10/05/12 作成

冬眠明けの(臨)田子倉 初乗車の旅 Vol.2

  念願であった冬眠明けの田子倉駅の訪問を達成した。早朝7:07に発車した会津若松行き426Dの車内は、寒さで凍りついた体を解き
 ほぐすかのように暖かい。トンネル内に響くエンジンの咆哮と鉄路が奏でるスローな打音は、まるで催眠術にかけられたかのように遠い
 世界へと誘う。いかん、私には駅を訪問する使命があるのだ。寝ている場合ではない! 水筒のなかで半分くらい凍った冷水を飲み、
 口の中へフリスクを放り込んだ。只見に7分停車した列車は、5連続の“会津○○駅”を経て会津川口駅に着く。ここでは何と25分も停車
 するというから、あまりの鈍足さに呆れてしまう。ちなみに、この只見線の“426D”は、たびたび手前味噌で恐縮だが、“日本全国・鈍行
  列車ランキング”で第8位の列車だ。走行距離は135.2kmと短いが、小出を5:32に出て、終点の会津若松に10:38に着き、所要時間は
 5時間6分もかかる。表定速度(停車時間を含む時速)は、なんと26.5km/hという自転車並みの速度だ。これはスピードだけで見ると
 第2位(第1位は三江線・山陰本線の三次〜浜田を走る442D・379D:26.3km/h)になる。今年12月4日に運行予定の東京〜新青森を
 3時間10分で結ぶE5系新幹線「はやぶさ」は、最高速度320km/hに達するというのにいったい…。しかし、この時代錯誤な鈍行列車は、
 只見川の絶景を満喫できるうえ、興味深い数々の駅へ停まってくれる。ローカル線に吹く世間の風は冷たいが、そんな暖かい列車が
 いつまでも地元の人と旅人を運んでくれることを願ってやまない。

    
 扇風機が懐かしい車内にクーラーは無い   車掌さんもホームに立って一息      只見川に映る雪山の車窓は絶景!   “会津”5連続の中間にある会津大塩駅

 会津川口駅では“姫ますバーガー(350円)”を朝飯代わりに買う。以外と魚臭くなく、柔らかい触感であった。この時は食糧調達が目的
 なのに、ずいぶん値が張ると感じた。しかし後で調べて見ると一日にわずか5個しか販売されない幻のハンバーガーであることが判明。
 少しばかり得した気分になっただけでなく、こうした思いがけない出会いも旅の楽しさであろう。小腹を満たして次の訪問駅の“早戸”で
 下車。ここは只見川の辺りにあって自然豊かな癒しの駅で知られるが、とても残念な光景を目の当たりにした。薄青色の古い木造駅舎
 は取り壊され、小さなコンクリート製の待合室に変わったことは事前の情報で知っていたが、国道のトンネル工事の現場になっている
 ことに愕然とした。しかも駅の真裏(駅構内)に、大きなプレハブの事務所が建ち、お世辞でも雰囲気が良いとは言えない。ここはいち
 早くトンネルを開通させて元の状態に戻して欲しいもの。私のような地元とは何の関係の無い者が、気分だけで好き勝手にのたまうこ
 とに幾らかの遠慮はある。けれども素晴らしい風景を期待して訪れた旅人にとっては、誠に嬉しくないのが正直な気持ちだ。

    
 ちょっと豪華な会津川口駅で姫ますバーガーを買う   コンクリートの待合に変わった早戸駅   只見川は素晴らしいが、俯瞰すると悲しい現実を知ることに…

 失意の早戸に30分あまり滞在し、となりの会津水沼へ一駅戻って下車。ここは以前より気になっていたため、今回は“秘境駅調査”の
 目的がある。「おおっ〜」と、思わず声が漏れるほど特徴的な造形を持つ木造待合は、実に渋い佇まい。素朴な字体の駅名板にも
 心が躍る。室内は豪雪対策で窓板が打ってあるため薄暗いが、それも雪国に生きる駅の姿であろう。周囲に十軒ほどの人家があり、
 大きな国道の橋にも近いため、残念ながら秘境駅とはいえない。小一時間ほど滞在した後、更にもう一駅となりの会津中川駅に向い、
 3kmあまりの道のりを歩き出した。

 
    
 林をバックにひっそりとしたホームに国鉄型の駅名標が嬉しい   特徴的な待合室に掲げられた駅名板は味わい深いもの    国道の橋から只見川を眺望する    

 短いスノーシェッドが続く国道252号線を歩くが、所々歩道の無い箇所もあってトラックが迷惑そうに大きく膨らんで行く。少しばかり申し
 訳ない気持ちになるが、高速道路ではないから歩行者にも通行する権利はある。道端の雪で滑らないよう慎重に進む。転倒して引っ掛
 けられたら、ひとたまりも無いし相手も気の毒だ。途中で国道を逸れ“上田ダム”などを観察しながら、ようやく会津中川に着いた。
 
    
 集落の裏に大きな上田ダムがそびえる  取り壊された“早戸駅”の面影を持つ駅舎  庇の補強が豪雪地帯を物語る     ホームは一面一線の単純なもの  

 会津中川は集落のなかにある普通の田舎駅だが、この古い木造駅舎は一見の価値がある。白く塗られた外壁に雪の圧力で窓ガラス
 が割れないように板が打たれ、屋根の庇(ひさし)にズラリと並んだ補強も壮観だ。徹底した豪雪対策が施され、まるで鎧をまとってい
 るような姿である。そんな駅舎をつぶさに見て行くと、あることに気が付いた。塗色こそ異なるが、前途で紹介した“早戸駅”の旧駅舎
 と良く似ている。それも1956(昭和31)年9月20日と同じ開業日であることから、この地区における標準的な駅舎であったのだろう。
 待合室のなかで列車を待っていると一人の老人に出会った。短い時間であったが、只見線とダムにまつわる様々な談話を伺え、とても
 有意義な時間を過ごせた。こうして建設に携わった御本人に聞けたことは、当時働いていた人々の様子やエピソードは、デフォルメ
 (歪曲や美化)された情報ではなく、歴史の真実として伝わってくる。“温故知新”やはり年寄りは大切にしなくてはいけない。

    
 郷戸駅に乗降客あり  新しく建て替わった塔寺駅の待合室 名物の屋根付き階段も復活! 会津磐梯山を見て会津若松へ  駅前フジグランドホテルは安価で快適

 会津中川から一緒に乗られた老人は、会津柳津で降りて行った。話し相手を失った脳は暖かい車内にのぼせ上り、昨夜までの疲労が
 容赦なく襲いかかる。途中の郷戸に訪問するプランも考えたが、昨日からの疲労は激しく、宿泊地の会津若松へ先を進めることにした。
 途中の塔寺駅は、古い屋根付きの階段が特徴的な名駅だったが、そのままの形で新築されているのを見て嬉しくなった。安易に“洒落た
 デザイン”を狙った近代的な駅舎よりも、こうして古き物を大切に再生していく姿勢には頭が下がる。きっと年月を重ねれば、取り壊される
 前と同じものが見られるであろう。
列車は次第に高度を下げながら会津盆地へ入った。車窓に見えた雪もすっかり無くなり、磐梯山の
 雄姿が横たわる。ほどなく終点の会津若松に到着。ずいぶん都会に来たものだと、しばし感慨に耽る。居眠りから醒めた少々気だるい体
 を引きずりながら、駅前の“フジグランドホテル”にチェックインした。宿泊料は5000円/1泊と安いうえ、更に同じチェーンの“富士の湯”と
 いう天然温泉の一大施設にも無料で入れる大盤振る舞いのサービスに大満足。泉質も上々で夕食も同じ施設内でゆっくりと食べられた。
 少しばかり贅沢だが、旅のコストカットにこだわる私も納得。久々の布団に人間らしさを取り戻した気がした。
 

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