01/06/02 作成  07/07/21 加筆修正

薩摩塩屋駅

草生した南国の無人駅に今日も一日を終える夕暮れが訪れた

       

駅前の木は駅舎があったことを物語っているようだ   そしてこの木の下にひっそりと水道があった    駅前には人家は少なく、草生した広場が広がっている

       

錆び付いた側線の終点には、大きく湾曲した車止めが鉄としての“造形美”を醸し出す  時代へ戻るタイムマシーンである“キハ58系”急行型気動車

  訪問日記   2001年5月10日 訪問

  この“薩摩塩屋駅”は、指宿枕崎線の終点である枕崎駅から3駅手前にある無人駅である。 周囲には人家が数軒見えるが、集落は遠い場所にあるので寂しい雰囲気が
 漂っている。 駅前は草生した広場になっていて、その中央に立派な木が植わっており、恐らく以前ここに駅舎があったのではないかと思われる。 その跡地には何もない
 と思われたが、何故か水道だけがひっそりと大樹の陰に隠れていた。 古いデザインをした真鍮製の蛇口をひねってみる。 すると、なんと水が出てくるではないか! 
 これにはびっくりしてしまった。 緑地となったこの広場は、テントを持ちこめば快適なキャンプサイトへと変身できるという一面を持っていたのである!(発想が可笑しい)。
 更に駅の構内には錆び付いた側線が残っており、その車止めはレールを大きく湾曲させたもので、何だかこの造形美に芸術を感じてしまったのは私だけであろうか?
 現在使われているホームは片面であるが、良く見ると島式の形態をしていて、以前はここで列車の交換をしていたと思われる。 こんな人気のない駅でも当時はそれなりに
 活気があったのであろう。

 私は今回この駅へ日豊本線の“竜ヶ水駅”を訪問した後、食料調達のために西鹿児島駅で降りて駅前にあるスーパーで酒類とともに少量の食料を購入した。 そして、
 この駅のある指宿枕崎線の普通列車に乗り込み、左手に錦江湾を見つつ、比較的駅間距離の短い多くの駅をこまめに停車しながらようやく指宿駅へ到着して降りた。
 ここでは約50分の待ち時間を取ってあり、駅前から左へ徒歩2分の所にある“松元温泉”という銭湯へ入った。 ここは、昔ながらの雰囲気を持った街の銭湯であるが、
 有名な温泉地である当地にあって泉質は他と変わらることはなく、300円という低価格で味わえる温泉に気分も上々であった。 久しぶりのお湯にさっぱりして、指宿駅の
 ホームに上がり、心地よい風に吹かれながら列車を待っていると、程なく山川行きの列車がやってきた。 快速「なのはな」と名付けられた列車の黄色いボディーは南国の
 列車を象徴しているようで、目に刺さるほどの強烈な鮮やかさであった。 快速とはいっても次の山川駅で早々と乗り換えてしまうが、駅へ到着するや否や一瞬目を疑った。
 そこにはあの国鉄色であるクリーム地に朱色のキハ58系が停車しているではないか! 思わず嬉しくなってしまうのは、やはりこの色をした列車を過去に何度も乗車して
 いて愛着が深いからである。
 
 そして日本最南端の駅である“西大山駅”を後で訪問することとして、列車は更にその先へと進む。 この線区で秘境駅の候補として挙げていた幾つかの駅は、残念ながら
 降りる価値もないほどに周囲に人家が多く、このまま行ったら終点の枕崎駅へ到着してしまうのではないかという心配を抱えながら先へと進む。 そしてようやくこの
 “薩摩塩屋駅”へとやって来た。 運転室脇の前方から見た感じでは、この駅は今まで過ぎてきたどの駅よりも周囲に人家が少なく、だだっ広い畑が広がっている中に
 ポツンとある感じの駅だった。  これは秘境駅としての条件が揃っている! と判断して、ここで列車を降りる決心をしたのである。 

 少ない本数の列車を降りるというのは、本当にギャンブルのようなもので、降りてみて雰囲気が悪くガッカリしてしまっても、私の思う通りに列車はやって来るわけがない。
 当たり前だが全ての列車は時刻表通りの時間に列車はやって来るのである。 以前、大して雰囲気の良い駅でも無いのに思いつきでフラッと降りてしまい、2時間近く
 待ち合わせた結果、後々のプランに大きな支障をきたしてしまったことがあった。 その後は後続の列車で追い掛ける訳だが、宿泊予定地(駅)への到達が難しくなって
 しまい、明日のプランへの影響が出てきたため、止む無く特急列車で追いかけて何とかプランを修復した経験がある。 下調べも重要ではあるが、その情報が全く無かった
 場合には、それこそ慎重な行動が要求されるのである。
 
 話しが長くなってしまったが、こうして降りたこの駅は私の期待を大きく裏切ることは無かった。 勿論、レベルの高い秘境という次元ではないが、駅の魅力はそればかりで
 はない。 往年の姿をひっそりと残す小さなアイテムがこの駅にはしっかりと存在していたからである。 そんな些細な発見でも少しだけの予備知識と想像力さえあれば、
 当時の姿を思い浮かべることができ、誰もいない駅の中でタイムスリップに似た経験が出来ると言っても過言ではない。 そんな大袈裟なと言われるなかれ。
 こうして探索をしながら列車を待っていると現に国鉄色をしたキハ58系が枕崎駅で降り返して、こちらにやってくるではないか! 私は一気に昭和の時代へ逆戻りした気分に
 なって、いざこの列車へと乗り込んだ。 2エンジンの咆哮を響かせながら急行型気動車の堂々とした走りは、私の体と脳裏に深く深く染み渡って行くのであった…