2016/04/25 作成

韓国の秘境駅訪問 その3

新鋭8500型ELに牽引された急行ムグンファ号  肥洞(ピドン)駅を通過


    旅程3日目 2016年4月17日  栄州からソウルまで


    今度は、両元(ヤンウォン)駅から、鉄岩(チョラム)駅で折り返してきた、同じV-Train(4862列車)に乗り、先ほどやり過ごした肥洞(ピドン)駅で降りた。ところが、あのカーボー
   イ風のコスプレ制服を着たアガシ(若い娘)乗務員が、怪訝な顔をしながら何やら「危ないから止めた方がいい」みたいに制止してくる。私はそこまでの切符を持っているし、下車
   を制限される覚えは無いが、何のために降りるのか?と聞いてくるなので、「トレッキング」と答えた。ここがトレッキング用の駅だということを事前に知っていたので、下車の理由
   として一番無難だと判断したからだ。しかし、なかなか快い顔をしない。咄嗟に所持していた“秘境駅訪問家”の名刺を見せて、日本でこういう駅を専門に降りていると、日本語で
   伝えるが、もちろん通じる筈もない。両元からはわずか2.2kmしかなく、ゆっくり走っていても直ぐに到着してしまった。万事休す!

   すかさず開いたドアに向かって「ケンチャナヨ!」※大丈夫だよ! と言って、半ば強引に降りてしまった。なんとまあ行儀の悪いことをしてしまったが、これが阻止されると最大の
   目的が水の泡になる。熊が出るとか心配したのかも知れないが、こちらは長野県人のDNAを持つ山男だ。おそらく彼女は都市居住者なのだろう。気持ちは解るが、ここで降りれ
   る有効な切符を持っている。そもそも駅を造って停車しておいて、下車するなと言う方が矛盾しているのだ、と自分を慰めた。あぁ〜異国の地でやり過ぎてしまったか…

   
          

    ついに韓国秘境駅ナンバーワンの肥洞(ピドン)駅に降り立った   駅名標が木製で何とも素晴らしい!   トレッキングコースの標識   ホーム裏の黒い屋根は農業用のもの
   

          

    下車の記念にチキンラーメンの昼食を摂る   何だか布原駅を思い出すロケーションだ   橋の下からホームに登る姿は廃止された八ツ森駅っぽい  500m先に1軒の人家

    この肥洞駅はトレッキングでの利用を目的とした仮乗降場という扱いだ。停車する列車は、1日あたり上下3往復の観光列車(V-Train)に限られる。立地的にはやや狭い峡谷の
    なか、鉄橋の脇に土盛りの片面ホームがあるだけで、待合室といったものは存在しない。外部からの道路は狭いが舗装はされてはいる。しかし、隣の両元駅方面への道路は
    通じておらず、どん詰まりの僻地である。周囲に人家は見えないが、坂を登っていくと1軒だけ人家があった。興味本位で歩いて行くと、いきなり繋がれていない1匹の犬が飛び出
    してきて、盛んに吠えまくってきた。若い頃の私だったら、“押角駅番犬強襲事件”のように、棒で叩きのめしたものだが、さすがに良い歳をこいた大人が異国の地で、やんちゃを
    する訳にはいかない。万が一噛みつかれて狂犬病になっても厄介だし、もし家人に見つかったら、それこそ何をされるか解らない怖さもあった。戻って行くと後を追ってこなくて安
    心する。君子危う気には近寄らずである(笑) 

    その後、再び駅に戻り、昼食にチキンラーメンを食べて過ごした。ちなみに、この駅に来る前に調べたネットの写真で、こんな所に太陽光パネルが設置されているのか!、と驚い
    ていたが、実際は農業用の雨除け屋根であった。何を育てているのか、当初は判らなかったが、後に“高麗人参”では?という情報が寄せられた。何でも、雨と直射日光が不味
    いらしく状況的にも合点がいく。さらに非常に高価ゆえに人目に付かないところで栽培されているのだろう。まさか、コスプレアガシ乗務員はこれが理由で降りるなと制止したのか
    は定かではない。

    さて、秘境駅ランキングの視点で見ると、秘境度18、雰囲気17、列車到達難易度17、外部到達難易度16、鉄道遺産指数3、で総合評価は71ポイント。ランキング順位は10位の
    糠南(72P)と11位の豊ケ岡(69P)の間に位置し、非常にハイレベルな秘境駅と判断した。文句なしに韓国ナンバーワンの秘境駅である。


          

    承富(スンブ)駅を発車して行くV-Train   トレッキングコースはスリリングな地形に沿う  ブンチョン-チョラムのサボ   カラオケで盛り上がり、トンネル内はテンションMax!


    肥洞駅からは、汾川(ブンチョン)駅から折り返したV-Train(4863列車)に再び乗車するが、先ほどモメてしまったコスプレアガシ乗務員は、他の車両で接客に追われている様子
    で、ひとまず気まずい思いは避けられた。結局、肥洞ではトレッキングの人こそ何人かを見かけたが、私以外に誰一人として鉄道を利用する人はいなかった。車内はカラオケで
    盛り上がっていて、列車がトンネルへ入ると、例の畜光シールが天井を彩り、歌っていた乗客はもの凄い奇声を上げながらテンションはMaxに(苦笑)。そのやかましさは尋常で
    はなく、次に降りるのが待ち遠しかった。    


          

     承富のホームは広いが、立地的には険しい谷間   駅舎はあるが、基本的に信号場みたいな存在だ  ここも味わい深い駅名標がある    対岸の車道へは吊り橋を渡る  


    承富駅で降りて、車内の騒音からようやく脱出。ここで10分ほど停車するらしく、車内からも沢山の人が降りて来て写真を撮っている。そのうちの一人が私に話しかけてきたが、
    もちろん何を言っているのか解らず、「チョヌンイルボンサラミエヨ」、「ハングルマルムルゲッスムニダ」※私は日本人です、韓国語は解りません と言うと、怪訝な顔をして仲間
    に耳打ちしながら去っていった。あからさまに差別を受けた感がある。V-Trainの乗客のほとんどは、国内でも比較的富裕層の類に入る人達だ。中途半端に富を持つと人は冷
    たくなるのか。昨晩、栄州の街でお世話になった、日々一生懸命に生きている人達とは全く異なる。私はむしろ差別を受けたことに怒ることより、あの街の人のように、困った時
    に寄り添って力になれる人間になりたいと、心の底から思った。そういう意味では反面教師的に気づきを与えてくれたことを、感謝するのみである。

    いささか、重たい気持ちにもなったが、この駅の状況は観光客でごった返している。正直なところ、先ほど訪れた肥洞駅が恋しい。それでも、駅の立地的には素晴らしく、険しい
    谷間の信号場といった風情である。さらに人家がないこと、車道は対岸にあり、川を渡る吊り橋(クルマは通れそう)で連絡されているなど、なかなかのロケーションである。もっ
    とも、観光客向けにホームの裏側には両元より沢山の屋台が出ていて、休日とあって多くの人で賑わっていた。

    ここもまた秘境駅ランキングに当てはめてみよう。秘境度8、雰囲気1、列車到達難易度8、外部到達難易度9、鉄道遺産指数4で、総合評価は30ポイント。ランキング順位は、
    73位の原生花園駅が該当する。渓谷のロケーションこそ素晴らしいが、観光客の多さも匹敵するため、似たような位置付けであろう。

          

     承富から急行ムグンファ1682列車に乗車   鉄岩(チョラム)駅は炭鉱そのもの   東栢山(トンペクサン)駅の裏に、かつてのスイッチバック線が通る   ソラン信号場を通過


    承富からDLに牽引された急行ムグンファ(1682列車)に乗車。途中の鉄岩(チョラム)駅は、まさに駅構内が炭鉱といった様相で、そこらじゅうに真っ黒なボタ山がそびえ立ってい
    た。この嶺東線は、沿線に数多くの炭鉱を擁する重要なエネルギー路線である。そして、東栢山(トンペクサン)駅に着いた。ここは2012年6月に 延長16kmにおよぶ大きなループ
    線のソラントンネルが開通し、東栢山〜道渓間のルートが変更された。かつて、興田(フンジョン)〜 羅漢亭(ナハンジョン)間のスイッチバックと、2か所のオメガカーブで、険しい
    太白山脈を越えていた。しかし、その区間は未乗であることが誠に残念だ。やがて、ソラントンネルに入るが、あまりにも長いため、ぐるりと回されている感覚には乏しい。ところが
    だんだん車内が排気ガス臭くなってきた。心なしか靄(モヤ)も掛かっている。あの巨大なディーゼルアメロコのせいだ。おまけにループ型のため、排気ガスの抜けが悪い様子で、
    だんだん喉が痛くなってきた。何で電化されているのにDL牽引なのだ? 選りに選ってひたすら力行が続く登りで使うとは、何だかなぁ・・・


          

      道渓(トゲ)駅で下車 ここも炭鉱の町だ    石炭積み出しの駅のため構内は広い     ループ線のソラントンネルの案内図      トンネル内のソラン信号場で停車した 
   

    ループトンネル内でDLの排気ガスに苦しめられながら、ようやく道渓(トゲ)に着いた。広い構内には沢山の貨車が停まっている。鉄道貨物が重要な役割を担っているのを見て、
    ふだんコンテナ車か石油タンク車ぐらいしか見ることの無い私は、何だか羨ましくなった。さらに、標準軌にも嫉妬してしまう、鉄道ファンの悲しい性を噛みしめるのであった。
    さて、次は栄州から乗って来た嶺東線から、堤川(チェチョン)方面の太白線(テベクソン)に乗り換える。やっぱりローカル線の主役は急行ムグンファである。ちなみに現在、韓
    国の鉄道(コレイル)では、都市近郊の列車を除いて普通列車は存在しない。以前はトンイル(統一)号が走っていたが、全て廃止され、代わりに複数の急行ムグンファ号が互
    いに停車駅を替えながら対応しているのだ。ローカル線における合理化の波は、ここ韓国でも例外ではない。