かたちの科学 高橋光一
| このページは、あなたが授業を聞く上でのポイントとヒントを記しています。次のどれかに該当する人は、この講義を特に興味を持って聞くことができるでしょう。 |
1.中天にかかる月と、まさに山の端に沈もうとする月では大きさが違うようだと感じたことがある。2.大きさは本当に違うのだろうか、と思ったことがある。 3.大きさが違うとすると、それはなぜなのか、と考えたことがある。 4.「大きさがどの程度違うかは、たとえば50円玉をつまんで腕をいっぱいに伸ばし、それぞれの月に重ねてみることで知ることができる」と聞いて、自分で確かめてみようと思う。 5.ともかく自然・人間ともののかたちに興味がある。 |
0.はじめに-----さまざまなかたち
1.古代人のかたち-----ユークリッド幾何学の周辺
ピラミッドと測量
345の規則
ユークリッド幾何学の考え方
かたちのなかの真理
プラトン立体
2.形と安定-----
力の釣り合いとかたちの決まり方 --地球-- --蜂の巣-- ガリレオの巨人と建築
3.運動とかたち-----自然も楽をしたい
光の進路 最小作用の原理
4.みかけの力がつくるかたち-----川の流れのように
5.流れとカオス/フラクタル-----秩序から混沌へ
生まれたばかりの赤子が目を開けたとき、彼または彼女は初めて外界の最も精緻な認識をする。それは色彩や明暗にくわえて、それとは異なる形ないしパターンというものの認識である。形の知覚によりわれわれは格段に多くの情報を得ることになる。ところで、一般に、他者の笑顔を見ると赤子も笑い、他者が無表情になると泣き出すという。パターンの認識能力には先天的なものもあるようである。
われわれはさまざまな形に取り囲まれており、かつ、それらの形はすべて意味を持っている。中谷宇吉郎は「雪は天からの手紙である」といった。形は自然の奥深く潜む精妙な仕組を伝えるメッセージである。われわれが読みとるメッセージによって、我々自身の意思決定・行動も大きな影響を受ける。
上に述べた、物の外形を意味する「形」は、講義で取り上げる「かたち」がもつ意味の一つである。古語には、シンボルに対応する「象」の字も用いられている例もある。たとえば万葉集三四八八に、
おうしもとこの本山もとやまのましばにも
とある。ここでの「象」は占いの兆しの意味である。そのほかにも、われわれが用いる「かたち」には、ものごとが起き進行する一定のスタイルを表す「かた」「型」含まれる。
この講義では以下のような「かたち」を取り上げる。
*古典的幾何学図形
平面図形: 多角形、円錐曲線
立体図形: 多面体、曲面
*静止と運動に見られるかたち
自然と建築
流れ
*現代的形としてのフラクタル(自然&美術)
人間はその歴史の初期に、どのような形を自然から読みとり、またどのような形に意味を与えこの世に残しただろうか。
1.1 測量とかたち
古代エジプトのピラミッドは、古代人の心と行動を支配したもっとも典型的な形である。その基本形は、
底辺 高さ 勾配
第4王朝 メイドゥームピラミッド 144.32m 92m 51度52分
ギザの大ピラミッド 230m 144.6m 51度52分
第2ピラミッド 215.25m 143.5m 53度08分
第3ピラミッド 108.4m 66.5m 50度49分
#ナイル川の氾濫と優れた測量技術が農耕文明と航海術を支えた。紀元前1500-3000年の古代エジプト文明期(古王国〜中王国)に、王の墓としてピラミッドがつくられたというのが有力な説である。しかし、詳細は不明である。
#ピラミッド、神殿の構造を支える図形的要素は、柱に円が用いられているのが見られるものの、直線(線分)であるといってよい。→梁構造が基本である。五重塔との類似に注目すること。
1.2 345の規則
紀元前のギリシャでは、タレスが蒔いた自然哲学の種が数学や自然学として花開いた。そのなかで、世界を数により理解しようとしたピタゴラス(ピュタゴラス)はその神秘性のゆえに異彩を放っている。
ピタゴラス教団:その基本的考え方と業績
・何物にも影響を受けない不変の真理の追求と発見→その前提としての不滅の霊魂の存在が仮定された
・整数による世界の調和の表現
・三平方の定理(ピタゴラスの定理)の証明
・ピタゴラス数、無理数の発見
a2+b2=c2となる整数a,b,cは無限に存在する。とくに、a=3,b=4,c=5はこの関係を満たし、この長さの辺をもつ三角形は直角三角形となる。古代のエジプト人たちはこのことを経験的に知っていて、土地の区画整理などに利用していたが、これが普遍的真理であることをピタゴラスが証明したのである。
ピタゴラスの定理から正数の比では表せない数−無理数−の存在が明らかになり、ピタゴラス教団が思い描いた整数的世界観は崩壊した。(無理数の存在はピタゴラス教団の極秘事項だったが、それを外部に漏らした男は、教団により抹殺されてしまった。)
ピタゴラスの思想は、のちのコペルニクスからケプラーにいたる新しい天文学にも影響を与えたといわれる。
ユークリッド幾何学
少数の公準と公理から限りない数の定理(=真理)が導かれる。
公準(作図上認められる操作)
1・任意の点から任意の点へ直線を引くことができる
2・直線は延長できる
3・任意の中心、および任意の半径の円を描くことができる
4・直角はすべてたがいに等しい
5・一つの直線が二つの直線と交わり、その片側にある内角の和が2直角よりちいさいとき、その二つの直線を限りなく延長すると、その合わせて2直角より小さい側で交わる
→直線外にある点を通り、その直線に平行な直線はただ一本だけ引ける
公理
・同じものに等しいものは、すべて等しい
・等しいものに等しいものを加えれば相等しい
・等しいものより等しいものを取り去れば、残りは相等しい
など
二つの図形の対応するすべての点を結んだ直線が一点Pで交わるとする。Pと図形上の対応する点までの距離の比が一定のとき、この図形は互いに相似であるという。点Pを相似の中心という。
1.3 美しい形−−−−>整った形−整数と関係
円は正多角形の極限的な美しさを持ち、球は正多面体の極限的な美しさを持つ。
*プラトンを始めとする古代のギリシャ人達は、惑星と太陽は地球の周りの円軌道上を運動していると考えた。
正多面体は5種類(有限個のプラトン立体)しか存在しない。
*ケプラーは、正多面体が有限個であることと、当時その存在が確認されていた惑星(水星、金星、地球、火星、木星、土星)が
三角形の合同:三辺が与えられると三角形が決定する→トラス構造
四角形は四辺の長さだけでは決定しない→リンク
| (1) | ピタゴラスの定理の証明はどのようになされるか、説明しなさい。 |
|
(2) | 古代ギリシャ時代−とくにアリストテレスやプトレマイオス−の宇宙観を調べ、整理しなさい。その中で重要な役割を担った図形は何ですか。ケプラーが発見した宇宙の仕組みの中で重要な役割を担う図形は何ですか。幾何学的美しさ・単純さと宇宙の成り立ちや神秘性とを結びつけようとする古代人やケプラーの気持ちを、あなたは理解できますか。 |
|
(3) | 宇宙ではなく地球上の現象で、単純な法則に支配されていることを窺わせる‘もの’や‘こと’がありますか。それはどんなもの・ことですか。
ヒント ●物体を投げるとどんな曲線を描く?●非常時に動物はどんなふうに行動する? |
2.形と安定と強さ
2.1 力と構造
安定の条件はつりあいの条件から求められる。
つまさき立ちとアキレス腱:
==問題== 人は、いくらまでの重量をつま先立ちで支えることができるだろうか。
体重Wkg アキレス腱の張力Tkg
つまさきからくるぶしまでの水平距離
かかとからくるぶしまでの水平距離
としよう。このときつりあいの条件は
と表される。
通常は a=12cm,b=5cm, W=50kg ----> T=Wa/(a+b)=35.3kg
腱の強度限界をTmax
個々の素材の強度のほかに、構造が全体の強度を決定していることに注意してもらいたい。
==問題== 体重10トンの恐竜がつま先立ちできるためには、そのアキレス腱の強さはいくらでなければならないだろうか。
(たとえば
建築においては、この点について十分な配慮をすることが重要になる。橋は、そのもっともわかりやすい事例である。
軸方向の引っぱりあい、押し合いによる釣合
1.つり橋 支点での張力の釣合、
2.トラス(面または立体) 接点での押力と張力の釣合(3辺の長さが決まれば三角形が決まる)
梁の伸縮力:断面積に比例した強度が生まれる。
梁の曲げ:中心軸から離れた部分に距離に応じた圧縮と引っぱりの力が作用するので、強度は断面積のほか、断面の形につよく依存する。
シェル構造(アーチ、ドーム)は圧縮応力だけで支えられる。すなわち引っぱり応力(ストレス)、剪断応力、曲げがなく、単純な構造で強度がある。
==問題== 剪断応力に弱い紙(このことを示す日常体験は?)を使って、ものを支えるにはどうすればよいだろうか。
ローマ法王(Pope 教皇)のラテン語はpontiff(=pont(橋)+fex(作る))である。すなわち、橋造り集団の棟梁を意味する。その昔、布教のために野を越え山を越え、必要ならば川や谷に橋を架けながら辺境の地に赴いた人々がいたことを彷彿とさせる言葉である。
桁橋
アーチ橋 -圧縮力で安定化-(錦帯橋、永代橋、シドニーハーバー橋、ロンドン橋、ローマの水道橋)
トラス橋(港大橋、ケベック橋)
吊り橋 -引っ張り力で安定化-(明石海峡大橋、ブルックリン橋)
斜張橋(宇治川橋、横浜ベイブリッヂ、ノルマンディー橋)
ラーメン橋(Rahmen)-プレストレスコンクリート使用-(浜名大橋)
原子が線状に結合している分子間に橋を架けたような形の結合を形成すること。天然ゴム(ポリイソプレン)の加硫(りゅう)などで起きる。
==ガリレオの問題==(比例の問題) いくらでも大きい(比例拡大した)巨人は存在できるだろうか。
| (1) | アーチ橋と吊り橋の関係を、力の釣り合いの観点から説明しなさい。 |
| (2) | トラス橋の安定性は、幾何学のどのような定理と関係していますか。 |
| (3) | 実際に利用されている橋にはどのような種類のものがありますか。実物の写真を撮って説明しなさい。少なくとも3種類について調査すること。 |
| (4) | 断面積が一定の塔の断面に作用する力の大きさは、高さとともにどのように変化するだろうか。 |
| (5) | 地上にできるだけ高い塔をつくりたい。あなたならどのような工夫をしますか。 |
| (6) | いくらでも高い塔は制作可能と思いますか。(材料は、強度に限りはあるが必要なだけ手にはいるとし、地球の自転や気象、地殻変動などは考えない、すなわち、考える条件は重力だけでよいとします。) |
3.運動のかたち
3.1 運動が作る形
運動の中に、軌跡がつくるかたちがあらわれる。ものを落とせば直線をたどり、斜めに放れば放物線になる。天体の運動にも、歴史的には、円、楕円、放物線、双曲線、サイクロイドなどが考えられてきた。これらは現在でも運動を理解する上での重要な概念・分類になっている。
磨き上げられたスポーツや文化芸術表現の中にも、「かた」がつくる美しい運動を認めることができる。「かた」はしばしば合理性の表現であり、「美」はそのような中にも現出するのである。
==問題== 技術が生み出した合理的な「美」として、あなたはどのようなものを例示できますか。また、日本の文化的伝統のなかで「道」のつく名で呼ばれるものがありますが、それらには、運動に伴うどのような美のかたちがあると思いますか。
物体は、力がはたらかないとき直進する。光も真空中を直進することはよく知られている。なぜだろうか。
これは、自然は作用を極小または極大にするようにふるまう という変分原理のなせるわざなのである。
4.みかけの力がつくるかたち(時間の都合で割愛する場合もある)
4.1 川は蛇行する
糸の先に石を結わえ、糸の反対の端を持ってぐるぐる回す。回している間、糸はぴんと引っぱられ、糸を離すとその瞬間の石の速度の方向に石は飛んで加速度的に離れていく。このことから、回転している石には外向きに力が働いているように見える。それをわれわれは遠心力と呼ぶが、そのような力がほんとうに存在しているわけではない。
力が作用しない物体は等速直線運動の状態を保とうとする(このような性質を慣性または惰性と呼ぶ)。力がなければものはひたすらまっすぐ近づきそしてひたすらまっすぐどこまでも離れていく。それを自分の周りに常時引き留めておくのには力がいるので、糸を回している人には石が逆向きに糸を引っぱっているようにみえるのである。濡れた雨傘を回転させると水滴が外に向かって飛んで行くように見えるのもそのためである。
遠心力は速く回すほど大きいように見える。実際、回転の速さvの2乗に比例する。同じ速さで回転するなら、半径rが大きいほど遠心力は小さい。実際、半径に反比例する。また、質量mに比例する。
コップに茶を入れて静かにかき回そう。コップの底に沈んだ茶葉は回転しながら次第に中央に集まってくる。コップの底との抵抗力のため、深い部分の水は浅い部分よりも速さが遅いので、遠心力は弱い。したがって、上部では中心からコップの側面に向かって、また底部では側面から中心に向かう水の流れが生じる。これが理由である。
川の流れは必ず蛇行する。もしも浸食が上流から下流に向かう水の勢いだけで起きるのなら、むしろ岸のでっぱりは削られて真直ぐになるはずだが…。理由はコップの中の茶の葉の場合と同じである。流れが曲がるところでは、遠心力のために外側の側面に沿った水深の浅いところから深いところへ向かって水が回転する。この回転にしたがって砂礫が運動し外側の岸を削り、削られた土砂は川底に沿って対岸の方向に運ばれそこに堆積する。こうして川の曲がりはますます激しくなる。
4.2 回転と渦
等速直線運動をしている乗り物(たとえば列車や旅客機)の中で、場所の移動は簡単にできる。これは、ガリレオの相対性原理の一つの表われである。
==問題== 回転している円盤の半径に沿って、中心付近から円周部にまたはその逆向きに人が飛び移るときに何が起きるか。
内側から外側に向かって飛び移ると、外側の速さが大きいので、あとに取り残される。⇒あたかも回転速度の向きと逆の力が働いているように見える。これがコリオリ(
5.流れとカオス
フラクタル--秩序から混沌へ--
5.1 流れの世界
空気や液体に粘性があるために流速が大きくなると渦が生じ、流れが乱れる。
5.2 天気/気象のパターン
時間的空間的移り変わりについての正確な予測が不可能である。
天気変化の複雑さ⇒ローレンツのシミュレーション
発見1:現象が初期条件に鋭敏である(カオスの条件)
発見2:現象が特定のパターンに収束する(ローレンツアトラクター)
<== この上にマウスを置いてごらんあれ。蝶のようなローレンツアトラクターが見えます。羽の筋を拡大すると、似たような筋が見えてきます。いわば、大きな羽の中に似た形の小さな羽が見え、その小さな羽の中にさらに小さな羽が見え....これがどこまでも繰り返します。これがフラクタルです。(Microsoft社Internet Explorerで見てください。)
発見3:アトラクターがフラクタル構造をもつ
5.3 フラクタルの世界
フラクタルとは、ひと言でいえば、自己相似性・部分の中に全体があるということである。したがって、部分を拡大しても情報量は変わらない。「近景(〜部分)と遠景(〜全体)が同じパターン」といってもよい。一見、非日常的(ないしは無機的、非人間的)であるが、自然界・生物界にも近似的な例が数多く見られる。
◇美とフラクタル 絵画の例
通常の風景画、‘写実的’浮世絵:観察者に近づくほど細かい構造が見える・情報量が増す
⇒非フラクタル性

ある種の日本画(屏風絵)、抽象画:近景と遠景で細かさが変化しない・情報量が変わらない
⇒フラクタル性
幻想画、ある種の浮世絵:遠方ほど細かい・観察者に近づくほど情報量が減る
⇒逆フラクタル性
本来の人間が外界を見る目は、観察者中心的非フラクタル性をもつが、コンピュータ科学・技術利用により、人間中心性を超えた精密化が可能になった。フラクタル図形がしばしば一種異様な感覚を与えるのは、この意味での非日常性によるものだろう。しかし、この概念を用いることにより、人間から自然にわたる広範囲の現象の特徴付けをおこなうための一つの統一的視点が得られたのである。
5.4 フラクタル次元とは
線は1次元図形であり、平面や曲面は2次元図形であり、ふつうの立体は3次元図形であるといわれる。つまり、次元は整数である。まず、その意味を理解しよう。ついで、フラクタル的図形で、次元が整数でないという事態がなぜ生じるかを正しく理解しよう。
平面図形のフラクタル次元のはかりかた
次のような表を作る。表の始めに(1、1)を記入。
| r | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 |
| n | 1 |
・始点から終点までの直線距離を測る。
・上で求めた長さの半分の長さの線分(r=2)で、始点から終点までを図形に沿って区切ったときの区切りの回数n2を数える。表の次の欄に(2、n2)を記入。
| r | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 |
| n | 1 | n2 | n4 | n8 |
・ちょうど整数回で終点に到達すればよいが、そうなることはまずない。その場合は、終点を始めて越えてしまう回数を記録するという方針でデータをとることにする。(あるいはその回数から1を引いたものを記録するとしてもよい。方針を決めたらそれを一貫させよう。)
・さらに、1/4の長さの線分(r=4)で、始点から終点までを図形に沿って区切ったときの区切りの回数n4を数える。表の次の欄に(4、n4)を記入。
・これを可能な限り繰り返す。
・表に三行目を作り、対数関数表(または関数電卓)を使ってそこに
| r | 1 | 2 | 4 | 8 | 16 | 32 |
| n | 1 | n2 | n4 | n8 | ||
| logn/logr | 0 |
・両対数グラフを使って表の1、2行目のデータを両対数グラフ用紙に記録する。rの大きい点をつなぐ線に最も近いと思われる直線を引いて、その傾きを定規で測定する。その値を、rが大きいときの
両対数グラフは、縦軸と横軸が共に対数目盛であるようなグラフ用紙である。

コピー
* 上のコピーを右クリックし、「対象を保存」してから印刷する。
実習1: フラクタル図形をつくる。
実習2: コッホ曲線のフラクタル次元を求める。