結論から言ってしまえば、新しい課程でも、円周率は3.14として教えられます。"3"でも"約3"でもありません。いまだに勘違いしているイタイ書き込みが見られますが、皆さんは今までどう認識していたでしょうか?
この辺りの話については、或る小学校の教頭先生のページ「面白半分」にある「円周率3騒動」が、よくまとまっていますが、問題の核心には迫っていません。他の同様のページ(例えばこことかこことかここ)も、「円周率=3.14と教えるんだから別に良いじゃないか」というような言い方ですが、どうやら指導要領の円周率の部分しか読んでいないようです。もっと問題は根深く、円周率が3か3.14か、という話だけではないのです。
(追加補足)
上の「他の同様のページ(例えばこことかこことかここ)」の最初の「ここ」のページの人からリンクミスのメールを頂きました。リンク先URLを訂正させて頂きます。
この文章は教科書が出揃っていない時点である講演会を聞いてすぐに書いたものなので、今だったら違ったものになっていたであろう、という事です。
以下に述べるような事は小学校の先生の方なら知っている筈なのですが、なかなか声が挙がってきません。親御さん達の不安や怒りはいっぱい転がっているのに。小学生の子供の無い人は現実を知らない人が多いと思うので、私が算数の指導要領と現実の指導の中身についてまとめます。ネット上で、ここまで言及した論文は無いと思います。
まず該当する指導要領は以下の如し(抜粋)。
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(文部省) 〔第5学年〕 3 内容の取扱い (2) 内容の「A数と計算」の(3)のウについては,1/10の位までの小数の計算を取り扱うものとする。 (5) 問題解決の過程において,桁数の大きい数の計算を扱ったり,複雑な計算をしたりする場面などで,そろばんや電卓などを第4学年以降において適宜用いるようにすること。その際,計算の結果の見積りをしたり,計算の確かめをしたりする場面を適切に設けるようにすること。 |
3(4)から、円周率3ではなく、3.14で計算する事がすぐ分かります。しかし話はここでは終わりません。何故なら、すぐ前の項の3(2)では、小数の計算は1/10位までと規定してしまっているからです。これでは3.14の計算が出来ないではないか!
・・・という事で、この事を明かにするため、書店に走りました。指導要領のような無味乾燥な文章よりは、現実の教科書や問題集を見るほうがはるかに良いからです。
しかし小学校の教科書は上下巻に分かれていて、残念ながら現時点では上巻しか出ていませんでした。円周率を扱うのは下巻。だから一番肝腎なところが見られないのですが、各学年の上巻教科書や教科書ガイド、教科書付属の問題集を読み漁る事で、小学校算数の全貌が見えてきましたので、報告します。
円周率に至るまでのカリキュラム
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整数の |
整数の |
整数の |
小数 |
円 |
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小3まで |
3桁同士 |
2桁同士、 |
ごく簡単 |
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小4 |
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3桁÷2桁 |
基本事項 |
基本事項 |
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小5 |
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小数一般の |
円周率=3.14、 |
又、計算に伴う桁数などの制限
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新要領 |
旧要領 |
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足し算 |
3桁同士 |
明確な規定が無いが、 |
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引き算 |
||
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掛算 |
2桁同士、又は3桁×1桁 |
3桁×2桁のように書いてあるが、3桁同士の掛算もやっていた模様 |
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割算 |
3桁÷2桁 |
N桁÷2桁までしか書いてないが、 |
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小数 |
小数点以下1桁 |
規定無し |
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分数 |
仮分数・帯分数の概念は扱うが、計算はカット |
仮分数・帯分数の計算も扱う |
かなり厳しい桁数制限がついています。将来、より大きな桁数が必要になってもフォローは一切無し。中学・高校では普通に出てくるんですけどね、3桁や4桁の計算は。
いやそれ以前に、3桁同士の加減算では千円札も使えず、小数点以下1桁では消費税の計算も出来ない事になってしまうのは困ります。
では、どうするのか。小学校では以下のような手段をとります。
円周率の計算は2のように3.14を3で計算させるか、3のように電卓で乗りきります。特に電卓使用については大きな問題が潜んでおり、円周率の計算はあくまでその一例に過ぎません。
電卓の乱用
新要領にも旧要領にも、電卓の使用は銘記されていましたが、その取り上げ方には非常に大きな違いがあります。|
旧要領
統計的に考察したり表現したりする際に大きな数を多く取り扱う場面や小数の乗法及び除法で計算法則が成り立つかどうかを確かめる場面などで、計算の負担を軽減し指導の効果を高めるため、そろばんや電卓等を第5学年以降において適宜用いさせるようにすること。その際、概算などによって、計算の結果の見積りをしたり、計算の確かめをしたりする場面を適切に設けることにも留意すること。 |
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新要領 問題解決の過程において,桁数の大きい数の計算を扱ったり,複雑な計算をしたりする場面などで,そろばんや電卓などを第4学年以降において適宜用いるようにすること。その際,計算の結果の見積りをしたり,計算の確かめをしたりする場面を適切に設けるようにすること。 |
旧要領では電卓を使用する場面は非常に限られていました。統計的処理を扱う場合や、計算法則が成り立つか確かめる場合です。確かにこのような場合では、計算機を用いるのは差支えがないどころか、より複雑な統計処理を扱ったり、より多くのケースで計算法則が成り立つ事を確かめられるのですから、寧ろ望ましいと言えます。
しかし新要領ではどうでしょう。これは「大きな桁の計算は計算機に任せちゃえ!」という態度です。しかし大きな桁といっても、たかが3桁×2桁の掛算レベル。このくらい筆算で出来なくてどうする。問題解決が不可能なほどに桁数の制限を厳しくしてしまったので、電卓をより普遍的にな地位に格上げせざるを得ない、という訳です。これは「電卓の乱用」と言って良い状態だと私は思います。
儲かるのは電卓のメーカー。商売のにおいを嗅ぎ付けたカシオは、小学生用に以下のような計算機を売り出しました。小数も分数も筆算など一切せずとも、この計算機でOK。約分・通分、なんでもござれ。こんな電卓を使っていて、計算力がつく訳ないでしょう。自分の子供には絶対に使わせたくないです(今は子供いないけど)。
算数学習を効果的にサポートする小学校向け電卓 電卓にビジネスチャンス 学習指導要領改訂 (神戸新聞)
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/keizai/020406jc14290.html
さて現実の教科書で電卓はどのように扱われるのでしょうか? 最初に電卓が登場するのは小学校4年です。独立した項目というよりは、コラムのような感じで取り扱います。例えば、以下のページの2001年4月8日を見て下さい。
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静岡新聞 大自在 |
東京書籍の教科書では、以下のような面白い計算を電卓でやらせます。
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1×9+2=11 |
しかし実はこの計算、筆算でやるからこそ醍醐味があるのであり、計算機だと興味半減です。1234567×9+8=11111111を例にとりましょう。
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12345678 72 111111102 これに9を足すと 111111111 になる |
このように書くと、桁がパタパタと繰り上がっていき、1が並ぶ理由が何となく分かってきます。しかし電卓でやると、一番肝腎な計算の過程が全く見えません。
円周率の計算と電卓
まず、円周率についての教科書での扱いは、以下のページが詳しいです。教科書の画像が載っています。
円と円周率(算数新教科書(6社)を5段階評定するより)
http://www16.u-page.so-net.ne.jp/ka2/asa-mime/5b6.htm
これを見ると、円周率は約3.14である事は銘記されています。この限りにおいては「円周率=3」説は誤りです。しかし、全くの誤りか、といえば、そうではありません。というのも新要領での掛算は、以下のような桁数制限があり、3.14という数値計算は不可能な筈だからです。
そこで、これを超える計算問題には電卓マークがつき、電卓で計算する事が「推奨」される訳です。以下の画像は、「株式会社 文理」発行の「教科書ドリル5年 教科書学習版 計算」というドリル本から引用したものです。

左上にあるアイコンのようなものが電卓マークです。これは、「電たくを使って計算しましょう」という意味です(上記ドリルより)。「電卓を使っても良い」というより、「電卓を使わなくてはならない」というニュアンスが含まれます。教科書に書いてあるので、先生も電卓を用いるしかありません(先生によっては筆算を併用する人もいるでしょうが)。以下のページを参照。
円周の長さ・しつこく・円周率「電卓指定」が問題文中に書かれている事もあります(文理社 計算ドリル 東京書籍5年)。
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車輪の直径が64cmの自転車があります。この自転車の車輪が120回まわると、自転車は何m進みますか。電卓を使って求め、四捨五入して上から2けたのがい数で答えましょう。 |
新要領では、3.14を用いた計算は電卓を用いないといけないという事になり、電卓を用いない場合は、円周率=3で計算するしかありません。先に円周率=3は全くの誤りではない、と書いたのは、この意味です。しかし「数学的な円」の円周率に3を用いるのはいかにも乱暴なので、以下のような文章題に限られています。
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まわりの長さがおよそ50mの円の形をした池があります。この池の直径はおよそ何mですか。円周率は3として、上から2けたのがい数で答えましょう。 |
こんな問題ばかりで教科書を埋める訳にはいかないので、円周率=3として筆算で行う系の問題は、非常にマイナーです。事実上、手計算で円周や円の面積を計算する事はなくなります。
円周率以外のところにも電卓は入り込んでいく
たかが円周率、とタカをくくっている人もいるので、電卓が使われる、別のケースも扱いましょう。まずは次のページ。
TOSS大和(向山洋一「教育技術の法則化運動」の影響を受けた人達のサークル)より
http://www1.kcn.ne.jp/~zubat/bunsu/bunsu15.htm
分数を小数に直す計算を電卓でやっています。(1)1/4=0.25 (2)3/8=0.375 (3)1と6/25=1.24 (4)4と3/5=23/5=4.6 ⇒ 電卓マークが無いのなら、このくらい筆算でやれ!
同じくTOSS大和
http://homepage2.nifty.com/kenkayo/taniryo6.htm
あともう一つの問題。「5人が自動車に乗りました。1人の平均の体重を62kg,車の重さを1200kgとすると,人と体重の重さは何㎏になりますか」これにも電卓マーク。1200+62×5は、3桁同士という加減算の制限を超えるからか。あほらし。
極めつけは以下の問題です(文理社 計算ドリル)。

つまり、パーセントの計算も電卓がなくては出来ない! 更には、メートル⇒センチメートルの変換も出来ません。円周率はともかくとしても、%の計算は社会生活ではどうしても必要なものです。だって、ヨドバシカメラでポイント還元の計算が出来ないじゃないか! コンピューター世界の単位はK⇒M⇒G⇒T で4桁区切りだから、小数3位までは扱わないと使い物になりません。ここまで来ると「文部科学省、正気か?」と思ってしまう。1000の5%はいくつ、なんて問題は、電卓どころか、暗算で出来ないと使い物になりませんよ。
電卓使用についての問題点をまとめておきます。
ツケは後になって回ってくる
例として分数について書きましょう。新要領では、分数が登場するのは4年。
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新要領 |
旧要領 |
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3年 |
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分数の概念・基礎 |
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4年 |
分数の概念・基礎 |
同分母の加減算 |
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5年 |
同分母の加減算(真分数のみ) |
約分・通分 |
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6年 |
約分・通分 |
分数の掛算・割り算 |
私は学生時代、塾でバイトをしていましたからわかるのですが、分数は小学校算数の中では、最もつまづきがちなところです。そして新要領では余計につまづき易くなりそうです。というのも、5年までの少ない知識で、本格的な分数の計算を6年で一気に仕上げるという乱暴な事をしているからです。旧要領は、本格的な分数計算が5年と6年に分散しているので「ゆとり」があり、段階を追って学習していけます。
ちなみに、中学以降、分数計算は既知として扱われ、以降のフォローは一切ありません。6年生でつまづいたら、もう追いつくキッカケはなくなってしまいます。旧要領は分数計算に2年間費やすので「ゆとり」があり、5年でつまづいても6年で追いつけます(ヤル気さえあれば)。又、小学校では仮分数の計算をやらないのに、中学校では既知となってしまうのも?です。
分数に限らず、新要領は、低学年で教える事を少なくして、高学年にツケを回すようなカリキュラムになっています。それでも回しきれなかった分は中学へ、中学で教え切れなかった分は高校へ。結果、高校のカリキュラムはぐちゃぐちゃ、訳わからん状態。高校で落ちこぼれる人が増えそうです。
次のリンクは、このような愚かな要領にしてしまった張本人達の会議です。このようないい加減な会議で全てが決まっていたのかと思うと恐い。読んでいて殺意を覚えました。