腫瘍が由来する組織にも影響されますので、脂肪腫や血管腫、粘液腫などは柔らかく、骨腫、軟骨腫などは硬度があります。

腫瘍の組織レベルでの形態
 腫瘍は、腫瘍実質(腫瘍のいわば本体部分)と、それを支持する組織である間質からなります。腫瘍細胞は腫瘍実質部分に存在します。腫瘍細胞は発生した場所の細胞の本来の形と機能を受け継いではおりますが、その機能は一般には退化しており、また、細胞の増殖が元の細胞より盛んになっております。
 腫瘍の間を埋める間質は、どの腫瘍細胞にも存在するものですが、その細胞の多い少ないによって、その腫瘍の性質(特徴)が現れていることがあります。腫瘍を病理学的に診断する上においては是も重要な手がかりになります。

腫瘍の定義、という形から説明すると、どうしても学術的な理屈が多くて、わかりにくくなってしまいますが、ごくごく簡単にまとめると、腫瘍は元々身体にある細胞のどれもが、腫瘍に変化する可能性があり、腫瘍化した細胞は、元の細胞の性質を有しつつも勝手な形で増殖していき、元の組織と形態的に異なった形に成長していくということ、腫瘍は普通は塊状の形態をしており、大きさや形は様々となる、ということです。

 次の所では、腫瘍の増殖の仕方などについて解説します。

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