重き「無罪」判決

大阪高裁は、4月12日、4年前の「東海道線二重事故」で業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の新大阪総合指令所の総括指令長らに「無罪」を言い渡した一審判決を支持、検察側控訴を棄却した。

事故は、平成14年11月に起きた。東海道本線塚本−尼崎間の線路に中学生が侵入し、列車にはねられる。現場に駆けつけた救急隊員・警察官が、線路に立ち入って救助作業をしていたところ、後続の特急「スーパーはくと」が時速約105キロで突っ込み、救急隊員1名が死亡、1名が重傷を負ったものである。

現場には、尼崎駅からも駅社員2人が派遣されていたが、「この線路には列車は来ない」と思い込み、見張りをしていなかった(事実認定は、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会調査報告書による。以下同じ)。

それだけではない。問題の「スーパーはくと」の1本前に現場を通過した特急「北近畿」の運転士は、指令に、「ただいま運転を再開しました。第2閉そく(信号機)50メートル手前に駅係員の方がおられますので、最徐行で願います。どうぞ」と、報告していた。「北近畿」の運転士としては、後段の「最徐行で」を強調したつもりだった。ところが、指令員は、運転には支障がないと誤解し、大阪駅で発車を待っていた「スーパーはくと」に、出発指示を出してしまう。

その後、大阪駅を発車した「スーパーはくと」に、指令からは5回、無線で呼びかけたが、運転士から応答はなかった。この列車は気動車(ディーゼルカー)で、電車と比べると走行中の騒音が大きいことも災いした。運転士は、こう供述している。

「塚本駅の手前で列車無線から誰かを呼んでいる声が聞こえたが、自分を呼んでいると認識したのは塚本駅の出発信号機を喚呼した付近であり、『はい、61D運転士です』と応答した後、輸送指令から『61D運転士、塚本−尼崎間第2閉そく付近』と言うのが聞こえた。そのときに第2閉そく信号機が目に入り、喚呼したときに白いものが視界に入った。」
(引用者注・「白いもの」とは、救急隊員の制服と思われる)

検察は、平成15年12月、新大阪総合指令所の総括指令長、副総括指令長、指令員2人(「北近畿」からの報告を受けた指令員と、「スーパーはくと」に出発指示を出した指令員)、現場にいた尼崎駅員らJR西日本社員5人を、業務上過失致死傷罪で起訴した。

たしかに、事故の責任は全面的にJR西日本にあり、弁解の余地はない。結果は重大であり、社員一人ひとりの行動に、「過失」があったとされてもやむをえない。しかし、である。こういう事故は、きちんと原因を究明して対策を打たないと、何度も繰り返されるおそれがある。原因を突き止めるには、関係者には「真実」を話してもらわないことには、始まらない。刑事裁判は、たしかに、真実を発見し、刑罰権を適正に発動するための手続であるが、「供述拒否権」(憲法38条1項)が認められる以上、限界がある。

昨年1月、大阪地裁は、総括指令長と、「スーパーはくと」に指示を出した指令員に「無罪」、副総括指令長・「北近畿」からの報告を聞き流した指令員・尼崎駅員に、いずれも執行猶予つき「有罪」判決を言い渡した。被告人側からは控訴はなされず、無罪判決に対し検察が控訴したが、冒頭に述べた結果となった。

組織としてのJR西日本に「過失」があったことは明らかだが、それを末端の社員に「押し付ける」ことに、私は、強い違和感を覚える。あくまで「個人」の犯罪を中心に規定した現行刑法上はやむをえないが、むしろ本質的に問われるべきは、社員の「うっかりミス」ではなく、会社の「システム構築責任」ではないのか。

不毛な「犯人探し」ではなく、鉄道システムとしての安全対策を着実に進めることが、殉職された救急隊員の無念を晴らすことにつながると、私たちは信じる。


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